第21話 VSガイル

火炎追尾弾ファイアホーミングバレッド


 僕は後ろに下がりながら、両手から火の玉を6つ出して、ガイルに向けて飛ばした。


 彼は腰にある剣を抜き、向かって来た6つのうち先に行っていた2つの火の玉を斬り、後ろに下がって避けようとした。

 しかし火の玉はそのまま方向を変え、彼の元へと向かった。


「チッ」


 彼は舌打ちと共に、向かってくる4つの火の玉を


「見せたくなかったんだかな」


「へぇ、凄く速いな。まるで視えないよ。剣筋が」


 彼の剣の軌道が僕の目からは全く見えなかった。でも、僕のはしっかりと捉えられていたようだ。

 僕の鑑別眼は直ぐに答えを出してくれた。すると、意外な事が分かった。


「成程ね。一振りで全て斬ったんだね。いや、掻き消したと言うべきか」


 そう、彼は剣をとても素早く横に振ることで出来た風圧を火の玉にぶつけ、掻き消したのだ。


「だから嫌だったんだ。すぐに解析されるんだからよ」


「……いや、普通わからないでしょそれ。ていうか、相変わらず脳筋すぎない?」


「は?だって他にないだろ、対処法なんて。ついてくる球なんて、消した方が早いだろ」


 彼は昔からそうだった。僕が放つ魔術を彼は剣で全て捻じ伏せてきた。

 しかし彼は良くも悪くも真っ直ぐだったので、対処はしやすかったが。


「よっしゃ、それじゃあ行くぜ!」


 そう言った後、彼の姿は消えた。

 僕は嫌な予感がしたので、僕は周りに土の壁をかまくらみたいにして素早く展開した。


 すると、


 キン!


 剣と土の壁がぶつかる音がした。

 その方向を向くと、土の壁もとい、土のかまくらにヒビが入っていた。


「やばっ!」


 僕は咄嗟に反対方向に土のかまくらから抜けるための穴を作りそこから脱出した。

 それと同時に土のかまくらは瓦解した。


「避けたか」


「あっぶな」


 後少し逃げるのが遅れていたら、あの瓦礫の下敷きになっていたのかもしれない。

 紙一重だった。


「それじゃあ、今度はこっちから行くぜ!」


 彼は足に力を込めて、地面が割れるほどの脚力で僕に向かって来た。

 そして、


「身体強化!」


 彼は自分自身に身体強化の魔術を使った。

 身体強化をつけた彼のスピードは凄まじく、すぐに僕の目の前まで来て腕を狙って剣を振った。


「クソッ!」


 僕は身体強化の魔術を掛け、彼と自分の間に爆破魔術を使い、自分の体を吹き飛ばした。

 そしてお互いの間隔が空いて、睨み合いが続いた。


(どうする、彼に魔術はほとんど通用しない。攻撃できたのも最初だけ。それ以降は防御に回っている。しかもさっきの爆破で体に無視できないダメージを負ってる。何か、何かないのか……)


 僕が自分のステータスを見ながら悩んでいると、彼はどうするか決まったらしく、行動に出た。


「身体強化!」


 彼は叫ぶとまた僕に向かって突進をしてきた。

 そして僕の目の前、ではなく左から彼は剣を横に振ろうとした。

 しかし、僕がそれを許さなかった。


土鎖バインド!」


 彼の剣、腕、足、全てに土鎖バインドをつけ、僕はその場を離れた。


「ふん!」


 彼は力ずくで土鎖バインドを壊すと、剣に魔力を込め始めた。

 僕は全身に身体強化をかけ、左手に魔術を出した。


龍殺剣ドラゴンブレイカー!」


 彼の剣は光を放ち、そして振り下ろされた。

 その光の斬撃は僕に一直線に向かって来た。

 それはドラゴンを殺す斬撃。ただの悪魔にそれを凌ぐ術はない。

 


 僕は魔術発動のための詠唱を開始した。

 その魔術は初めて自分で作った魔術。しかしその威力故に生涯で一度しか使わなかった魔術。

 詠唱が終わり、僕はその魔術の名を言った。


ノヴァ


 僕は左手で作った術式を龍殺剣ドラゴンブレイカーに向けた。

 そして術式に触れたそれは、一瞬にして消滅した。


 会場にいる悪魔全員静まりかえっていた。


「ふう。危ない危ない。うっ……」


 しかし僕は魔術の代償として、左腕に大量の切り傷が出来上がった。


 ノヴァと言う魔術はその名の通り、術式に触れたものを滅すると言うもの。

 しかしその代償として消したものの効果を行使した腕に喰らってしまう。

 さっきみたいに剣を消したら腕に切り傷が、他にも火の玉を消したら腕に火傷ができてしまう、など。

 最初使った時、腕が2ヶ月ほど使い物にならなかったので封印していたのだ。


 今回も、左腕がもう使い物にならない。力を入れると、全ての切り傷が痛んでくる。しかも、その一つ一つの切り傷がかなり深く抉っている。まじで痛い。


「まさか龍殺剣ドラゴンブレイカーを凌ぐとは。これに耐えれるやつは本当に少ないぞ?」


「耐えてないよ。その証拠に左腕がもう使えない。しかし、これ以上の戦闘はキツそうだ」


「だったらやめるか?」


「ああ、僕の棄権でいいよ。これ以上は、うっ……動きに支障が出る」


「分かった。ゴーレイン!」


「ん?ああ、分かった。シュレインの棄権により、勝者、ガイル!」


 その声が響き辺り、闘技場内は歓声で溢れた。



 ***



「それでは、会議を再会します。それではゴーレイン、お願いします」


「はっ」


 僕たちはあの後、会議室に戻った。しかし僕はその前に治療室に連れられて、左腕を包帯でぐるぐる巻にされたのだが。


「先日の勇者による侵略ですが、いくつか情報が入りました」


「それは?」


「彼らがここへ来るのに使った手段、目的、そしてそれを指示した人物ですね」


「流石です。それでは一つずつ説明をおねがします」


「はっ。まずは手段ですが、これはすぐに判明いたしました。彼らの後を追い、そこにあったのはポータル、と呼ばれるものです」


「ポータル、ですか?」


「はい。それは魔力を注ぐことで、簡単に世界間を移動することができる、と言うものです」


 その言葉に部屋の中の空気が一瞬で重くなった。


「その必要な魔力値は?」


「こちらから向こうへ行く場合は500、彼方からこちらにくる場合は3000、と計測されています」


「そんな少ない魔力で行けるとは……向こうの世界の技術力はだいぶ進歩しているみたいですね」


「はい、私たちよりはまだ進歩していないようですが、それでも危険なことには変わりありません」


「わかりました。そちらの解析を速やかに行うように」


「はっ」


「では次、お願いします」


「はっ。次に、今回の目的についてですが、これはこの世界の調査、と言う名目で来たそうです。彼らは調査団の護衛として同行したとされています」


「なるほど。冒険者ギルド対策ですか。それで?」


「はっ。最後の指示した人物ですが、これはあくまでも国の貴族が指示したとされています」


「実際は?」


「女皇陛下自ら指示しました」


「そうですか」


「一応音声もありますが、どうでしょう?」


「それはいざとなったら使うので取っておいて下さい」


「分かりました」


「それでは、これについて皆さんどう思われますか?」


 そう言ってアリシアは僕らに向けて質問をしたのだった。




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