第372話 ダヴィツの手がかりⅡ

「ノートには何て書いているんだ?」


「そうね。ノートには子供達の記録が書かれているみたい。一ヶ月ごとの身長や体重の成長記録と戦闘スキルのデータみたいね」


 するとアリスとフィオナが俺の顔を見てきた。分かっている。見覚えがあるか聞きたいんだろ?


「確かに俺達は身長と体重を計測していた。しかしそれだけではまだまだマメな人だなとしか思えない。証拠としては少し不十分だな」


「確かにそれもあるけどわざわざ鍵をかける必要もないわね。それにこれには名前が載っているわ。この中に見覚えのある名前はないかしら?」


 エヴァはそう言って俺にノートを見せてきた。確かに身長と体重と戦闘スキルが記録されている。そういえば俺達は喧嘩ごっこという遊びを半年に一度していたな。子供達でトーナメント形式で戦い合う遊びだ。ごっことは名ばかりで、割と本気の戦いをしていた。しかも男女問わずだ。殺すは勿論無し。急所攻撃も無し。相手が参ったと言ったら即座に戦いは終了。それ以外の戦いの切り上げは、ダヴィツが状況をみて判断し、どっちが優勢だったかを見て決める。少し変わっているのが制限時間が設けられていなかったことだ。


 俺が持っているのはどうやら直近のノートだ。日付も最近のものがある。


 ノートをペラペラと捲っていくと、妙にこの名前が引っかかった。


「ディオール・エヴァンス――」


 すると、エヴァは俺の方を物凄い勢いで見てきた。


「エヴァンス君!?」


 俺が持っているノートをエヴァは慌てて取り上げた。ページを勢いよくペラペラ捲っては顔が蒼白していた。


「私は何故さっき見落としていたんだろう――」


「どうかされましたか?」


 アリスがそう問いかけるとエヴァは深刻な表情を浮かべていた。


「そうね。私達が探しているのはエヴァンス君よ――途中からノートに名前が無くなっているから、恐らく施設に送られたから、名前が無くなっているのね」


「因みに何歳なんですか?」


「最後の記録では13歳。依頼主から聞いている年齢と全く同じね。間違いない。ダヴィツは黒よ。後はフォルボス君が心当たりがあるかどうか――呟いたって事はそういう事でいいのね?」


「ああそうだな。名前を見て少し思い出したよ。俺がいた頃にもエヴァンスはいた。小さい割にはやたらと強かったな」


「強かったの? 戦ったことあるの?」


 エヴァはそう訊いてきた。アリスとフィオナは俺の顔をじっと見つめてくる。


「そうだな。前提として俺達は半年に一度に喧嘩ごっこというトーナメント形式で戦う遊びをしていたんだ」


「遊び? それがどうして遊びなの?」


「そうだな。優勝した子供にはダヴィツから景品が与えられるんだ。俺達が望んだ好きな物を買い与えてくれていた」


 すると、フィオナが首を傾げるなり「おかしい――」と呟いた。


「何がだ?」


「施設に送る人間にわざわざ好きな物を与えるっていう事をするかな? 好きな食べ物や甘い物とかで良いと思うの。それで子供は十分に喜ぶはずだから――」


「言われてみれば確かに――」


「話を聞けば聞くほどダヴィツという人物の人間性が分からないわね」


「虐待とか受けた事は無かったの?」


 フィオナがそう問いかけきたので俺は首を左右に振った。


「無かったさ。指導の一環として戦闘訓練を行うときには勿論殴られていたが、過度に殴ることは絶対に無かった。立て! そんなんじゃ強い男になれないぞ! と煽られることはあったがな。子供達は、一人になったときに必要な訓練として認識していた」


 俺がそう言うとフィオナはさらに表情を曇らせた。


「ますます分からないわね。正直なところ、子供達の指導と名ばかりで過度な殴る蹴るをして、子供に恐怖心を抱かせて子供同士で戦わせる。しかも相手が気絶するまで――っていう条件を設けてもいいの。だって、フォルボス君達は魔物の姿に変えられる為の実験体だったんでしょ?」


「そうだ」


「で、あるならば尚更ね。強い男で魔物になるのであれば、より凶暴で強い魔物に変えたかった筈――ならば、容赦の無い残虐性を身に付けさせたいと思うはずよ」


 フィオナがそう言うとアリスは苦笑を浮かべていた。


「フィオナさんがそう言うと、説得力がものすごくありますね」


 アリスがそう言うと、ハッと我に返り恥ずかしそうな表情を浮かべていた。確か、フィオナは過去にアードルハイムに捕まっていたことがあったらしいな。その影響でそんな考えが思い浮かぶのか――長く生きている人の考察はタメになる。


 そう考えるとダヴィツの事が俺も分からなくなってきた。何を考えているのか分からない。それがただただ腹立たしいと感じる。


「とりあえずもっと調べる必要がありそうね。フィオナさんの言う通り、ダヴィツには違和感がある行動ばかり。一番は本人に会ってみて、どういう人柄で、どういうバックグラウンドがあって、施設に子供を送り込んでいるのか調べる必要があるわね」


「確かにそうね――もう少し調べましょう。地図があるかもしれない」


 フィオナがそう言うとアリスは「はい」と同意をした。その後、ダヴィツの部屋をくまなく探してみたが、施設の場所に関する情報は出てこなかった。アリスのスキルでさえも見つけることができない。


「どこにもないわね」


 エヴァがそう溜め息をついていた。そんな時だ。子供達が一斉に部屋の中を走り回っている音がした。


「おかえり!」


 子供達がそう声をかけていた。間違いない。ダヴィツが帰ってきた。

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