第426話 黒龍復活Ⅶ

 俺は殺戮の腕ジェノサイド・アームを使って、黒龍ニゲル・クティオストルーデのMPを吸い取った。吸い取っていて思ったのは桁違いのMPだ。まさに底無しのMPと言ったところだ。


「おのれ人間……!」


 この龍にも同じだったようだ。どうやらMPを一気に吸い取られると、この世界では抵抗する力が極端に弱くなるらしい。


「止めろ!」


 と、まあこんな感じで怒号を散らされて俺はエネルギーの嵐に吹き飛ばされてしまった。それはまるで台風の中にいるようだった。


 しばらくしてその抵抗が止むと、ゼエゼエと息を切らしながら俺を睨みつけてくる黒龍ニゲル・クティオストルーデの姿があった。


「許さん――」


 鬼気迫る目つきをした黒龍ニゲル・クティオストルーデには俺を確実に殺す――そんな念が込められているようだった。


「貴様等全員あの世へ送ってやるわ」


 MPを大量に減らしたのに一体何をしてくるんだ? そう思っていたが――。


 俺を睨みつけて来た目は相当ヤバかった。


「皆逃げろ!」


 自分で言って解っている。逃げる? そんなのどうやって? ってな。そんないきなり逃げる事なんてごく一部の人間しかできない。


 なので俺は念話でこの戦闘に参加している全員に、《何でもいいから防衛スキルを発動しろ!》と命じた。


「あばよ」


 俺はそのままミクちゃんの所へ行く。俺がミクちゃんの前に立ち、その後ろにミクちゃん。さらにまたその後ろにはフーちゃんやランベリオン達がいた。


 次の瞬間。耳をつんざくような轟音と共に辺りは眩い光に照らされた。エネルギー量を考えるとこの辺りを吹き飛ばす大爆発だ。しかも今までに喰らったことがないような桁違いの威力――。


     ◆


「っつ――」


 あれからどれくらい経ったのだろう。俺は完全に意識を失っていた。そう思いながら目を開けると、辺りに転がっているのは酷い怪我を負った戦士達。その異様な光景を見て真っ先に心配になったのは――。


「ミクちゃんはどこだ!?」


 俺が辺りを見渡していると俺が倒れていた場所から30m程離れた距離にミクちゃんが横たわっていた。


「頼む……」


 俺は恐る恐るミクちゃんに近付いた。大丈夫な筈――。


 仰向けになって倒れているミクちゃんを見て俺は焦燥感でいっぱいになっていた。震える手に対して必死に、止まれ! 落ち着け! と強く念じた。


 俺はミクちゃん心臓部に触れてみた。


 ゆっくりだけど動いている――。死んではいない。


「ふう……」


 とりあえずは大丈夫そうだ。もしミクちゃんが死んでいたら――そう思うと、本当にどうしていいか分からなくなりそうだからだ。そもそも、あの巨大な爆発が起きる前に星光の聖域ルミナ・サンクチュアリを展開したのに、ミクちゃんが倒れている場所と俺との距離が離れすぎている。そう考えるとミクちゃんの死が頭によぎるのは当然だ。


 立っているのは俺だけだ。そして黒龍ニゲル・クティオストルーデの姿も見えない。果たして何処に行ったのだろうか。


 俺は辺りを歩きながら仲間の安否を確認することにした。目に見える人達全員の心臓部に触れてみる。


 結局のところ、ランベリオン、アリシア、フーちゃん、メシア、青龍リオさん、マルファスさん、アテナさん、アスモデウスさんも無事だった。ただ――。


「ごめんな皆」


 うちの国の犠牲としては森妖精エルフが20人程犠牲となっていた。そして青龍リオさんが集めた前線で戦う戦士達は2/3程が死亡していたのだ。場所も悪かったし彼等彼女等に強力な防衛スキルが無かった招いた結果だ。犠牲者を出さないで戦うのは無理だと分かっていたが、流石にこの結果は酷すぎる。


 それにだ。この場所にいた人間の犠牲なだけであって、辺りが森だったはずなのに関わらず、樹が1本も残っていない事を考えると爆発規模は相当なものだ。勿論奴が封印されていた洞窟もドラグーンフォールも消えている。そうなってくるとオストロンの国民の安否が心配だ。


 そう思い、ドラグーンタワーの周辺を千里眼オラクルアイで覗いてみた。流石にここから800km程離れている都市部までは被害は無いらしい。ただ、この有様なので近くにあった集落などの犠牲者がいるのは当然だ。


 続いて黒龍ニゲル・クティオストルーデ千里眼オラクルアイで覗いてみた。しかし、何らかの磁場か何か阻害されているのだろう。今回は黒龍ニゲル・クティオストルーデの様子を視ることができなかった。


 黒龍ニゲル・クティオストルーデが逃げた理由――。


 それに関しては、MPを殺戮の腕ジェノサイド・アームを使って吸い取ったのが奴の逆鱗に触れたのだろう。そう考えると、相当な量のMPを吸い取ることができた。マズいと思った黒龍ニゲル・クティオストルーデは先程のアクティブスキルなのか、アルティメットスキルなのかを発動して逃げたと考えるのが妥当だろう。そうすると厄介なのはここからだ。この世界の人々が奴の虐殺の対象となる。犠牲者はここにいる60人程では済まない。


 しばらくしているとオスプレイが飛んで来た。


 オスプレイが着陸すると出て来たのは、パラディン島に残されていたノア、ベリト、ベルゾーグ、アリス、フィオナ、マカロフ卿、メリーザ、スー、レイ達黒の殲滅軍ブラック・ジェノサイドの面々だ。


「ご無事でしたか!?」


 そう言って俺の容態を過保護の母親ばりに心配してくるベリト。何なら少し涙目になっている。


「大丈夫だ。皆も大丈夫。ただ、あそこにいる人達は全員」


 俺はそう言いながら首を左右に振った。すると、察したベリト、ベルゾーグ、アリス、フィオナは暗い表情を浮かべていた。


「少なからず犠牲はつきものだからな。気を落とす必要は無い」


 マカロフ卿はそう言って葉巻に火を点ける。


「……私は皆を治癒ヒールします」


「ありがとう」


「いえいえ。何もできなかったのでこれくらいの事はさせて下さい」


 メリーザはそう言ってまずはミクちゃんの方へ駆け寄ってくれた。


「何か悪いな。メリーザに気を遣わせてしまって」


「別にいいさ。ミク嬢が一番心配なんだろ?」


 マカロフ卿が俺にそう問いかけてきた。


「まあそうだな」


「強くなったもんな。それでもこうなってしまったのは敵が想像以上に強かった訳か」


「そうだ。早く態勢を立て直さないとこの世界は火の海になる。立ち止まっている暇はない」


 俺がそう呟くと、ベリト、ベルゾーグ、アリス、フィオナは黙って頷いた。マカロフ卿は「前向きな言葉が出て嬉しいよ」と言って安堵の表情を浮かべていた。


 まだまだ強くなる必要があるようだ。




 

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