第143話 激突Ⅳ

「ご無事で何よりです」


 そう言って迎えてくれたのは、ノーディルスだった。


「うぬの支援なかなかのものだった」


「いえいえ。大したことありませんよ」


 いや、実際は本当に大したことがあるスキルだったのだが。


 我がクリンコフを地面におろすと、すぐにネオンが駆け寄って来た。


「すぐに手当てをします」


 そう言って、ネオンはクリンコフに向けて手を向けて回復ヒールを行う。すると、クリンコフの傷はみるみる癒えていく。


「ふう。助かったありがとう」


「いえいえ」


 クリンコフは完全に回復したようで、ムクリと起き上がった。そして、猛々しい声が聞こえる部下達の方に目を向けていた。


「やはり、体力の消耗が多そうだな。先程勢いは無くなってきている」


「そうだな。我等も増援に行くぞ。ネオンはここにてくれ。我等が3人で畳みかける」


「かしこまりました。私は攻撃に参加しなくてもいいのですね?」


「ああ。貴重な回復士ヒーラーだからな」


「わかりました」


「待ってや、うちも行くで。いつまで寝てられへんからな」


 そう声がして馬車から姿を現したのは、レン殿と同じ関西弁を喋る明るめのベージュの髪色をした女性だった。確か名前はアズサ・スギモトだ。


「大丈夫なのか?」


 ノーディルスがそう問いかけるとアズサ殿は「わっ!」と驚いていた。


「なんや、ノーディルスか。久々にその姿見たから、吃驚したやん」


「確かに久しぶりだな。で、体はどうなんだ?」


「ばっちりやで。心配かけたな。ごめんな」


 アズサ殿はそう言って深々と頭を下げていた。


「それにしてもホンマ腹立つわ。あの帝国兵達顔覚えたからな。次会ったら絶対殴り飛ばしたるねん」


「アズサさん。それ全員レンさんが怒って燃やしてしまいました。あの場にいた人間殆ど死んでしまっています」


 ピタリと動きを止めて後、首を傾げるアズサ殿。


「ん? スキル使われへんのに?」


「そうだ。キレて魔眼を開眼したんだ。本来の人間の入手方法としては、邪眼か魔眼を持っている龍族、魔族、闇森妖精ダークエルフを倒して、一定の確率でスキルを入手できるんだ。だが、レンの場合は普通に開眼したから、多分アイツ実は人間じゃないんだろ?」


「いや、めちゃくちゃ人間やけど」


 確かにレン殿は特例すぎる。もはやこれは賢者達に報せないといけないレベルの異例。現実から目を背けているが、レン殿が実は人間ではなかったというのが考えのほうが妥当だ。


「これで3人揃いましたね」


 ネオンはそう言って微笑ましい表情を浮かべていた。


「因みにレンはナリユキ様達と同じ行動をしているから、今はいないぞ」


「なんや、そうやったんか。魔眼持ってるレン見てみたかったけどしゃあないな。よし、ほないっちょ暴れるで。あ、ランベリオンさんお願いします」


 そうアズサ殿にペコリと頭を下げられた。関西人って皆こんな感じなのか? ペースを狂わされる。


「いいだろう。我の背中に乗るがよい」


 アズサ殿が乗ったことを確認すると、我は戦闘している同胞達のほうへ向かっていく。ノーディルスはアンデッド族なのに黒翼を出して、飛んでいるので驚くばかりだ。アンデッドは本来飛べないので、冒険している中で習得したものだろう。クリンコフは再び巨人化ジャイアントになり敵陣の方へ走り、近付いたところで大ジャンプをして一気に距離を縮めていた。


「迎え撃て! 奴等を好きにさせるな!」


 すると、ラドクルスの兵達が、空に飛んでいる我等に向かって、掌を向けて来た。


「先手必勝だ」


「防衛はうちがするから任せて下さい。ランベリオンさんは存分に暴れてもらったら」


「そういえばうぬはどのようなスキルが得意なんだ?」


「うちは防衛の方が得意やねん。タンク役みたいな感じかな」


「タンクか成程」


「分かるんや」


「それはそうだろう」


 我は体内のエネルギーを再び口元まで持ってきた。


紅炎放射プロミネンス・バースト!」


 敵兵が放って来ていたスキルは風属性だった。我が吐いている火の方が圧倒的に火力があるため、相手の風の攻撃スキルの影響で、我のスキルの威力が見違えるほど上がったのだ。


 瞬く間に、ラドクルス以外の敵兵は灰と化した。


「凄い技やな。一瞬で灰になってしまった」


「我のユニークスキルだ。火属性のスキルに直撃した者は、問答無用で灰と化す。直撃した者の生きる資格を奪い取る」


「えらい恐ろしいスキルやな。よし、うちはこの辺で降りてあいつの相手するわ」


 そう言ってアズサ殿は我の背中から飛び降りた。そしてラドクルスに向かって剣を突き出していた。


「残念やけどここで死んでもらうで」


「小癪な小娘がっ!」


 ラドクルスはそう言ってアズサ殿に斬りかかった。アズサ殿は軽々と左手のプレートで受け止めて、ラドクルスの

腹部に横薙ぎを浴びせた。


 勝敗ももう近いだろう。ラドクルスを倒せば大将首を取ったことになる。


「この私がこんな小娘にっ!」


 そう言ってラドクルスは、苦い表情を浮かべながら立ち上がった。


 すると、アズサ殿は剣の鍔付近を握り締めた。短く持っている独特のスタイルに違和感を感じた。


 そして、 身体向上アップ・バーストで自身の身体能力を大幅に底上げしている。


「これでどないや!」


 アズサ殿は、ラドクルスの頬に思いっきり柄で殴りつけた。


 当然、それに直撃したラドクルスは数十メートル吹き飛び、ピクリとも動かない様子だった。


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