第392話 万事休すⅡ
「さあ見せて下さい。君達のパワーを」
奴がそう言って眼鏡をくいっと上げると、バフォメット達は俺達に襲い掛かって来た。
消えたと思えばすでに腹部に強烈な一撃を喰らっていた――。息が詰まる程の強烈な一撃だ。先程のバフォメットの先制攻撃を何名かは喰らっていたようだ。ただエヴァだけがバフォメットの拳を剣で受け止めていた。
「転生者を舐めてもらっては困るわ」
そう言ってエヴァはバフォメットに一太刀を浴びせる。これには奴も「ほう――」と声を漏らしながら物珍しそうにエヴァの事を眺めていた。
「俺達も続くぞ!」
俺の号令に、アリスとフィオナが「うん!」と頷いた。エヴァはどうやら一人でバフォメットを倒すようだ。残りの1頭はシュファ、カルロータ、ランベーフが相手をしている。
「ものすごいスピードですね」
「それに一撃が重たい」
アリスとフィオナはそう言って冷や汗を流しながら乱れている呼吸を整えていた。そんな中、バフォメットは再び俺達に襲い掛かって来た。
「グオオオオオオ!」
「因みに奴の能力は?」
「分からないです」
「あたしも分からない」
「仕方ない――見極めるしかなさそうだ」
そう会話をしていると、バフォメットは「グオオオオオオ!」と叫びながら襲ってくる。実際、バフォメットの能力は未知数だ。下手に動くとやられてしまう――そう思っていた時だった。
ブオン――と不気味な音がしたかと思えば、バフォメットは両手に禍々しい邪気を纏った黒刀を出現させた。あれは確か
と、まああれやこれやと考えている暇はない。
「俺が囮になる。2人はその隙にたたみかけてくれ」
「それじゃあフォルボスさんが」
「大丈夫だ。幸か不幸か、この体になってから痛みに鈍くてな」
アリスもフィオナも納得がいっていない様子だったが、「分かった」と頷きながら2人は散開した。
「お前の相手はこの俺だ!」
俺がそう言うとバフォメットは再び雄叫びを上げて俺に
「やれ―!」
俺がそう叫ぶとアリスとフィオナが目を光らせて、バフォメットの後ろをとっていた。
バフォメットが後ろを振り返った瞬間だった。アリスは
これでダメージを与えることができるはずだ!
そう思っていた。しかしその期待は大きく裏切られることになる。
「は? 嘘だろ?」
バフォメットは「グオオオオオオ!」と耳をつんざくような雄叫びを発したと思えば、2人が放ったアクティブスキルがかき消されたのだ。
俺達3人はその光景を見て驚かない筈がない。同時に俺達3人に隙が出来てしまったのだ。
隙が出来た――そう認知した頃にはもう遅かった。
アリスとフィオナが横たわる。フィオナは硬質化のパッシブスキルを持っているが傷は深い。それに俺達とバフォメットの戦闘値の差が開きすぎているのに、俺達は一撃を喰らっても死んでいない。そう考えると、バフォメットが手加減をしていても可笑しくないのだ。そうなると考えられるのは――。
俺は咄嗟に奴の顔を見た。すると奴は不敵な笑みを浮かべている。俺達をまるで玩具のように扱っている事もそうだが、一番はまだまだバフォメットの力はこんなもんじゃないぞという暗示だ。
「気に食わないぜ」
「まだまだ余裕があるようですね。それではもう少しだけギアを上げてみましょうか」
すると、バフォメットの体表が赤黒く変色し始めた。
「体表の色が変わった!?」
「バフォメットは怒ると体表が赤黒くなるんですよ。当然戦闘値も上がりますよ」
再び襲い掛かって来るバフォメット――。俺は気付けば再び体を斬られていた。一気に力が抜けるようだ。頭もくらくらする――。
「さっきまでの勢いはどうされましたか!? せっかく伝説の魔物を出したのに……しかしこれはこれで愉しいですね。バフォメットの力がこれほどとは……! これぞまさしく僕の最高傑作です! これほど強いバフォメットならあの方々も喜ばれることでしょう!」
奴はそう言って高笑いをしていた。生憎俺は情けない。気合いを入れた物のまたやられるのか?
俺はそう思いながら薄れゆく意識のなかで天井を見上げていた。
奴が言うあの方とは一体誰なのか? このバフォメットの中身の子供は一体誰なのか? 死にそうだってのに目の前の敵の考察が妙に捗る。
そう思っていた時だ。
「諦めるな! 戦え! お前の力はそんなもんじゃないだろ! アイツを殺せ!」
そう誰かの声がした。こんな声色を聞いたのは初めてだ。俺は一体誰に話しかけられているんだろう?
「今の一撃で体はボロボロだ。力を貸してやるから立つんだ。信念を貫き通せ!」
そう言われた瞬間、重たかった体は一気に軽くなってしまった。何でこんなに体が軽いのか分からないし何故か傷も治っている。それに底知れない力が俺のなかに宿っている。今まで使う事が出来なかった力が使えそうな気がする。
「何ですか? その姿は? それに何故立っていられる?」
奴はそう問いかけて来た。しかも妙に焦っている――。
まあ、正直俺の身に何が起きたかは分からない。ただ分かっている事は誰か知らない奴に力を貸してもらったという事だ。
「覚悟しろよ?」
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