第295話 マカロフ卿から見たマーズベルⅢ
「これは風車か」
「そうだ」
俺が連れて来たのはマーズベルの観光名所。風車の平原だ。
「これで風力発電でもしているのか?」
「ご名答」
「て、事は私がこのライフラインを破壊してもいいという事だな?」
「おい、冗談に聞こえないから止めろ。枷を付けている状態のアンタを岩山の下敷きにしてぺちゃんこにするぞ」
「出来もしないクセに――まあいい」
マカロフ卿はそう言って葉巻を吸おうとしたから――。
「駄目。ここは禁煙なんだから」
ミクちゃんがマカロフ卿の葉巻を取り上げると、マカロフ卿は眉間に皺を寄せていた。
「返せ! 小娘!」
「返しません。ここの平原は全面禁煙なの。ナリユキ君もしっかり注意して」
「う――うす」
「チッ……」
ミクちゃんの注意にマカロフ卿は諦めて風車の眺めていた。100機ある風車にマカロフ卿は見惚れているようだった。
「何だ。思ったより気に入ってくれているみたいだな」
「故郷に似ていてな。私は田舎の育ちだ。歳をとると嫌だった故郷の風景も今となっては悪くないとすら思える」
「何で嫌だったんだ?」
「貧乏だったからな」
だからお金に対して執着あるのか――。実際やり方は酷いとしてお金儲けの天才だもんな。マカロフ卿と呼ばれる程異世界でも地位を上げているのは素直に尊敬する。
「何だ? 何か言いたげだな?」
「いや? 別に?」
「そうか」
俺達は風車の平原の奥にある一本樹がある丘の上まで登って行った。
「私は少し離れておくね」
ミクちゃんはそう言って気を利かせてくれた。気付けばもう空は夕焼け空だ。
「綺麗だな。私達のアジトではこのような景色は見えん」
「そうか。で? 考えはまとまったか?」
「ずっと気になっていたんだ。何で貴様等は敵の私に対してこのような事をしてくるのかってな――心を見透かされていたようだな」
「さあどうだろ」
「白々しい――」
マカロフ卿はそう葉巻を吹かしながら言った。そして続ける。
「1つお願いがあるんだが」
「何だよ」
「メリーザ達の所へ戻してほしい。アイツらの容態が心配だ。これからは貴様等に危害を加えない事を約束する」
「――その心配は無い。アンタは丸3日程寝ていたんだ。うちのオスプレイでベリト、ノア、フィオナ達が
俺がそう言うとマカロフ卿は呆気を取られたような表情を浮かべていた。
「そうか――有難うな」
「メリーザには危険な目に遭わせてしまった。それくらいの責任は負わないとな」
「それだけじゃないだろ? 貴様は
「何だ? よく分かってるじゃん。それに許すことができないんだよ。仲間を平気で切り捨てる奴は」
「――私も似たようなところがあるから何も言えんな」
「あれ? そうだっけ? あ――そういや、初めて会った時、アードルハイムの帝国兵を撃ち殺していたな。ヤバい奴が来たと思ったよ。まあ実際ヤバかったけど」
「一言余計だな」
「合ってるじゃん」
「五月蠅い」
マカロフ卿はそう言いながら夕焼け空を眺めていた。
「俺――何となくだけど最後はこうなるような気がしていたんだよ」
「そうなのか?」
「ああ――ガープの魂が俺には宿っているからな。殺し合って終わることだけは何となく避けたかった」
「成程な――ガープが何故貴様にスキルを託したのか分かる気がする。というか羨ましかったんだ。若いのにこんな立派な国を造ってベリトとレイドラムを討ち、挙句の果てにアードルハイム皇帝まで討ち果たした。それに
マカロフ卿にそう言われて確かに――と思った。ミクちゃんとランベリオンと会って随分と濃い日々を過ごした。
「だから嫉妬したんだろうな。今となっては餓鬼みたいな理由だろ? 躍起になっていたの」
「まあ自覚しているなら俺から何も言わないよ。でも理由はもっと他にあるだろ? メリーザの事大切なんだろ? それでもメリーザがされた事に対してではなく、コードに忠誠を誓っているのは何故なんだよ?」
「色々縁があって助けてもらったんだ。この異世界に飛ばされて右も左も分からない時にスキルの使用方法などを教えてもらった。それにビジネスのチャンスも与えてくれた。慕っている最大の理由は、前にも言ったが判断力が凄まじい。言ったことは必ず成功するんだ。私は
「人間って絶対に失敗するのにな――その失敗が無いって
「そうかもな」
マカロフ卿はそう言って笑みを浮かべていた。
「でも――」
その一言でマカロフ卿の表情は一気に曇った。
「私は決めたぞ。ナリユキ・タテワキ」
「何だ?」
「大事な妻を殺されかけたんだ。
俺は思考が停止した。妻――? それってもしかしてメリーザの事か!?
「ちょっと待った! 急展開は止めてくれ! 妻ってメリーザの事か!?」
「ああそうだ。不利な窮地に立たされるのは嫌だったから表立っては言っていなかったんだけどな。メリーザは貴様に多かれ少なかれ私と自分の関係を話すつもりだったと思うぞ」
マジか――そう言えば親しい間柄という関係にしては、やけに互いの事を理解し考えているようだったし、拷問部屋でのやりとりは本気の意見のぶつかり合いだった――。
「おい、それ言ってよかったのか!?」
「もう別に今となったらいいさ。私が気絶している間に敵であるメリーザを含めた私の部下達を治しに行ってくれたんだろう? 参ったよ――人間としても完全に敗けた」
マカロフ卿はそうニッと笑みを浮かべた。この笑顔――ガープと話をしているときもこんな表情をしていたな――俺はマカロフ卿に認められたということで良いのだろうか?
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