第147話 救出Ⅳ

「喰らえ。灼炎フレイム!」


 すると、襲い掛かって来た前列の帝国兵は全員燃えた。ステータス視て思っていたけど名前格好いいな。


「俺も負けてられねえな」


 第2陣が襲い掛かって来た。レンさんは一気に6人程燃やした為インターバルが必要だ。魔眼のスキルは発動できない。俺は帝国兵に手を向けた。


大爆発エクスプロード


 爆発範囲はおよそ5mに設定し爆破。小さい爆発ではあるが強力なんだよな。


「うわ。それずっこいですね」


 レンさんがそう言うのも無理は無い。とりあえずさっき襲ってきた帝国兵が全員黒焦げになって倒れてしまったからである。


「終わらすん早すぎません?」


「いいんだよ。それより第3陣くるぞ」


 もはや雑魚狩りのゲームだ。


「よっしゃ見とれよ」


 中距離系のスキルを使えばいいものの、レンさんはわざわざ丁寧に突っ込んでいった。ん? 自殺志願者かな? とも言いたくなるが、レンさんはマカロフ卿が認めた近距離戦闘の達人。スキルという概念なら俺なんか普通にやられるしな。そもそも俺、陰キャラだったから、イケイケのヤンキーに勝てる訳ないんですけどね。


 敵兵で一番早い人間が槍を突き出してきた。レンさんはそれを膝を抜いて左に避けて、拳を縦に構え、床を強く蹴った脚力の上に行こうとする力と同時に、脚に回転を加えてさらに力を強化しているようにも思えた。そして、拳に力を一点集中させて撃った。


 レンさんが放った拳は、いわゆる前にならえの、手を伸ばした状態から拳を作った感じだ。一見弱そうにも見えるが鎧を着た兵士が後ろに吹き飛んでいた。しかも驚くことに身体向上アップ・バーストを使っていない状態だから、生身の力で突き飛ばしたことになる。普通に恐ろしいな。


 そしてその後、レンさんはスルスルとまるで蛇のように滑らかな動きをしつつ、帝国兵を次々と倒していた。俺の感想? 間違いなくブルース・リーだわ。


「レンさん、あのパンチなんて言うの? めちゃくちゃ強いじゃん」


「あれはワンインチパンチ言うんや。結構厚めの石板も割れたりするし、瓦も10枚くらいやったら楽勝に割れるで。まあ拳さえ鍛えておけばどうとでもなるんですわ。ビビりました?」


 涼しい顔して凄い怖いんだけど。あっちの世界で会っていたら絶対に喧嘩売ったらダメな人だ。そりゃあマカロフ卿のが怖いけど、レンさんも十分に怖い。


「レンさんにスキル無しの勝負は100%勝てないことが分かりました。鍛えてはいるけど、多分一発喰らってのたうち回る未来しか見えない」


「まあスキルの世界やからそんな心配いらんねんけどな。否が応でもパッシブスキルは絶対に発動するからな」


「無かったらああなるんだろ?」


「そゆこと~」


 と、呑気に言っているレンさんだったが、言っている間に第4陣の帝国兵がこっちを睨んでくるなり襲い掛かって来た。


「舐めた真似をしやがって!」


 そう言ってきてスキルを放ってきた。炎、水、風、雷、闇、光とそらもうわんさかだ。まあ土は近接攻撃と防衛スキルのみだから、雑魚が土の遠距離の土属性のスキルなんて使えないから絶対に飛んでこない属性なんだけどな。


「レンさん壁に部屋の中に入れ」


「え?」


 俺が手を向けると前方にいるレンさんは急いで、ミクちゃんがぶち開けた拷問部屋に入った。


殺戮の爆風撃ジェノサイド・ブラスト


 俺の右手から放たれた爆風は、帝国兵共のスキルを見事に無効化した。そして、帝国兵の鎧をズタズタに引き裂きながら、全身から血を流して帝国兵達は床に倒れ伏せた。


 当然、レンさんが倒した敵も巻き込まれているから、FPSで言う死体撃ちである。良い子は真似しないように。


「恐ろしいスキルやな」


「まあ生物の脈をナノサイズで傷つけるスキルだからな」


「なかなかエグイな――」


 レンさんはそう呟いていたが、後ろを見ると、ミクちゃんとアリシアは流石! と言いたげな顔をしていて、メイはポカンとした表情をしていた。強すぎる――。と、でも言いたそうな顔だ。


「これで片付いたな。よし、今から皆を開放していくぞ」


「かしこまりました」


「皆をってめちゃくちゃ人いますよ?」


 まあメイには伝えていない作戦だからそう疑問に思うのも無理は無い。


「俺は手から何でも出せるスキルを持っているんだ」


 そう言って手から、枷を外すことができる鍵をジャラジャラと出した。


「す――。凄すぎます」


 鳩が豆鉄砲を食った顔とはこの事なのか。まあまず何で鳩に豆鉄砲を撃ったんだよって話はどうでもいいか。


「とりあえず、まずは拷問部屋にいる人達から解放していくぞ。アリシアが放った空間衝動スペース・ショックで必ず敵が来るからできるだけ急いで多くの人を救出する。万が一敵が来て、捕らわれている人の誰かが死んだ。なんてもんは見たくないからな!」


「はい!」


 ミクちゃん達の返事を聞くと、俺達は徐に拷問部屋の人達を開放させた。俺以外の皆は回復ヒールができるから、ダメージを受けている人達には、回復ヒールを行い、鍵を渡して他の捕まっている人を開放していくという算段だ。返報性の原理ってやつだ。こっちが先に何かを施したら、相手にも1つ何かを要求を飲んでもらうってやつだ。いきなり壁をぶち壊して、帝国兵を惨殺した一見怪しい連中でも、受けたダメージを全部治療してくれるっていう恩恵を受けたから、とりあえず悪い奴じゃなさそうだし、枷を外すくらいなら今の自分でもできるし、よく分からないけど手伝ってもいいかなってやつだ。


 まずは自分から開示することで、相手にも開示させるという原理を意識して使うのは、あっちの世界でもこっちの世界でも使える。まあ悪く言えば狡猾っていうのかな。


 そうして、俺達は数十分かけて彼等、彼女等の枷をどんどん外していった。

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