第187話 龍騎士Ⅲ

「圧が凄いな」


 すると、クロノスは前のめりになっていた体勢から、コホンと咳払いして着席した。


「申し訳ございません。取り乱してしまいました」


「そんなに凄いのか?」


 俺がガブリエルを見るとコクリと頷く。


「私はあんまり知らないんだよね。確かに噂では聞いたことあるけどどれほどのものかは――」


 そう申し訳なさそうにしているルミエール。


「具体的に何が凄いの?」


「ゾーク大迷宮には神話でしか語り継がれていない、ゾークというZ級の魔物が造りだした自然の産物とされています。そしてそのゾークを倒すことができれば、そのゾークから世界一の力と富を与えられるという話です」


「胡散臭」


 俺が冷たくあしらうと、クロノスは凄く残念そうな表情を浮かべながら肩を落とした。


「ナリユキ様は富や名声、力といったものに執着がなさそうですもんね」


 と、落胆としながらそう呟くクロノス。


「そうなんだ。俺は一人でも多くの人間を豊かにできればそれでいいからな。でもそんだけの噂があるなら、何で今まで発見されなかったんだよ」


「それは私も知っているよ。知人に聞いた話だと、ゾーク大迷宮がある場所に行くと、魔物にやそこを守っている民族に襲われるらしい。だから、見た報告が無いのであくまで噂程度としか広まっていないそうだ」


「成程――。でも必死に探していたときもあるんじゃないか?」


「だから、長い年月をかけて風化したんだと思うよ。次第に、ゾーク大迷宮の話の関心度は薄れていったのさ」


「成程」


「じゃあ俺達がそのゾーク大迷宮の場所を突き止めたらええんか?」


 そう言って自身満々に出てくるレンさん。俺が後ろを振り向くと、アズサさん、ノーディルスも問題ないという表情だ。ネオンさんに関しては不安気だ。


「それはちょっと危険すぎるからな――」


 物凄く困った表情を浮かべるルミエール。


「それは危険すぎます!」


 クロノスとガブリエルはそう口を揃えて忠告した。しかし、レンさんは全くと言っていい程応えてなかった。


「別にええやないですか。ほら、俺達にアードルハイム帝国の調査を行かせたヤバい奴がカーネル王の前にいますし」


「ぐうの音も出ない」


 俺がそう呟くと、ミクちゃん、ランベリオン、アリシアは苦笑いをしていた。ノアはというと話に全く興味を示さずに欠伸をしている。露骨に眠そうだ。


「た――確かにそうだね。君達の力が無ければアードルハイム帝国の攻略は無かったわけだし」


「レン殿達がカーネル王国のギルドに所属している冒険者パーティーでトップクラスの実力を持っているのは明白ですからね」


「何と言っても私達から得ている信頼度は非常に高いです。ルイゼンバーン様からの報告も目まぐるしいですし」


 ルミエール、クロノス、ガブリエルの順にそう感想を述べた。完全にOKの雰囲気である。


「て、ことはいいんですか?」


 レンはそう言って目を輝かせていた。冷静に考えたらアレだ。レンさんってマカロフ卿に絡んでいくスタイルだ。俺はあんなややこしい人を嗅ぎ回るの面倒だから、そういう危険な道を選択していく生き様は尊敬できるし格好いい。まさしく勇者って感じだな。そう考えると、とても信頼できる冒険者パーティーを見つけたものだ。


「でも探すって言ってもどうやって探すんだよ」


 俺がそうレンさんにそう言うと「あ――」と声を漏らすレンさん。


「嘘やん! ノープランで任せろ言うたん? めちゃくちゃアホやん!」


「アホ言うなや! つい勢いでプレゼンするときもあるやろうがい!」


 2人のいつもの言い合いが始まった。するとノーディルスさんが間に入り。


「2人共いい加減にしろ。カーネル王の前だぞ」


 ノーディルスさんはそう2人をギロリと睨んだ。


「コイツが売って来てんからしゃあないやん!」


「ちゃうやん! アンタがノープランで言うからやん!」


「黙れ」


 そう言うと、アンデッド本来の狂気が瞳に宿った。ノーディルスさんって俺より戦闘値低いのに、背筋に寒気が走る程の迫力――。


「すまん」


「うちもゴメン」


 その迫力に気圧されてめちゃくちゃ凹む2人。


「カーネル王。私の首1つで何とかこの2人の非礼をお許し頂けないでしょうか?」


 そう言ってその場で土下座をするノーディルスさん。こういうところをまとめるノーディルスさんは裏リーダーって気がする。


「いやいやいや! 気にしなくていいって! 顔を上げてくれよノーディルス君! 全然何とも思っていないからとりあえず楽にして!」


 と、立ち上がってめちゃくちゃあたふたするルミエール。もう何かコント見ているみたいだ。


「ありがとうございます」


 ノーディルスさんはそう言って立ち上がった。すると、レンさん、アズサさん、ネオンさんも土下座をして謝罪。


「大丈夫だって。それより楽にして続きの話をしよう」


「ありがとうございます」


 3人はそう言って立ち上がって胸を撫でおろしていた。本当にこの2人は場所を関係なく漫才するな。流石に人を見てやっていると思うが。


「で、続きだが今回は私達から依頼をさせてもらう。それでいいね? ナリユキ」


「ああ」


「よし。それじゃあどうやって調べて行くか聞こうか」


 ルミエールの問に「そうですね」と呟きながら顎に手を付けて考えるレンさん。


「そもそも何ですが、ナリユキ閣下に情報提供した人に聞くのが無難かと」


 ノーディルスの発言にギクリとした俺。言うの遅かったから絶対に怒られる。


 俺がそんな表情を浮かべているとミクちゃんが、肘で俺の右腕を小突いてくる。


「実は場所はもうその場所は分かっているんだ」


 俺がそう言うとルミエール達も、レンさん達も「へ?」と間抜けな声を漏らしていた。


「セガールのリベリア遺跡にあるらしい」

 

「それ先に言ってくださいよ! 何でそんな意地悪するんですか!?」


「そうだよナリユキ!」


 と、レンさんとルミエールに反抗される俺。ああああ聞こえない――。


 と、耳を塞いでふざけていた。


「ナリユキ様は恐らく情報を聞いてから危険度を確かめたかったのでは?」


「ナイスカバー! 実のところそのゾーク大迷宮ってのがイマイチ分からんからな。話すだけ話をして情報を聞き出そうと思っていたわけだ」


 すると、皆は納得してくれた。


「だから頼むのはリベリア遺跡周辺での情報収集になる」


「場所は間違いないんですか?」


「信ぴょう性は高いだろうな。情報提供者のオストロン連邦国の主の諜報部隊の情報らしいからな」


「確かに、オストロンの諜報部隊の情報収集力は定評がありますからね」


 ガブリエルがそう呟くと、それに反応してルミエールもクロノスもコクリと頷いて同意していた。


「分かった。じゃあ4人共。今回は私個人の依頼だ。リベリア遺跡周辺の調査をせよ。無駄な戦闘は避ける事。いいね?」


「はい!」


 こうして、リベリア遺跡周辺の調査は、レンさん、アズサさん、ノーディルスさん、ネオンさんの4人に託された。毎度毎度大変な思いさせているな本当に。

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