第296話 マカロフ卿から見たマーズベルⅣ
「何だ。辛気臭い顔をして」
「いや――何か思った以上に上手くいったからよ? 何か悪い夢でも見たんじゃないかと」
「馬鹿抜かせ。私は貴様とミク・アサギ――いや、ミク嬢をこの半日見ていて分かったことがあってな」
ミク嬢って――アンタが言うとマフィアのボスの愛娘みたいな呼び方になるんだけど。
「ミク嬢は警戒心が始めは凄かったが、連れ行ってくれたロシア料理店から雰囲気がだんだん柔らかくなってな――心地よかったんだ。2人に案内されたマーズベルはなかなか良かった。それと、私はこんな綺麗な国を一時の怒りで破壊しようとしていたから本当に何をやっているんだろうと思ってな。レン・フジワラのあの和名のアルティメットスキルが無ければ本当にこの国を半壊させていたところだ」
「本当だよ。しっかり反省しろよな」
「違いない」
マカロフ卿はそう声に出して笑っていた。この40代後半のオッサンの少年のような笑顔を見るともう枷を外しても問題なさそうだと思った。
「じゃあ、俺に協力してくれるって事でいいんだな?」
「ああ。ワイズ以外は首を縦に振ると思うぞ。あと、アヌビスは気まぐれだからな――私の実力では奴をコントロールできんし」
「あ――アヌビスは俺に協力してくれるらしいぞ。気になることがあるらしくて、ヴァース島へ向かった」
「は?」
マカロフ卿はそう言って葉巻を地面に落とした。そりゃあ、ある意味知らない間に裏切られているんだもんな。
「そうか――」
「いずれにせよコードの戦力は大幅にダウンだ。後は
「その
「そうだな。だから調査をさせているんだけどなかなか難しくてな」
俺がそう言うとマカロフ卿は何やら閃いたようだ。
「それならば私達が一度アジトへ戻り、
止めておけよって言おうとしたけど自己解決しやがった。そんな事をしてしまったら怪しまれて面倒くさい質問にいっぱい答えないといけないもんな。
「今まで通り、
「どういう事だよ?」
「カルカラの貴族達と手引きしているところを度々に目にする。後ろ姿なので誰かも分からんし、名前も分からないんだけどな。鑑定士はやりたくても、ログウェルの王宮は特殊な結界を張っているので、そういった詮索系統のスキルは使えないんだ」
「成程な。マカロフ卿もマカロフ卿って呼ばれているくらいだ。ログウェルでは高い地位にいる貴族か何かだろ?」
「そうだが――私では知りえない闇はたくさんあるんだ。そのカルカラの貴族の正体を掴めると
「確かに――でも知る方法無いんだろ?」
俺がそう言うと、マカロフ卿は指を左右に振った。
「議事録がある。それを盗み見すれば尻尾が掴めるかもしれん」
「盗み見しても見ただけは相手はいくらでも嘘をつくことができるぞ。んで、見た奴は発見されたら殺されるだろうに」
「うちの部下には見た文章を瞬時に書き写すことができる奴がいる。そいつに何名かを付けてログウェルの宮殿に侵入させる」
「普通じゃ入れないのか?」
「ああ。招待制だから普段は無断で入ることができない」
やっぱり王宮ってのはどこもかしこもセキュリティがしっかりとしているな。うちの国とは大違いだ。つか――俺が堅苦しいの嫌だから軽めにしているだけの話でもあるけど。
「分かった。その仕事は任せてもいいか?」
「ああ。部下に伝えておくよ。レイの隠密部隊がそうだ」
「おう悪いな。さて、ミクちゃんを待たせているしそろそろ戻るか」
俺がそう言って立ち上がるとミクちゃんが駆け寄って来た。
「どうやら話はついたみたいだね」
「そうだ。マカロフ卿が協力してくれるようになった。後はマカロフ卿が仲間にこの意思決定を伝えてもらうだけだな」
「そうだね。で、枷は外さないの?」
ミクちゃんにそう言われたので俺はマカロフ卿を見た。すると、マカロフ卿は首を左右に振る。
「本当に信頼できると思ってからでいいぞ。私の枷に関してはな。それか枷を外す代わりに
マカロフ卿は葉巻を吹かしながらそう言った。本当に逃げる気が無い。危害を加える気が無いといったサインだろう。しかしこれがコードだと話は別になってくるんだよな。一か八かではあるけど、自分が不利な条件を敢えて提示する事で相手を信じ込ませて、しばらく経ってから裏切るという狡猾さを持っている。けど、今のマカロフ卿にはそれが無い。そもそも、メリーザを追い込んだ敵という認識がある。正直なところ不信感まだある――100%マカロフ卿を信じることができるかと言えば嘘になってしまう。
俺がそう悩んでいるところをマカロフ卿は静かに待っていた。俺の目を真っすぐ見て――。その目は威嚇と言った類ではない。ただただ真っすぐな目だ。
「そうだな。じゃあ行動で示してもらおうか」
「いいだろう。100%信じ込ませて裏切ってやる」
「おいおい! さっきの協力って話はどこにいったんだよ!? つか、マカロフ卿って実はブラックジョーク多いのか?」
俺がそう言うとマカロフ卿は高らかに笑った。
「これは私の素だ。そうだマーズベルはワインが有名だったな。飲ませてくれよ。私は赤ワインが好きなんだ」
「じゃあ私が教えてあげる。毒も入れておくね」
ミクちゃんはそう言ってマカロフ卿ばりのブラックジョークを言った。
「毒が効かない事分かっている癖に」
と、やりとりを始めたのだ。やっぱりミクちゃん恐るべしコミュ力だ。傍から見ても壁を感じさせない雰囲気が出ている――ミクちゃんは俺よりよっぽど警戒心強いからな。直感的に変わったマカロフ卿の事を信じ切っているだろう。
「これで良し」
俺がマカロフ卿の枷を外すと、マカロフ卿は本当に外すのか!? という驚いた表情を浮かべていた。
「また変な事をすればぶっ飛ばせばいいだけだからな」
「成程な」
本当に大丈夫か? この日本人――みたいな顔は止めてくれよ。人がせっかく解放したのにそんな表情されるとな~。
「じゃあ戻ろう!」
ミクちゃんがそう言ったので俺とマカロフ卿は「そうだな」と返事をした。気付けば夕陽は沈んでおり、辺りはすっかり暗くなっていた。
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