第492話 最強の美女転生者の挑戦状Ⅱ

「別の事を考える余裕があるのね。私じゃ相手にならないかしら?」


 デアはそう言って剣速を加速させた。いや十分相手になるって!


 スキルを見たところでは俺の剣技の方が勝っている。が、一つの刀でデアが持つ二つの強力な刀スキルを止めるのは至難の業。通常時の戦闘値は相手の方が上という事もあり、攻撃を受け止める事で精一杯で攻撃に転ずる事ができない。


「十分すぎるんだよ!」


 俺がそう言ってデアを思い切り振りきると、デアは一旦後ろへ跳んで後退した。


「驚いた。凄いパワーね」


「そらどうも」


 俺がそう呟くとデアは不敵な笑みを浮かべた。俺はその笑みを見て背筋に悪寒が走った。


「思った通り、今まで戦ってきた相手の中でもトップクラスの厄介さね。戦闘値だけは私の方が上。なのに、今少し刀を交えただけで、長期戦になりそうな気がしたわ。でも、このスキルを先手で使えばどうかしら?」


 デアのMPが右手に集中していた。しかも俺は今までこんな膨大なMPとパワーがあるスキルを視たことが無い。


「コレをいきなり受ける人は久しぶりよ。光栄に思いなさい。神槍グングニル!」


 デアはそう言って巨大な光の槍を投げ飛ばしてきた。マズい――。そう思った時には、俺の体に神槍グングニルが腹部に突き刺さっていた。


「なりゆき君!」


「ナリユキ殿!」


「ナリユキ様!」


 三人が俺の心配をしてくれていたが、まあ大丈夫。痛みはない。


「大丈夫だ」


「無駄よ。このアルティメットスキルは発動した瞬間に直撃する事が確定なの」


「ステータスの説明通りか――いきなりアルティメットスキルを放ってくるとはな。アニメでも小説でも本でも聞いたことが無いぞ」


「だからこそ、MPを200,000,000消費して放ったのよ。アニメはアナタ達の時代の文化だから見たことはないけど、本では確かにそんな展開ないわね。私ずっと疑問だったのよ。相手が強いと分かっているなら、自分が持っている究極の技で先手を取ればいいのにって――」


「そりゃごもっともだな」


 俺がそう言ったと同時に神槍グングニルは消えた。しかし、神槍グングニルの効果の通り、体力とMPが一気に減ってしまった。お陰で戦闘開始して間もないのに、疲労感が半端じゃない。先日の黒龍ニゲル戦の時より疲れている。


 そして何より150,000,000あったMPが、残り15,000,000になってしまったのが最大の苦悩――。


 この状態で無双神冥斬むそうしんめいざん黒絶斬こくぜつざんを使ってしまうと、戦闘中の疲労も考慮すると俺が動けなくなってしまう。


「ユニークスキルで戦うしかないか」


 神理ヴェリタスが無ければ完全に詰んでいたなコレ。


「仕方ないか」


 俺は復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムで先手を打つことにした。


 しかし、問題はデアに触れることができるかどうかだ。


「よし」


 やはり黒紅煉刀くろべにれんとうで圧倒するしかない。


「さあ来なさい」


 俺はデアにそう挑発された。だがイラッとはしない。これは彼女からの挑戦状だ。


「望むところだ」


 俺とデアの距離は10m程離れていたが、俺は早速デアの後ろをとった。首を狙って横薙ぎを行う。


 キイン――! 


 俺の攻撃はデアが右手に持つ神樹の宝刀セフィロト・スパーダで止められた。まあ、それは読んでいる。


 デアはパッシブスキルの天眼の未来予知眼ヴィジョンアイで未来が視えている。つまり俺がどのような攻撃をしてくるかは全て知っているのだ。なら今俺が出来る事は、その視えているデアの未来のなかで、デアが反応できない動きをすればいい。至って単純シンプルだ。


 俺の黒紅煉刀くろべにれんとうの連撃にデアは二つの刀で俺の攻撃を止めることに精一杯になっていた。ようし――これなら――!


 俺は左手を伸ばしてデアの首元に触れた。これで復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムを仕掛けることができた。あとは時間を待つだけ。


「何が可笑しい?」


 俺がそう問いかけるとデアはニコっと笑みを浮かべた。その笑顔は天真爛漫。俺からすればそれが妙に気味が悪い。普通なら可愛いで済むんだけど戦闘中だからな~。


「ううん。別に何でもないわよ」


 その笑顔。その口調。その余裕。全てが気味が悪い。まるで彼女の掌で踊らされているようだ。


「そうか――!」


 デアはユニークスキル、天衣無縫オーディンがある。そして俺には神理ヴェリタスがある。デアは未来予知眼ヴィジョンアイで俺の攻撃を受けることは分かっている。同じ不滅イモータルを持つ者同士。勝負の決め手となるのは体力が底を尽きた方が負け。前提として俺達同士のレベルでは互いに死ぬことは無いからな。だとすると、未来予知眼ヴィジョンアイで視えているのに、俺の手を避ける動作すらしなかったのは可笑しい。それはデアには天衣無縫オーディンというコピー能力があるからだ。いきなり、神槍グングニルを使ってくる彼女なら、俺を天衣無縫オーディンで、いきなりコピーして、俺のスキルを使えばいいだけの話。それをしなかったのは何らかの条件が揃わないと、俺をコピーする事ができない。或いはスキルを使用できないという裏設定があるはずだ。スキルをステータスで確認できると言っても、細かい設定までは視る事ができないからな――。


「成程、俺のスキルをコピーする為に、わざわざ復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムが発動中の俺の手に触れられたんだな?」


 俺がそう問いかけるとデアはこう一言。


「流石ね。私が思った通りの人だわ」


 逆にデアは俺の事をどれだけ予測しているんですかね? 戦うの怖いんだけど。

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