第439話 冥王ゾークⅤ
俺は早速縮地を使って一気に距離を詰める。さっき言った通り、ゾークの腹部に一太刀浴びせることができた。しかし驚くのは浴びせた後の話だ。
「っつ――!」
俺は胸に痛烈な痛みを感じた。まるで切り裂かれたような痛みだ。胸が熱く何故傷を負っていないのか不思議な感覚だ。ダメージを受けた事により、当然俺の透明化は解除される。
「
結論、黒い稲妻を拳に帯びただけの何の変哲も無いパンチだ。大剣を左手で持ち替えて右手で俺を叩きつけるように殴った。当然ながら俺は頭部にもまるで頭を割られたと錯覚するほど強烈な痛みを覚えた。まるで崖から何度も何度も転がったような全身の痛み。キツイ――。
「驚いているのか? それもそうか。身に覚えのない痛みに襲われたのだからな」
得意気にそう話しているゾークは自身の胸を指す。
「ん? どういう事だ?」
「我が受けた痛みを返したのだ。これも冥眼の効果1つ。しかし、冥眼の効果により我は常時攻撃力がアップしている。それにより我が受けたダメージよりも多くのダメージがナリユキに与えられたのだ」
「成程な。それで斬った後に俺にも信じられない程の痛みが胸に襲い掛かって来た訳か」
「いかにも――さあどうする? 我に攻撃をすればするほど自分にもダメージがくるぞ?」
そう問いかけられて「確かにマズいな」と答えた。ダメージと言っても1つだけ救いがあるとすれば、痛みは感じるけど胸には外傷がない。対してゾークは俺が斬ったから、既に回復はしているけど、胸に傷を負い痛みを伴った。つまり受けた痛みがそのまま俺にも与えられるという事で、外傷が無いので俺が身体を再生する必要は無いと言う訳だ。ならば、俺は何と戦わないといけないのか。これは自分との戦いだ。痛みを耐え抜きながらも攻撃を仕掛け続けるという精神力を試される局面。
いずれにしろ、俺とゾークのどちらかが気絶するか、降参するまでは戦う事になるので、話術での交渉で戦いを避ける手段を取ることはできないのは当然だ。なので、俺に残された選択肢は殺さない程度に攻撃をし続ける事だ。
「なかなか面白いじゃないか。つまり俺は自分自身との戦いになる訳か」
「どういう事だ?」
「冥眼の効果で受けた痛みは感じるけど、アンタと同様の傷を負う訳じゃないからな。だから俺は痛みに堪えながらアンタを攻撃しないといけないから自分との戦いだなって」
「ほう。よくぞ見破った。確かに痛みは与えるが、受けた攻撃で付けられた傷をそのまま付ける効果ではない――しかし、自分との戦いと言っているが、自分と我との戦いになることを忘れてはいかぬ」
「おっとそれは大変だ」
痛覚無効が無効化されているのは非常に辛いがそれは仕方ないが、全く方法が無い訳ではないんだ。この
俺は
「は!?」
俺は驚きを隠せなかった。何故か俺に付いていた光のオーブが消えたからだ。確かに本番では使った事は無くて、試用運転は数回しかしていないけど、説明書はきちんと読んだし使い方は間違っていない筈だ。何故――?
「それも冥眼の効果だ。回復系のスキルを我が視認できた場合、無力化することができる。つまりナリユキが行える回復は、自動回復と自動再生の2つのパッシブスキルのみとなる。あそこにいる人間――ミク・アサギによる
「成程――そうきたか。どのみち俺には自分で堪える方法しかなかったという訳か」
「そういう事になる。小細工は通用しないという訳だ」
うわあ。Z級ともあって面倒臭さは異常だな――今出ている冥眼の効果だけで3つもある。金縛り、痛み返し、回復除去だ。ざっくりとまとめてしまったが、あとどれくらいの能力があるのだろう? 魔眼のようにたくさんの能力が備わっているのだろうか? はたまた、天眼のように能力の数そのものは少ないのだろうか? いずれにせよ戦い辛さは今まで出会って来た魔物の中ではトップクラスだ。苦戦した戦いであればアヌビス戦を思い出す。
「行くぞ!」
そう言って襲い掛かって来たゾーク。その巨体から振り下ろされる大剣の連続攻撃。スピードは速いものの、慣れもあり、天眼の効果もありで攻撃そのものは難なく避けることができる。ゾークも恐らくそれを分かっている筈だ。
「攻撃は当たらないぜ。何が狙いなんだ?」
「時期に分かる!」
そう言って攻撃をし続けてくるゾーク。攻撃を何度も避けていると違和感を覚え始めた。
「攻撃速度が上がってないか?」
俺はそう呟きながら攻撃を避けてみせた。実際に俺の目に映るゾークの剣撃を避けるのがだんだんとしんどくなってきている。連続で攻撃を避けているので、体力の低下や集中力の低下も考えられるけど、自分の体力がどれくらいあるなんて事は分かっているし、個人としてはまだまだ集中力を切らさずに、考えながら戦える自信はある。単純にそれら2つでは済ますことが出来ない次元なのだ。一体何がそうさせているのか――。
そろそろ攻撃を仕掛けないとマズいな。尋常では無いくらいスピードが速くなっている。天眼を使っているとは言えど、カルベリアツリーのダンジョンの龍騎士を遥かに上回るような剣の速さになってくると流石にマズい。それこそ俺が一太刀浴びせられるし、何なら――。
俺はゾークの後ろに縮地を使って回り込んだ。
「甘い!」
そう言ってきたゾークは俺に対して裏拳を仕掛けて来た。
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