第376話 研究施設の真相Ⅱ

「実験は実験。職員は職員で分けているだけだ。酷い言い方に聞こえるかもしれないが差別をしているんだ。彼等は区別と言っているがね」


「腹が立つな」


 俺がそう言うとビアーズは「私もだ……」と呟いた。


「本来、研究などは本人の意思を無視していいものではない。しかし、我々の研究施設には身寄りのない子供を預かるという名目で研究材料として性別問わず好き放題にしている。君も辛かっただろう?」


「地獄のような痛みだったさ。アンタが、俺にメスを入れている人間だったら真っ先に殺しているところだったよ」


「確かにそうだな。私の担当は術後の彼等の様子を見る統括部長という立場だからね。名前だけは何となく憶えているよ」


「それは光栄だな」


「思っても無いことを言うな――他に何か質問はあるか?」


「何故、上の連中の名前は言えないの?」


 フィオナがそう質問をした。


「一般の職員はボスの名前どころか、上の連中の事も知らないんだ。役職を与えられた者だけが知る情報なんだ」


「人の命を粗末しておいて自分の命は守りたいのか?」


「死ぬのは別に怖くないさ。それに死ぬことよりも死ぬ過程のほうが怖い。何しろ拷問を何十時間も続けられた後に殺されるらしいからね。後は、私は孤児院を持っている。勿論、施設に子供達を提供する為にある孤児院ではなくただの孤児院さ。妻と子供を失っても私には家族がいる。その家族が人質になっているんだ」


「――何かアードルハイムみたいね」


 フィオナが俯きながらそう言うと、ビアーズは「そうだな……」と深く頷いた。


「つまり自分の周りの為に言えないって事だよな? それだったら場所を教える事もマズいんじゃないのか?」


「場所くらいは大丈夫だ。現に周りの職員もバレていない。ただ、どちらかと言うと施設に行った人間の方が危険だな。如何せん、施設の戦力は相当手強いので、普通の人は太刀打ちできないのだ」


「俺達でもか?」


「いや、そこは対抗できるんじゃないかなと思う。だから私は場所くらいなら教えても良いと思っている。教えて突っ込まれて命を落としていたら申し訳ない気持ちでいっぱいになるからね」


「成程。アンタの事は少しは信用してもよさそうだ」


「いやいや――信用何かしなくてもいい。他人の言葉を鵜呑みにするべきではない。情報を得た上で自分で考えて行動してほしい。私は現に騙されて施設で働いて、毎日血反吐を吐きながらも行かなきゃ子供が死ぬという局面と戦っているのでな。人の事を信用し切った自分も悪いんだ」


「凄いですね――人間は」


 フィオナがそう言うとビアーズは「君もだろう」と呟いた。それにフィオナは「え?」と聞き返す。


「君の素性も知っている。上の連中が繋がっていたので名前と顔と君のちょっとした過去は知っているのさ」


「プライバシーも何も無いわね」


 エヴァがそう言うとビアーズは首を傾げた。


「プライバシー――君はもしかして転生者かな?」


「ええ」


 するとビアーズは小さく拳を握っていた。


「ひょっとしたらひょっとするな」


 そう言ってからビアーズは俺達の顔を伺った。


「とりあえず君達は研究施設に行くという事でいいんだな?」


「ええ。そうよ」


「絶対に救い出します」


 エヴァとアリスの意気込みはそうだった。フィオナに関しては深く頷いている。まあレイに関してはそもそもこの家には入らずに外で見張りとして待機しているから、意気込みも見せるとかそういう次元ではないが。


「分かった。ならば行くといい。止めはしない。昼に比べて夜の方が人は少ない――しかし、警備もあるが昼に比べれば手薄だ。行くなら今から行く方がいいだろう」


 ビアーズはそう言って俺達の意思確認をしていた。真っすぐビアーズの目を見ると口角を緩めて「問題無さそうだな」と呟いた。


「他に何か聞きたいことはあるか?」


「いえ、特に」


 俺がそう言うと、他の皆も首を左右に振った。


「じゃあこれをやろう。施設は大きいから施設が見えてきたらこの紙を捨てるんだ。証拠隠滅の為に燃やした方がいいだろう」


 そう言ってビアーズが俺に渡してきたのは地図だった。ここから、南東に50km程進んだところにあるらしい。ケトルの森というところの中に施設を構えているようだ。


「ご武運を。できれば明日の朝、私が行ったら無くなっているというオチが理想だな。そうすればダヴィツも呪縛から解放される」


「分かった。色々とありがとう。アンタも気を付けてな」


「そうだな。もし失敗していたら末代まで恨んでやる」


 と、ビアーズはそう言いながら俺に握手を求めて来た。


「それは怖いな。でも、俺達が終わらせなければ誰がやるって話だ。絶対に成功させてやるさ」


「頼もしいよ」


 そうして俺達は席を立った。他の皆も一人一人感謝の言葉を述べていた。その後はビアーズに玄関まで送ってもらった。


「ビアーズさん。本当に有難う。貴方の思いは私達に十分伝わったわ。あとは任せて」


 エヴァがそう言うと「期待しているよ」と一言。


「皆、無理はするなよ」


 ビアーズにそう忠告されたので俺達は「はい」と応えて頷いた。


「怪しい奴は一人もいない。問題無いだろう」


 見張りのレイがそう言っていたので俺達はビアーズにしばらくの別れを告げてケトルの森へと向かった。


 ダヴィツの孤児院以外からも来ているとなると相当な人数を救い出さなければならない。作戦を立案せねば――!



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