第500話 3人目のZ級Ⅲ

 まさか私がこうやって自由に外を出歩けるとは思わなかった。ナリユキ達に感謝しないといけないわね。


「それにしても綺麗なところね」


 私が今案内されているところはマーズベル湖だ。ノアが操る地風竜ローベスクが私達を乗せて湖畔を駆けていた。


「そうだろ? 俺の自慢の国だ。まあ、ランベリオンとアリシアの協力がなければ、マーズベルを開国できなかったけどな。勿論、ミクちゃんの力も大きい」


「成程ね。こんな綺麗な景色は何年ぶりに見たか分からないわ」


「――何百年ぶりの間違いじゃね?」


「それもそうね」


 私はマーズベル湖を眺めながら考え事をしていた。黒龍と博士は必ず倒さないといけない存在。黒龍は原初の三神さんしんのうちの一人、創造神ブラフマーが生み出した産物で破壊の象徴。そして何の因果かユニークスキルは破壊神シヴァを有している。ナリユキはいいところまでいったと言っていたけど、私は黒龍が全力の本気を出していたとは思えない――。ナリユキは、私、ミクちゃん、青龍、魔王アスモデウス、そして協力要請中の魔王ルシファー。Z級が6人束になって黒龍を倒そうとしている。そう。これでやっと黒龍に並ぶ戦力なのよ。今の黒龍と2,000年前の黒龍は別物なのよ。だから、アジトが分かっているのなら、直ぐにも倒しておきたいところだけど無理な話ね。


 そして博士も気がかりだけど、世界で暗躍しているミロク率いる創生ジェスの存在ね。原初の三神さんしん創造神ブラフマー維持神ヴィシュヌ破壊神シヴァは十分に強かったけど、それをさらに上回るのは、至上神ゼウス万物神アルカナ天地神アースとされている。そしてそのさらに上にいくのが維持神ヴィシュヌを持つミロク。維持神ヴィシュヌの力を使い、全知全能ゼウス森羅万象アルカナ天変地異アースの力を得た最強の森妖精エルフ。普通に考えれば手を出さない方がいいけど、ミロクは何か得るためにアリシアの森羅万象アルカナを狙っている――。戦闘は避けられない。その為にもナリユキとミクちゃんには黒龍を倒してもらい、もっと強くなってもらわないと困るわ。


「ねえナリユキ。ミクちゃん」


「ん? 何だ?」


「どうしたのデアさん」


「私は極力黒龍との戦いには参加しないわ。貴方達だけで倒してみなさい」


「あれ? 協力してくれるんじゃないの?」


「私が参加すれば確かに勝率は上がるわ。それに黒龍は2,000年前と別人のような強さを誇っている。ただ、貴方達が黒龍に勝てなければいずれ戦うであろうミロクに勝つこともできないし、博士にも勝つことはできないわ」


「――待て! コヴィー・S・ウィズダムは黒龍ニゲルより強いのか!?」


「ええ。私はある程度調整されているけど、博士は自分のメンテナンスをもっとしっかり行っている筈よ。恐らく黒龍より強いわ」


 私がそう言うとナリユキもミクちゃんも驚いた表情を浮かべていた。


「博士を倒すのは私も協力するし、黒龍戦でも状況が悪ければ参加するわ。私もだけど、貴方達ももっと強くなってもらわないといけない。黒龍を倒せば膨大な経験値と強力な適正スキルを入手できる。ナリユキに関しては神理ヴェリタスがある以上、知性・記憶の略奪と献上メーティスで黒龍のユニークスキルを奪えるかもしれないしね」


「――ん? 黒龍ニゲルのユニークスキルが何なのか知っているのか?」


「勿論よ。私を誰だと思っているの?」


「いや、ハッキリ分からん――」


「それもそうね。黒龍は破壊神シヴァというユニークスキルを持っているの。伝承ではあらゆるモノを破壊する為の能力だと伝えられているわ。貴方が持っている創造主ザ・クリエイターの元となる神、創造神ブラフマーと同じ世代にいた神の能力よ。創造神ブラフマー維持神ヴィシュヌ破壊神シヴァは、この世界では原初の三神さんしんと呼ばれているわ。地下世界アンダー・グラウンドの石板にそう書かれているわ」


 私がそう湖を眺めながら言うと沈黙が続いていた。ナリユキとミクちゃんの顔は見ていないけど呆気にとられているのが容易に想像できるわ。


「いい風ね」


 私がそう呟くと「いや、もっと何か情報ありそうな雰囲気出てたのに急に!?」と謎のツッコミが入ってきた。


「これ以上はまた追々話すわ。それより私にマーズベルの良さをもっと教えてほしいわ。今、この穏やかな風を感じるだけで心が安らぐからね」


「――知性・記憶の略奪と献上メーティス使っても良い?」


「やれるものなら力づくでしてみなさい」


 私はナリユキの顔を見てそう悪戯な笑みを浮かべた。するとナリユキは「ぐぬぬ――」と唸っていた。本当、からかうのが楽しい。


 私はただこの景観を今は楽しみたい。この地風竜ローベスクの馬車ですれ違う人々は、全員が一礼をナリユキとミクちゃんとノアにしていた。それに人ではなくある程度の知性を持った魔物なのだろう。その魔物ですら三人に首を少し動かすなり、鳴いたりなどの工夫をして挨拶をしていたのだ。これらは全てノアの躾だと言う。


 ここまで魔物の扱いに慣れているなら、私が使役する八本脚軍馬スレイプニルも扱えるかもしれないわね。更なる激闘が今後増えていく。そう考えると、ノアと八本脚軍馬スレイプニルを会わせておいたほうがいいわね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る