第214話 ヴェドラウイルス対策Ⅰ
クロノスとガブリエルに挨拶をされた後、老人が口を開いた。
「お主がナリユキ・タテワキか?」
老人は俺にそう訊ねながら席を立つ。間違いない――この人がアーツさんだ。
「マーズベルの国主のナリユキ・タテワキです。宜しくお願い致します」
俺がそう言うとアーツさんは「ホウ」と顎をかいた。
「人間なのに
「はい。
「左様か」
アーツさんは物珍しそうな表情から柔らかい表情になっていた。俺とアーツさんが握手を交わすと。
「まあ座りなよ」
そう言ってくれたのはルミエールだった。
俺が腰をかけると「何とか間に合ってよかった」と安堵していた。
「
「皆が言っていたとは?」
「ワシが裏切られたらどうするんじゃ? と意見を述べたところ、ランベリオンを含めてガブリエル以外がワシに噛みついてきたのじゃ」
フォフォフォといかにも賢者の爺さんっぽい笑いを浮かべているアーツさんとは裏腹に、ルミエールが「申し訳ございませんでした」と謝っていた。王様は王様でも命の恩人にはやっぱり頭が上がらないんだな。
「お主の口から聞こうか。ワシに何をしてほしいのじゃ?」
「私はアーツさんには、ヴェドラウイルスの対策を講じる為にお力添えをして頂きたいと思っております」
「続けてよい」
アーツさんはそう言って眉をひそめたので俺は頷いた。
「昨日の夕方頃。ヴェドラウイルスの患者が我が国の医療施設に運び込まれてきました。そして今朝、魔眼を使える者と、ヴェドラウイルスの菌を確認したことがある優秀な部下と確認したところ、変異型のヴェドラウイルスではないかという結論になりました。現段階で出来る事としましては、急いで
俺がそう言って頭を下げると数秒の静寂が流れた。恐らくは俺以外の視線がアーツさんに集まっている事だろう。
「ええじゃろ。その代わりにお主が持っているヴェドラウイルスに関する知性や記憶をワシにも共有することじゃ。順番はワシのを奪った後に、お主がワシが持っているものと統合して返すこと。良いな?」
「勿論そのつもりです」
「じゃあ始めて良いぞ」
「それでは失礼致します」
俺は席を立ち、座っているアーツさんに近付いた。そして俺が目線を低くするためにアーツさんの右隣で屈むと。
「別に立ったままで良いぞ。若いのになかなか気が利くの」
と言ってくれた。つまり俺に対しての警戒心は特段無いということだ。普通、警戒している相手に上から自身の身体の一部を触れられるのは嫌がるものだ。しかし、アーツさんは俺に対して現段階で敵対心を持っていないということだ。
「いえ、今回はこうさせて下さい」
「そうか」
俺はアーツさんの頭に触れるべく、左をゆっくりと伸ばして、金色に輝く左手で触れた。
すると案の状アーツさんのヴェドラウイルスに関する膨大な情報が俺の脳へと流れ込んできた。
アーツさんは自分が持っていたヴェドラウイルスに関する知性や記憶を根こそぎ奪い取られたことで驚いていた。長きに渡り研究していた分野だから目を丸くして驚くのも無理は無い。
俺は再びアーツさんに俺が脳で統合した情報を全てアーツさんに渡した。
「これは凄い――リーズの知識も入っておるのか」
「ええ」
俺が微笑むとアーツさんは、玩具を与えられた子供のように目を輝かせていた。
「これは凄いスキルじゃ。それに知らない医学に関する記憶まである! これはナリユキ殿がこの世界に来る前の記憶で間違いないな?」
「ええ」
俺がそう返すとめちゃくちゃ喜んでくれていた。
「嬉しそうですね」
ルミエールがそう訊くと「当たり前じゃ!」と力強く肯定していた。
「と――興奮するのはさておき――」
いきなり賢者タイムに入るアーツさん。まあ賢者なんだけど。
「まあ変異型のヴェドラウイルスで間違いなさそうではあるが、これに関する
「そんなにかかるものなんですか? 先生は20年前、数年で
「まあそうじゃが――今回の変異型のヴェドラウイルスはまだまだ未知数なのと、幻惑や幻覚といった類の症状もあるらしい――これで思い浮かぶ魔物は何じゃルミ坊」
「
「左様。
「凄い都合のいい魔物ですね。早速採りに行きましょう」
俺の発言にハアと溜め息をつくアーツさんだった。
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