第195話 ゾーク大迷宮の魔物Ⅳ

「なかなか気落ち悪いデザインの魔物だな」


 そう言って睨めつけると、インベラーズ・ジュラは毛穴という毛穴から大量の血を噴出した。唐突な出来事にインベラーズ・ジュラは雄叫びを上げながらもがいている。これもまた奴のユニークスキル、怒りの冷眼コレードル・アイの力だ。


 ワイズが作ってくれた好機チャンス。私は身体向上アップ・バーストを使って、暴れまわっているインベラーズ・ジュラの背中に乗った。


 私がインベラーズ・ジュラの背中に手当たり次第触れて、復讐の時限爆弾リベンジ・タイムボムを設置した。


「よし」


 そう思っていると尻尾の先から何かを飛ばしてきた。空気の振動が少し違う――。


 しかし、私は避け切ることができずに腹部に三ヶ所、左右の腕に二ヶ所透明な何かが刺さっていた。


「小癪な!」


 私は、手の甲を左から右へと振りかぶり、手の甲でインベラーズ・ジュラの後頭部を殴打した。すると、インベラーズ・ジュラは床を見つめて口から血を垂らしながら、ハアハアと苦しんでいた。


「透明の物体を飛ばして来やがるとはな」


「まあ、どうやらコイツは毒らしいな」


「そのままくたばってくれたら俺様としては有難いが」


「笑えない冗談はよせ。まあ私には毒な効かんがな」


「ドヤ顔で言ってけどベノムサーペントに噛まれて、全種類の毒の抗体がたまたま出来ただけじゃねえか。仮にもドジってなっているんだから、威張れる程の事じぇねえだろアホ」


「確かに」


 私がそう言われて不敵な笑みを浮かべると、ワイズはチィと舌打ちをしていた。


「張り合いがねえな」


 そう呟くワイズ。しかしながらインベラーズ・ジュラの攻撃まで透明となると、なかなか厄介なものだ。


 グオオオオと雄叫びを上げている姿は怒りそのもの。


「片づけましたよ」


「なかなか手こずったね」


「お怪我は大丈夫でしょうか?」


 と、レイ、スー、メリーザが各々感想を言ってくれたので、周りを見渡してみるとディルビアが全滅していた。


 しばらくすると、インベラーズ・ジュラが唸り続ける。


 目を真っ赤にさせながら、体表が七色に輝き始める姿を見て第2形態と呼ぶべか。


「ほう。凄いパワーを感じるな」


「戦闘値がどんどん上がっています」


「面白い……」


 メリーザの言葉とは裏腹で、ワイズは不敵な笑みを浮かべてインベラーズ・ジュラに襲い掛かった。


 しかしながらインベラーズ・ジュラは透明になって姿を消した為、ワイズの攻撃は空振りに終わる。


「どこにいった?」


「あれほど大きい図体なら適当に攻撃していれば当たりそうな気もするが――」


 ワイズがそう言っている時だった。


「つっ――」


 そう零すワイズを見ると腹部から出血していた。


「クソ。何だこれは」


「痛いよ。どうなっているの?」


 と、レイとスーも訳が分からない状態になっていた。理由は簡単だ。またさっきの透明な毒針が刺さったのだろう。


「任せて下さい」


 各々、針を抜いた後にメリーザに状態異常を回復してもらっているという状況だが。


「ワイズ。さっきのスキルは出来るのか?」


「できるがどうだろうな。あの気持ち悪い魔物相当怒っていたから効かないんじゃないか?」


「そう可能性もあるが試してくれるか?」


「あ――」


 横にいたワイズが突如吹き飛んで壁にめり込んでしまった。


「なっ……!?」


 そう思っていると私も突如顔面に何かで思い切り殴られた感触がした。鋼の体Ⅴのお陰で何ともない。恐らく尻尾で顔面を殴られたのだろう――。


 そう思っていたときだ。


 ゴゴゴゴゴ! という大きな音と共にこのフロアを大きく揺るがせた。天井から砂などが落ちてきているので何かと思って見上げると、体表が黒い二足歩行の魔物が降り立ってきた。体長はおよそ2m程。耳と真紅の目と金色の杖を持っている姿はまさにアヌビスだった。


 名前は残念ながら分からないので、コイツの事は一旦アヌビスと呼ぶことにしよう。そのアヌビスだが、今までにないとてつもない強大なオーラを放っている。


 アヌビスは私達を一旦見た後、次のエリアに続く門の方に向かって真紅の目を向けた。


 すると、ギイイイイと悲痛の叫びを出しながら、透明から通常の姿へと戻った。


 しかし――。


「何だあれは? 燃えているじゃねえか」


「全く持って意味が解らん」


「睨めつけてただけで燃やすなんてスキルあるのか?」


「そう言えばあったな――アードルハイムで私と戦った日本人が……。そうガープ曰く魔眼だと」


 私がそう呟くと、メリーザ、レイ、スーは勿論、ワイズも少々驚いていた。


「だから位置が分かったのか?」


「正直、効果はよく分かっていない」


 こういう時、プロフィールを視ることができればいいが、究極の阻害者アルティメット・ジャマーが付いているため奴のスキルが何なのか全く分からない。それにコイツの目的は一体何なんだ。


「マカロフ卿。引きましょう!」


 メリーザがそう冷や汗を流しながら私に忠告をしてきた。剣幕な表情を想像するからにアヌビスの戦闘値が以上に高いという事だろう。


「戦闘値はどれくらいだ?」


「7,000です」


「ほう――」


 私が出会った魔物のなかで一番高い戦闘値だ。確かに引くのもアリだろう。しかし、私の中ではここでアヌビスに勝つことが出来なければナリユキ・タテワキにも勝てない気がした。


 アヌビスと目があった――。


「人間よ。余から逃げられないことをあの魔物をもって証明してやろう」


「喋れるのか」


 私がそう言うとアヌビスはニィと口角を吊り上げて、燃えているインベラーズ・ジュラに掌を向けた。


 突如として掌から放たれた紫の一筋の光――。


 その光はインベラーズ・ジュラの頭を貫通して門をそのまま貫通した。その瞬間インベラーズ・ジュラはその場でぐったりと倒れた。たった一撃で怒り狂っている魔物を沈めたのだ。


「余に背を向ければ、あの魔物のようになるぞ。分かったな?」


 禍々しい邪気を放ちながら、鋭い眼光を向けてくるアヌビス。


「次から次へと敵が出てきてキリがぇ――ぶっ潰してやる」


「かかってくるがよい」


 どうやらワイズも、自分より圧倒的に強い魔物と対峙したことにより武者震いを覚えているようだ。私も久しぶりに挑戦者チャレンジャーとなろう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る