第146話 救出Ⅲ

「まあ張り切っても出てくるんは直ぐやけどな」


 と――。レンさんが拷問部屋の扉を開けた。


「あの人はどうするんですか?」


 メイがそう恐る恐る指したのは、レンさんが燃やした帝国兵だった。


「いらんわんそんなん捨てとき。そんな外道な奴供養する必要もあれへんわ」


「意外と冷徹なところあるよなレンさん」


っといてくれへん? ナリユキさんの事も凍らすで」


「それは勘弁」


 魔眼を手に入れていて強くなったからか、強気だった性格により強い磨きがかかったようだ。


「あの――。皆さん物凄く強いですね。今更なんですけど。ナリユキ様が5,100、アリシア様が4,700、ミク様とレン様が4,900――」


「そうなのか? 俺からしたら普通過ぎて基準が分からないんだよな。レンさんも化物の入りの仲間らしいぞ」


「らしいですね――。というか、めちゃ呑気に喋りますやん。これが一国の主の余裕ってやつか。とりあえずべりーちゃんと森妖精エルフの姉ちゃんお願いや」


「はい!」


 レンさんの掛け声で、2人は廊下の中央に立って目を瞑った。


 ふう――。という2人の呼吸が、この静寂の空間に響く。まあ、実際違う拷問部屋覗いたらそれはまあおぞましい事になっているだろうがな。


「なあ、今冷静に思ったけど、拷問部屋破壊したら、敵兵一斉に襲い掛かって来るんちゃういますん?」


「それは俺とレンさんでやりゃいいだろ。2人はMPを結構喰うはずだから、少し隙ができるだろうし」


「成程」


 レンさんがそう言ったと同時に、ミクちゃんの足元には黄色の光属性の魔法陣が。アリシアの足元には桔梗色の幻属性の魔法陣が浮かびあがった。


無限の光線園インフェニット・レイガーデン


空間衝動スペース・ショック


 詠唱と同時にミクちゃんの身体から1つの大きな光が現れた。そしてその光はやがて無数の光線となり、この部屋全体に行き渡った。その光に当たっている壁はみるみると溶けていく。


 まるで蛍がいる花畑の如く光が行き交う世界は、絶景と呼んでもいい。ただし、この光はミクちゃんが思い描いた対象物なので、これを仮に敵に対しての攻撃にするならば、無数の光に身体を傷つけられて、皮膚が剥ぎ取られていくという恐ろしいスキルだ。大天使と上位天使を倒しまくっていた成果だ。


 対するアリシアは、目をカッと開き両手を横に大きく振った。すると強い衝撃のようなものだけが、この地下に行き渡った。正直何が起きたかは全く分からん――。


 と、思っていたが、パリンパリンとガラスが割れるような音がしていた。そうか――。ここの監視は、全て監視カメラで行っていたのだ。と――。考えると益々文明が発達しているという証拠だな


 俺は思わず口角が吊り上がってしまった。


「ナリユキ様。顔怖いです」


 と――。メイに言われてしまった。危ない。危ない。これはベルゾーグのスキルが益々効いてくるではないか。楽しみったらありゃしない。


「流石に疲れた」


 ミクちゃんが立ち眩みをしたので――。


「危ないぞ?」


 俺はそう言いながら、前でフラつくミクちゃんを後ろから抱き寄せた。


「えへ」


 すると、ミクちゃんがそう言いながら首を上げて照れ笑いをしていた。この可愛さは反則です。尊い警察がいたら逮捕です。


「あの2人凄く雰囲気いいですね」


「せやろ? 俺絶対付き合ってると思うねん」


「やっぱりそうなんですね。何かこう見ていてキュンキュンします。私は殿方との経験がないんですけど、ああいうの見るとこう――。胸が締め付けられるような感覚というか」


 レンさんとメイの会話に恥ずかしくなった俺は思わずコホンと咳払いした。つか付き合ってるんなんて情報誰が教えたんだ?


「あの――。なりゆき君。多分レンさんが知っているの私の口が滑ったからだと思うからあとで言うね?」


 て――。そんなに可愛い顔で言われても! いやめちゃくちゃ顔紅いじゃん! どうしたのミクちゃん! 気になるじゃない!


「ナリユキ様。来ましたよ」


 アリシアの言葉にハッと目が覚めた。危ない危ない。ヌーブをかますところだったぜ。


 状況を再度見てみると、改めて凄い事になっている。部屋という部屋は全て壁が焼かれて部屋の中が剥き出しになっている状態だ。こりゃプラベートもへったくれもないな。


「何事だ!」


「いたぞ! 侵入者だ!」


 ゾロゾロと廊下に出て来た帝国兵達。まずはコイツ等を叩きのめさないことには始まらない。今、出て来た帝国兵だけでざっと50人くらいだろうか。結構いるんだな。そう考えるとこの地下地獄過ぎない?


仰山ぎょうさん出て来たな。気合い入るわ」


「共闘だな」


「そうやですね。ナリユキさんと共闘できるなんて楽しみやわ。俺はいつでもOKやで。そうや! ナリユキさんに俺のジークンドー見てほしいねん」


「いや、分かったから少し落ち着けって」


 レンさんは何故か子供のようにはしゃいでいた。まあアズサさんが目の前で酷い目に遭わされたのだから、それを晴らすってのもあるのだろう。俺としてはレンさんはもう結構帝国兵の命奪っているから、もういいんじゃない? って思うが、どうちらにせよコイツ等は、自分の私欲のためだけに酷いことをしている連中だ。何の罪もない人間が拷問を受けたり、犯されたりっておかしな話だろ? いや、じゃあ罪があったらそれでそんな非人道的な事をしてもいいの? ってなるな。


 要はアレだ。自分の軸を持てばいい。俺達がやっていることも、あの薄汚い帝国兵からすればただのエゴだ。


 でも、エゴでいいじゃないか。誰かやらなければアードルハイム帝国が正しい国になんてならない。


 本当にそれ誰かが望んでいるの? 望んでいるさ。ミクちゃん達の報告とレンさん達の報告を聞く限り、アードルハイム帝国の国民が、帝国兵の事を 怨嗟えんさがこもった目つきで見ていたようだ。実際に反乱軍という組織があるくらいだ。何より、その反乱軍の団長が、アードルハイム帝国軍第1騎士団団長のガープというじゃないか。

そして、その反乱軍の意志を受け継ぐのが、マーズベル共和国の我々だ。


 やると決めたからにはとことんやる。


「きましたよ」


「ショータイムだな」


 帝国兵は怒号をまき散らしながら走ってきた。


 

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