第440話 冥王ゾークⅥ

 俺はその裏拳を左手で受け流した。見て盗み、マカロフ卿の記憶にあった体験談。それらをあわせてモノにしたレンさんが得意なジークンドーのように、全ての動きを最小の動き行い――。


「そこだ!」


 俺はゾークの顔に黒紅煉刀くろべにれんとうの突きを繰り出した。しかしゾークは口をパカッと大きく開き。


冥覇光めいはこう!」


 そう言ってゾークは黒い稲妻を帯びた怪光線を放ってきた。当然俺はそんな至近距離でそんな技が放出されると思ってなかったので、咄嗟に顔を覆ってガードをするしか防ぐ方法は無かった。


 結果、両腕は痛烈な痛みと出血。そして痺れと火傷の痕が残ってしまった。当然、自動再生と自動回復で俺の身体は元通りになる訳だが、こんなハイペースで攻撃を喰らっていたら先に俺の方がやられてしまうな。


「驚いているようだな」


「そりゃあ口から光線を出してくるなんて思ってもみなかったからな。どうせそれ目からも出せるんだろ? できるだけ広範囲での攻撃をしたかったから、口から吐いただけで、眼からも細い光線を出すことができる」


「いかにも。なかなか鋭い洞察力だな。どうだ? 怖気づいたか?」


「別に? それに俺はある仕掛けをしたからな」


「ある仕掛け?」


「ああ。さっき俺はアンタの拳を受け流しただろ? それに仕掛けがあるんだ。後は待つだけだ」


 そう。俺があの時に仕掛けておいたのは復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムだ。やっと手で触れることができたから仕掛けてみたものの、正直にゾークに対する恨みはそんなに無いので、このユニークスキルだけで倒そうとするのであれば、何十日もの日数を要するだろう。なので俺が狙っているのはそこじゃない、復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムを発動させて、隙が出来ている間に黒絶斬こくぜつざんを放つ。それが俺の作戦だ。


「勝ち筋は見えた。あとはさっきも言ったように俺が自分との戦いに勝つだけだ」


「ほう――その自信の正体が気になるな。楽しみにしておこう」


「敢えて聞かないのか?」


「聞いたら面白くないだろう? それに聞いたところで答えてはくれぬだろ?」


「よく分かっているな」


 俺がそう言うとゾークは不敵な笑みを浮かべていた。そこからも攻撃と防御の応酬はしばらく続いていた。


「ハアハア――」


「まさかここまでとはな……」


 俺もゾークも死力を尽くした戦いを繰り広げていた。戦闘時間はおよそ二時間が経過していた。


「2人共凄い集中力」


「Z級同士の戦いではあれば無理もないだろうな」


「自分と実力が似ている相手との戦いはなかなか終わらないからのう。しかし、ナリユキ閣下がゾークを1人で倒すことができたなら、また大きな成長が期待できる。妾が見た限りだと、総合的な強さは黒龍ニゲル・クティオストルーデの方が上だと思うからのう」


青龍リオ・シェンラン様はどう思いますか?」


「――ふむ。確かに黒龍ニゲルのほうが若干上ではあると思うが、冥眼とやらの特殊な眼の効果が戦いの鍵となるからな。今のところ厄介な効果と言えば受けたダメージをナリユキ殿にも与えるという効果だ。余からすれば今のナリユキ殿は立っていられるのは不思議なくらいだ。互いに攻撃を当てた回数であれば、ややナリユキ殿が勝っている。しかし、受けた痛みはゾークの倍――ナリユキ殿が尋常では無い精神力を持っているからこそ無事に見えるだけだ。ミク殿もそう思うだろう?」


「……ええ」


 3人のそんな会話が聞こえた。ミクちゃんは俺の事を心配そうな表情を浮かべながら見守ってくれていた。ミクちゃんの勘も当たっているし、青龍リオさんの考察も当たっている。正直なところ俺は心身ともにボロボロだ。防御系統のスキルが乏しい事は救いではあるが、ダメージを与えても俺にも同じ痛みが与えられるという厄介な効果は戦いが長引けば長引くほど辛い。


 それに俺が勝とうとしている作戦は復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムの爆発から、黒絶斬こくぜつざんでゾークを斬りつけるというもの。当然、その痛みは俺にもくるんだ。仕掛けてから約二時間。俺が恨みを持っている人間であれば、スキルを発動すれば即死するレベルでもある。まあ俺がそんな大きな恨みを持つ奴なんて正直いないんだけどよ。胸糞悪い思いをした人間ならもうこの世にいない。アードルハイム皇帝くらいだ。コードに関しては完膚なきまでに叩きのめしたしな。


「そろそろ一気に畳みかけようか」


 ゾークはニッと不気味な笑みを浮かべてると黒い稲妻を帯びたエネルギー弾を辺りに撒き散らした。このアクティブスキルは冥覇弾めいはだんと呼ばれる技で、先程までの戦闘で何度か出されたスキルだ。しかし、その時は一発の単体で出してきたが、今回の数は100くらいあるのではないだろうか? まるで、放雷電ディス・チャージのように周囲に放出している。しかもこれの厄介なところが、全て自動で追尾してくるところだ。


 俺はこのアクティブスキルを必死に避けて、スキル同士を衝突させて消滅させたり、天を穿つ者エンデュアーによる相殺を行った。ただそれも限界があった。その圧倒的な弾のスピードは、天眼が無ければ避けるのは困難だろう。しかし天眼をもってしても今の俺では――。


「グアアアア――!」


 焼かれているような痛みが全身を走る。今まで声を出すのを我慢していたけど、もう限界だ。流石にダメージが大きすぎる。


 足にグッと力を込めて何とか踏ん張った。


「ほう――冥覇弾めいはだんを一気に数発喰らった割には大したものだ」


 俺はそう言われて「余裕」と言ってみせた。そしてある違和感に気付く。


「ちょっと待て。アンタ、大技を連発しておいて何でMPによる体力消費が無いんだ?」


「よく気付いたな」


 ゾークはそう言ってまたも不敵な笑みを浮かべていた。

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