第154話 罰Ⅱ

 俺が見たのは、ノアVSマカロフ卿。ランベリオンVS森妖精エルフのメリーザという女性だった。他にも、アズサさん、ノーディルスさん、ネオンさん、ラングドールも兵士と戦っていた。その兵士の人数は、反乱軍と同数程度。勿論、皆が皆、つば迫り合いをやっている訳ではなく、残っている人数と同じくらいの人数が地面に倒れていた。ざっと見た感じだと反乱軍の兵士のほうが倒れている数が多い。


「これまた酷いな。そんでノアが何でマカロフ卿と戦っているかも分らんし、ランベリオンに至っては相手が森妖精エルフだし」


「メリーザ!」


 アリシアがそう叫ぶとメリーザは、ランベリオンの刀を受け止めていたが手が緩んだ。


「アリシア――」


 メリーザはそう呟き、アリシアを睨めつけていた。ん? 何か訳ありなのかな?


 出で立ちはというと、金色の長い髪に。白く凛々しい顔立ちで、翡翠の首飾りをしている漆黒のドレス姿は、悪魔に魂を売ってしまったのか? と思わせる。マーズベルにいる森妖精エルフは皆、純白の衣装だから黒って違和感あるんだよな。


「隙あり!」


 ランベリオンがそう言うと、メリーザはそのまま刀を受け止めてしまった。この時点で死の灰デス・アッシュによる効果が発動されるが――。俺から視たメリーザのスキルにはとある仕掛けがある。


「何!?」


 刀を受けたはずのメリーザは平然としていた。そしてランベリオンに向かって放たれるスキル。


殺戮の爆風撃ジェノサイド・ブラスト


 ランベリオンは零距離でそれを受け止めることになるが、ダメージ軽減Ⅴがついているので、ランベリオンが受ける、パッシブスキル、アクティブスキル、アルティメットスキルのダメージは50%カットされる。それに硬質化Ⅴも付いているから、ランベリオンにはさほどダメージが入らない。が――。ランベリオンは俺が来たので、一度メリーザから距離をとった。


「ナリユキ殿! 無事に成功したようだな!」


「ああ。それにしても面倒くさい相手に絡まれているな。まあマカロフ卿がこんな一瞬で、ここに姿を現した理由は分かったよ。あのメリーザっていう森妖精エルフ転移テレポートだな」


「ナリユキ・タテワキだと!?」


 マカロフ卿もこっちに気付いたようで、ノアの顔面をぶん殴って吹き飛ばしてこっちを見た。このロシア人本当に強いな。ガープから知性を共有してもらっていなければ、ノアとは互角の戦いだったしな。


「ナリユキ・タテワキ――。マカロフ卿! 聞いていた話と違います! 念波動の数値が6,200です!」


「6,200だと!? そんな馬鹿な数値――」


 マカロフ卿はそう言って目をしかめるなり、何か納得した表情を見せた。あれ? マカロフ卿って鑑定士Ⅵ持っていないよな? 


「何でガープをお前達が攫っているんだ? いや、もう息は無いのか。それでお前が知性の略奪と献上メーティスを託されたわけだな?」


 どんなメタ考察だよ。ビビるんだけど。


「まあ、パワーアップして、記憶を奪ったり共有したりもできるようになったんだがな。マカロフ卿、アンタはガープがこういう結末になることを予測できていたんじゃないか? ガープの記憶に出てきたアンタは、魔族のアンタを帝国軍に入れて、第一騎士団の団長の座まで譲るなんておかしな話だ。強さを買われていることは分かるがな――。と言っていた。これはどういう意味なんだ?」


 すると、マカロフ卿はふうと溜め息つきながら葉巻に火を付けた。


「そのくらい自分で考えろ。ただ、死体を運んでくれたのは感謝する。あと――」


 すると、マカロフ卿はレンさんを見るなり。


「レン・フジワラ! お前はジークンドーの腕をさらに磨くだけで、まだまだ実力は上がる! 魔眼を手に入れたからってつけあがるんじゃないぞ! 次会った時は殺されると思え!」


 マカロフ卿がそう言うと、レンさんは「怖いねんけど」と一言。


「待て。この状況で逃げれると思っているのか?」


「そうですね。確かに、その後ろにいるのはアードルハイム帝国軍に捕まっていた人々でしょうか? そんな大勢いてはこちらには勝ち目がありませんが――」


 メリーザがそう言うとマカロフ卿はニッと笑っていた。


「ナリユキ様、何か凄い羽音が聞こえます」


 戦っている兵士の怒号や、気合の声でそんなものは全く聞こえない――。が、異常聴覚を持つメイが言うのだから間違いない。


「来ました上空にいます!」


 俺が見上げるとそこには驚くべきものが飛んでいた。


「何だあの鉄の小さい飛行船は?」


「あんもの見たことないですね」


 ランベリオンがそう言った後に、アリシアが首を傾げながらそう言っていた。しかし、俺とミクちゃんと、レンさん、アズサさんなら分かるはずだ。


「オスプレイだ」


 気付かなかったが、座って体力を回復させていたクリンコフがそう言ってくれた。


「あんなもんどうやって――」


「私の主要顧客はたくさんといるのでね。当然だと思うが?」


 オスプレイの存在を知らないこの国の人々は、その謎の物体にくぎ付けになっていた。攻撃をすることも無い。ただ、得体の知らない何かを知ろうという、知的生命体の本能が出ていた。


 扉が開き現れ出て来たのは小さい少年のようだった。その少年が飛び降りて来て、顔が認識できる程の高さになったときの事だった。


 眩い光がこの一帯を覆った。


 視界が完全に奪われたと同時に、耳にモスキート音のような高音の周波数のようなものが耳を刺激した。


 耳栓を持っている俺でも容赦が無いものだった。


 平衡感覚を狂わされているようだ。ベルゾーグが人工電磁パルスEMPなら、今の少年から放たれたであろうこの現象は人工フラッシュバンというべきか。


「ミクちゃん!」


「ナリユキさん!」


 俺はミクちゃんが隣にいることを確認できたので、抱き寄せて離れないようにした。


 数十秒間という時間だったが、体感にしたら分単位にも思えたこの現象――。


 俺達の目が回復した頃には、マカロフ卿軍は誰一人としていなかった。勿論、マカロフ卿軍の倒れていた兵士も姿を消していた。


 



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