第284話 決着Ⅰ

「クソ……ここまでか」


 マカロフ卿はそう言い残して地面に倒れてしまった。勿論、そんなマカロフ卿を見て、ベリトと戦っているレイと、ノアと戦っているスーは注意散漫になっていた。マカロフ卿が倒れてから2人は攻撃を喰らい続けている。


「もう時期あっちも終わりそうだな。俺が敢えて手を出す必要もないだろう」


「この馬鹿はどうするつもりだ?」


「とりあえずスキルを使えない枷で縛っておくよ」


「今からはどうするのだ?」


「部下が戦っている巨人と亜人あじんのところに応戦するさ。アンタが何もやってこなければだけど」


「せんわ。貴様は相手のどう思っているかを考えた上で戦う素晴らしい人間だと感じたからだ。以前マカロフ卿と戦った時に、カーネル王国の兵の身代わりに自らが犠牲になったときのようにな。人間は醜い生き物とばかり思っていたのだ。マカロフ卿にはそれが無かったからな――余はもう貴様等に手は出さないし協力できることもしてやろう。その代わり少し頼み事があるのだ。今は時間が押しているから後でそれを聞いてくれるか?」


「勿論だ」


 俺がそう言うとアヌビスは満足気な笑みを浮かべていた。


「助けに行くという事はつまり余を放置することになる。この中で余と戦えるのは貴様だけ。保険で悪魔との機密契約イビル・コントラクトをかけておくか?」


 俺はしばらく考え込んだけど今のアヌビスから敵意など微塵も感じられない。


「いや、いいだろ」


 俺がそう言うとアヌビスは高笑いを始めた。それも数秒間――。ひいひい言い出してしんどそうだ。


「いや~参った参った。マカロフ卿は馬鹿者だがナリユキ・タテワキは大馬鹿者だな」


「うるせえよ! いいだろお人好しで!」


 俺がそう言うとアヌビスの真紅の目は一気に冷たくなった。


地下世界アンダー・グラウンドと魔界ではそのお人好しがあだとなる。別に極端に冷たくなれと言わん。しかしもっと熟考しろ。良いな?」


「お――おう。分かった」


 ここまで気圧されたのはいつぶりだろうか。まるで親友とかに本気の忠告を受けたみたいだ――。


「貴様のスキルなら枷を出せるんだろ?」


「ああ。勿論」


 この世界ではごく普通に流通しているスキルを発動できなくする枷。俺は敵軍の人数分出した。


「よしこれいいな」


「便利なスキルだな本当に」


 そうして並べた手枷と足枷のセット30個程出した。ざっくりとしてしか数えてないからとりあえずこれだけと言った感じだ。


「よし。これを気絶している奴等にとりあえず嵌めるか」


「そうだな」


 俺とアヌビスがそう話をしているときだった。突如「うおおおおお!」と怒号を散らす何者かがいた。振り向けばワイズがマーズベル軍を蹴散らして俺の方へと向かって来ている。


「いいい!? アイツ復活したのかよ!?」


「まあ奴は生体兵器だからな。余に任せろ」


「ワンコロ! どけー!」


 そう言って殺意剥き出しで襲い掛かって来るワイズ。


「身の程をわきまえろ!」


 アヌビスはそう言ってワイズの腹部に金色の杖を突いた。


「ガッ――!?」


 そう言ってワイズは来た方向に逆戻り――。かと思えば、アヌビスは後ろに吹き飛んでいるワイズの後ろに回り込み、頭を掴んでそのまま地面に叩きつけた。


「容赦無ぇ――」


 アヌビスが持つ超越者トランセンデンスは、物理攻撃無効、斬撃無効、アクティブスキル無効という効果を無効にする。というパッシブスキルだ。そして弱っているとは言え、あの化物をたった二撃で撃沈させるとは恐るべしだ。


「片付いたぞ」


 アヌビスはそう言ってワイズを肩に担いで俺の所に持って来た。担がれているワイズは気絶しているから勿論ピクリとも動かない。


「今思ったんだけど、ワイズだけ自力で枷外しそうだよな」


「そうだな。まあ枷を付けられたところで余も自力で外すことができるがな。貴様は無理だろう?」


 そうニヤニヤと笑みを浮かべるアヌビス。クソ――何だこの敗北感は――!?


「そのスキルは因みに強固な枷を作ることはできんのか?」


「う~ん。原則自分がアレンジを加えるってことは出来ないんだ。だから今はこれを付けておいて、森妖精エルフに罠系統の結界を張ってもらうさ」


「成程な。ワイズだけは所かまわず暴れるからな」


「そういう事。枷も一応作っておこうと思うよ」


「そうか。とりあえずこれだけ揃えたんだ。後は貴様の部下にやらせばいいだろ。他の者に声をかけて貴様はもう1つ襲撃されている場所に応戦に行け」


「分かった。色々有難うな」


「ああ。とりあえずこの2人は余に任せろ」


 ――あれ何かきな臭い。


「なあ――強制的に協力してもらおう! とか言い出さないよな?」


「せんわ! 魔物の良心を踏みにじるな!」


 と――お説教を喰らったのですみませんね~と謝罪しつつ、全滅させて残りはレイとスーという状況の中、休息をとっているフィオナの所に向かった。


「フィオナ怪我は大丈夫か?」


「お気遣いいただきありがとうございます。怪我は何とか大丈夫です。それより凄かったですね。レン・フジワラ殿は」


「そうだな。で、あそこにいる黒い魔物がやっている通り、気絶している敵兵に枷を付けておいてくれ」


「かしこまりました――それよりあの魔物には付けなくてもいいのですか? 敵対心は無さそうですが保険という形で――確かに戦闘には手を出してこなかったですが、どうなるか分かりませんよ? それに敵軍の中で一番強い気がします――」


 フィオナはそう恐る恐る俺に聞いてきた。確かにあの化物のようなパワーは正直怖いだろう。それに魔眼も持っているからな。


「大丈夫だ。奴には別の目的があるらしいからな――協力してほしいので後で話を聞いてくれと言われたくらいだからな」


「そう言われると妙に納得できますね。かしこまりました。ここはあたし達が処理します」


「分かった。じゃあ俺はミクちゃん達の所に行くから、皆への指示をよろしく頼む」


「はい」


 フィオナの元気な返事が聞こえると、俺はミクちゃんの顔を思い浮かべて転移テレポートイヤリングを使用した。

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