第371話 ダヴィツの手がかりⅠ

 村から数キロ離れたところにある小さな町マガイア。その町の外れにある平原をしばらく進むと平屋の建物が見えてきた。レンガ造りの建物で敷地内の外には庭がある。あそこでよくスキルを使って遊んだり、戦闘訓練などを行っていたのが昨日のように思い出す。そして思い出すほど頭が痛くなる。


「チッ――」


 この頭痛はなかなかだ。そう思うと俺はポーションを飲んだ。鎮痛剤だ。これでしばらく楽になる――。


 オスプレイを孤児院の近くに停めると、孤児院にいた子供たちが、施錠された入口の鉄格子から顔を覗かせてきた。子供これで全員なのだろうか? 寄って来た子供達は7人だった。


「知っている人はいますか?」


 アリスがそう言ってきたので俺は首を振った。


「そうですか」


 残念そうに肩を落とすアリス。俺は不思議な感覚になっていた。遊んでいた筈の友人達の名前が1人も思い出せない――。


「そもそもの話だ。俺は友人達の名前を忘れている――みんなを助けたい――! そういった強い思いがあったし、リーズに記憶妨害装置のようなものを取り出してもらってから皆の名前は思い出せていたんだ。しかし、ここに来てから思い出せなくなったんだ」


「それは不思議ですね。本当であれば因果関係が強いと思い出せそうなはずなのに」


「もしかしてリーズのポーションの副作用?」


 アリスの後にフィオナがそう問いかけて来た。


「分からない。確かのリーズのポーションの影響もあるかもしれないな」


「何とも言えないですね」


「考えていても仕方ない。今はダヴィツの情報を聞き出すのが最優先だ」


「確かにそうですね」


 アリスがそう言って首を縦に振った。そのリアクションはフィオナも同じだった。早速、子供達にダヴィツがいるかどうかを聞いてみた。


「おじさんなら、今日はお外に出ているよ」


「夕方まで戻らないって」


「お姉さん達誰? ダヴィツの知り合い?」


 と、まあ俺がいた頃とダヴィツの呼び方は変わっていないらしい。俺はダヴィツの事をダヴィツと言っていたが、おじさんと呼ぶ子供もいた。ダヴィおじって言っていた奴もいたな~。と、まあ考えていても、ダヴィツの事は思い出すことができるが、友人の事を今は全然思い出すことができない。思い出して、その人間がいるのであれば、こっちの話の信憑性が増すはずなのに。


 重要なところは全て忘れる――この現象は一体何なのだろうか――。


 子供達の質問にはアリス、フィオナ、エヴァが答えていた。俺が喋ったら絶対に玩具にされるから喋らないでおこう。


 そうやって様子を見ていると、シュファとランベーフが子供に絡み始めた。


「自分ら暇とちゃうか? お兄さんとこのお姉さんと遊んでみやん?」


「でも、そっちいたら遊べないじゃん」


「俺達、ここから出ることを禁じられているんだ」


「もし出たらおじさんにものすご~く怒られるの」


 ぬいぐるみを持った5歳くらいの少女がそう言うと――。


「じゃあ私達が皆そっちに行けば遊べるんじゃない?」


「そうやな。入ってええか?」


 シュファとランベーフがそう言うと、子供達は顔を見合わせるなり少し悩んだ。


「まあいいか~。もし怒られたら皆で怒られようぜ」


 そう言ったのは10~12歳くらいの少年だった。この少年が7人の中のリーダー格なのだろうか。


 そうやりとりを終えて俺達は孤児院の中に入ることができた。入口付近の左右に植えられている木の匂い。澄んでいる空気。そしてドアの無い入り口。幼少の頃、冬は物凄く寒かったので、火属性のスキルを使える友人の所へ集まっては、体を暖めていたのを思い出す。ドアくらい造ってくれたらいいのに――。俺はそうダヴィツに何度も打診していたが、貧乏という理由で断られていた。その代わり、食事はそれなりに満足できた。当時孤児院にいた子供は12人。そして料理を作るのは俺達とダヴィツだった。おかわりはできないものの、腹八分くらいは食べることができていたし、強い人間になるために、タンパク質はしっかりと摂っていたんだ。だから物凄く貧乏な生活を送っていたかと言われるとそうでもない。寒さを凌げる術があるのでほんの少しの不満だ。無いものはやっぱり欲しくなる。


 建物に入ると正面には広場にある。ここでは剣術などの稽古に使われていた。そして右手には子供部屋がある。言うなれば玩具などが遊具だ。


 そして左手には厨房とその奥にはダヴィツの部屋がある。


「あそこがタヴィツの部屋だ」


 俺がそう指すとアリスが部屋を見渡した。


 部屋には机と椅子、それに引き出しとクローゼットといった具合だ。他に変わった物は置いていない。


「子供のときの探求心ってやつだろうな。クローゼットと、引き出しに鍵がかかっているところがある。それがバレてしまってダヴィツに酷く怒られたことがある」


「確かに引き出しの中にノートと封筒がありますね。そのなかにはお金が入ってるようです」


青の瞳ブルーリー・アイズとだったかしら? なかなか便利なスキルね」


「そうですよ。パッシブスキルですが、このスキルを持っている人は結構少ないですね。私に以外に見たことがありませんし」


「確かにそうね。因みにお金はどれくらい入っているのかしら」


「金貨5枚に銀貨が50枚前後くらいですね」


「何とも言えない量ね。とりあえず鍵を開けてノートのほうを見てみましょう」


「わかりました。けど、鍵を開ける方法はあるんですか? 私がやってもいいですけど、それだとこの孤児院が真っ二つになります」


水刃ウォーター・カッターなんて使ったら死人が出るわ。私に任せて。ノートがあるのは何段目かしら?」


 エヴァはそう言って引き出しの前で腰を下ろした。


「二段目です」


 アリスがそう言うと分かったと言って引き出しに触れた。


「これスキルで施錠されているタイプね」


 エヴァはそう言うなり二段目の引き出しに触れた。驚くことに自動で引き出しが出てきた。どういう原理だ? 何かのスキルだろうか?


 そう思っているとエヴァがノートを開いて中身を確認し始めた。



 




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