第369話 マルーン共和国での合流Ⅰ

 俺達はマカロフ卿とランベリオンの指示により、オスプレイと呼ばれている空飛ぶ鉄の塊でマルーン共和国へと向かった。ナリユキ閣下によると、マルーン共和国のマリ村という場所で落ち合う事になったらしい。小さな村なので直ぐに会えるとのことだった。


 それにしても、このオスプレイという乗り物は随分と移動速度が速いようだ。


「もうしばらくで到着するぞ」


 どこからか聞こえるジェットの声。機内アナウンスという機能らしい。そう考えると、転生者がきた国は奇妙な発明品が本当に多い。


「いよいよですね。フォルボスさん」


 そう声をかけてきたのは、人魚姫マーメイドのアリスだ。彼女は幼い顔立ちをしているが、詳しい年齢は知らないが、100歳を越えているらしい。人間だったら婆になっている年齢だ。しかしまあ人の事は言えないか。俺も亜人という種族になった以上は、人魚姫マーメイド森妖精エルフと何ら変わりない。


「そうだな。皆を助けないと」


 俺がそう言うとアリスはニコッと微笑んでいた。


「大丈夫よ。あたし達もついているし、ヒーティスからは強力な助っ人がいるし」


 闇森妖精ダークエルフのフィオナがそう意気込んでいた。ここにいる皆が強いのは十分に分かっている。何なら小さな国を1つ沈めることだってできる戦力だ。しかし相手が相手だ。俺達のような怪物を生み出すことができる技術を持つ集団――そんな集団を簡単に壊滅させることなどできない。十分に警戒をしたほうが良い。


「油断はできない」


「た――確かにそうだね」


 そう言ってフィオナはコホンと咳払いをした。


「着いたぞ」


 話をしているうちに着陸をしたらしい。着いた場所はマリ村の近くにある平原だ。時間は少し早いようなので、俺達はマリ村に向かって、村人から情報収集をすることにした。


「ダヴィツという人ですか? この村に最近来たばかりなので分からないですよ」


 一人の女性にそう言われた。しかし、ナリユキ閣下の念話では、この村から孤児院は近かったはず――本当は俺が憶えていないといけないのだが、如何せん孤児院にいたときはロクに外出も出来なかったからな。


「いや、そう言えば俺は聞いたことがあるぞ? マガイアという所ですよ。ここから少し離れた場所にある町の外れにあるはずです」


「本当ですか!? ダヴィツという男性について他に何か情報とかはありませんか?」


「そうですね~。面倒見の良い人だとは聞きますよ」


 確かに、一見奴は面倒見がいいのかもしれない。ただ、その一面はまがい物だ。本当の正体は謎の組織に孤児院の子供を提供する極悪非道の人物だ。今となっては、ダヴィツが笑った時の顔も全てが偽りにしか見えない。


「そうでしたか。たまにこの村には来られるのですか?」


 アリスがそう質問を投げると、男の村人は左右に首を振った。


「あまり来ないですね。たまに通りがかるのでその時に挨拶をするくらいですね」


「そうでしたか。因みに年齢はどれくらいの方なんですか?」


「50代くらいだと思いますよ」


 村人の情報は間違いなくダヴィツだった。アリスとフィオナは俺が予め教えていた情報とあっていたので、顔を合わせるなり確信したという頷きをしていた。


「情報ありがとうございます」


 アリスとフィオナはそう言って一礼をした。俺も彼女達に合わせて一礼を行う。


「いえいえ。それにしても外国の方がダヴィツさんを探しているとなると、ダヴィツさんに何かあったのですか?」


 村人がそう質問を投げると、フィオナがその質問に応じた。


「あまり詳しい事はお話しできないのですが、ダヴィツは大きな事件に関わっております」


「そうでしたか」


 村人はそう言って少し肩を落としたようにも思える。顔見知り程度でも人によっては残念な気持ちになる。


「ここ最近会ったのはいつですか?」


「そうですね~。一ヶ月程前に馬車で出かけているのを見ましたよ。他にも数人にいたようです」


 数人――それはもしかして孤児院の子供が施設に運ばれていくところなんじゃないだろうか? 偽物の引受人が来た時に、ダヴィツも同行することがしばしばあった。可能性は十分に高い。


 アリスとフィオナも村人のその発言に関心を抱いたようだ。案の定、俺が聞いてい欲しい事を聞いてくれた。


「馬車は何を運んでおりましたか?」


 アリスの質問に「う~ん」と悩み始める村人。


「何も運んでいなかったと思いますよ?」


「そのなかに子供はいましたか?」


「子供ですか? ――いなかったと思いますけどね」


 その言葉を聞いた瞬間、俺もアリスもフィオナも肩を落とした。確信できそうだったところで一歩足りない。


「フォルボスさんはどう思いますか?」


 あまり喋ると不思議そうに思われると思っていたので俺は口を開かない事にしていた。――話すしかないのか。


「そうだな。施設に行ったとは思うが――何とも言えないな。ダヴィツ以外には誰がいたんだ?」


 俺が村人にそう話しかけると村人は少し驚いた表情を見せた。しかし直ぐに切り替えた。


「そうですね。ローブを着た人と老人のような人がいましたね」


 そう聞いて何かを思い出せそうだった。しかし、思い出そうとすると頭が痛くなる。


「大丈夫?」


 俺が頭を押さえているのを見たフィオナがそう聞いてきた。


「ああ。大丈夫だ」


「無理しないで下さいね」


 アリスもそう優しい言葉をかけてくれた。頑張って思い出そうとしてもなかなか思い出せない――絶対に知っている筈なのに――。

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