第472話 黒龍との死闘Ⅲ

 俺と黒龍ニゲルの刀が衝突し合った。


 今までに見せたことがない程強い黒龍ニゲルの力。俺も負けじと全身全霊を込めて立ち向かった。歯を食いしばり「うおおお!」と荒々しい声を上げた。漫画やアニメでよくそういうシーンがあるけど、俺はぶっちゃけそういうのあまり好きじゃないタイプだ。だって無言で淡々と戦っているほうがクールで格好いいじゃん? と安直な理由だ。でも、やっぱり真なる力を発揮しようとするときは声が出してしまうものだ。


 黒龍ニゲルは手を抜いているところが垣間見れていたが、今回に関しては文字通りの全力だった。正直なところ腕がもげそうだ。しかし負けられない! そう強い志を持って刀に目一杯力を入れていたところ。


 ガキン――。


 そう金属音が俺の耳に響いたと同時に、俺の手の感触は黒龍ニゲルの右腰から左胸にかけて一刀入った。そして俺も黒龍ニゲルが受けた同じ部位に焼けるような痛みを感じる。出血はしていないのに刀で斬られた感覚だ。


 痛い――。苦しい――。けれどその感覚は黒龍ニゲルも同様だ。何なら、黒龍ニゲルは体に深い傷を負っている。黒龍ニゲルは、今までに見せた事がないくらいに苦しんでいる。それもそのはず、俺が黒絶斬こくぜつざんで斬った部分は、噴水を彷彿させる程の出血量だった。


 俺も同じだ。死にたくなる程の激痛――。しかし、黒龍ニゲルがこの攻撃だけで気絶するほどヤワじゃない化物なのは分かっている。


「動け! 俺の体!」


 激痛で全く脳の指令を聞いてくれない俺の体。このスキルに関しては自分との戦いだ。アドレナリンがどれだけ分泌されていようが、この強力すぎるアクティブスキルはそれを遥かに凌駕する。


 それもそうだ。このアクティブスキルは斬ったという結果のみを残す強力なスキル。黒龍ニゲルでなければ、対象の体を真っ二つにして、容易に絶命させる事ができる。つまり、俺も死んだ方がマシに思える程の激痛が走る訳だ。


 気合いを入れた大声を上げ続けた俺は、やっとの思いで次の攻撃に転ずる事ができた。


「もう一度喰らえ――!」


 俺が繰り出したアクティブスキルは無双神冥斬むそうしんめいざんだ。俺が持つ強力な剣スキル2つで黒龍ニゲルを仕留める――!


 瞬く間に、体から大量の血を流している黒龍ニゲルの体に、5,000刀の攻撃が入った。今の俺のこの状態だ。流石にさっき繰り出した無双神冥斬むそうしんめいざんのキレは無い。しかし、弱っている黒龍ニゲルにトドメを刺すには十分だ。


「ガッ……」


 黒龍ニゲルは全ての毛穴から出血しているのではないか? そう思えるほど鮮血を散らして黒龍ニゲルはとうとう地面に倒れこんだ。


「どうだ……」


 俺は思わずそう呟いた。そしてただならぬ達成感に満ち溢れていた。口角が緩んで仕方ない。


「ハハ……!」


 これで終った――!


 そう思った時だった。


 心臓からにじんわりと広がる血。一体何が起きたのか分からなかった。


「俺様の……悪あがきだ。ナリユキ……」


 そう俺の前で倒れこんでいる黒龍ニゲルは俺に対して人差し指を指しながら、そう小さく呟きながら不気味な笑みを浮かべて目を閉じた。


「そうか……」


 俺は理解した。ボロボロになった黒龍ニゲルは俺を殺す事を諦めてなかったんだ。音も何も無い光線のような何らかのアクティブスキルを使用して、俺の心臓を貫いたのだった。


「油断した……」


 一瞬の油断が命運を懸けるとは言うがまさにこの事だったのか。


 俺は意識が遠のき、視界が真っ暗になっていた。あの時と同じだ。全身が一気に冷えていく感覚。


 俺はここで死ぬんだ――。

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