第122話 騒動Ⅲ

「こんな子供を冒険者パーティーに入れているパーティーなど知れている。大方、問題だらけのパーティーで、子供を入れないと人手が足りないんだろう。貴様も可哀想だな」


「ミ――。じゃない。ロトス」


「何?」


「コイツ思いっきり顔面ぶん殴っていい?」


「思いっきり殴ったら多分顔面吹き飛ぶから駄目だよ」


「だよね~。じゃあ逆にデコピンだけで倒すのはありだよね?」


「それなら問題ないね」


 と、涼しい顔で会話してるけど、いくら敵が弱いとは言えデコピンだけで倒すなんて、少年漫画の主人公みたいなことができる訳ないやん。いくら強いって言ってもハッタリきつすぎる。


「デコピンというのはなんだ?」


「オジサン知らないの? 額にこうやって指だけで弾く攻撃だよ」


 ノアはそう言ってデコピンを実演してみせた。わざとゆっくり動かしたんやろう。あんなんデコピン一発でKOなんて100%無理やからな。


 それを見た帝国兵達は笑いを堪えてる。喋りかけてくる帝国兵も笑いを堪えながら――。


「いいだろう。私に一発入れてみるといい」


 そう言って帝国兵は中腰になって額を差し出した。


「ほい」


 遠慮なく繰り出されたノアのデコピンは帝国兵にクリーンヒット。中腰になっていたせいで、額に直撃して、地面にゴロンゴロンと転がるなり、後ろの帝国兵の馬に激突。


 当然馬は暴れ始めたから、危険を予知した他の帝国兵がフォローに入って、馬の足踏みを食らわずに済んだ。


 この帝国兵がフォロー入れへんかったから、コイツの顔面がグチャグチャになっていたところやな。


「あれ? 結構手加減したはずなのにな。おじさん弱いね」


「兵長、大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」


「ええい。この私をコケにしやがって」


 せっかく心配されているのに、そのフォローに入った帝国兵の手を振り払って、こっちにズカズカと歩いてきた。


「もう遠慮はせん。殺してやる」


 まあ――。そうなることは大方予測できていたけどな。


 いくら何でも剣を抜くのは――。と考えていそうな表情を浮かべている帝国兵が何人かいた。


「なんだ。おじさん殺し合いやるの? 本当に?」


 と、不気味な笑みを浮かべているノアは、さっきまでの顔つきとまるで別人。


「なっ――」


 そう声を漏らす兵長と呼ばれる男は、剣を抜いたものの物怖じしていた。俺から見ても、ノアが一瞬放った殺気は背筋が寒くなるもんやった。


「ねえ? やるの? やらないの?」


 ノアはそう言って眼光を飛ばしながら一歩進んだ。


 すると、他の帝国兵も焦りを見せ始めて、全員一歩後退していた。さっき見せた異常なデコピンと、ただならぬ重圧プレッシャーはマカロフ卿と同等レベル。


「きょ――。今日のところは見逃してやろう。幸運だったと思え」


 そう言って兵長は馬に乗り、他の帝国兵を連れて立ち去った。


 完全に帝国兵が消え去った後。


 パチパチと拍手する音が聞こえた。お店の方を見ると、客はスタンディングオベーションでノアを見ながら祝福を送ってる。


「凄いぞ坊主!」


「スッキリしましたわ」


「ちっさいのよくやるよ」


 そう拍手を送られて少し戸惑いを見せつつも照れているノア。こういうところはただの子供やねんけど、さっきの殺気は殺人鬼そのものやったもんな。まるで人を殺すのに躊躇いという感情が一切無い感じや。


 マーズベルはこんなヤバい子も味方につけとるんか。この国の戦力と対等と戦争できる国ってあるんかいな――。


「ありがとうございます!」


 ノアはそう言って清々しい一礼をしていた。


「まあ何はともあれ平和にいけたな」


「そうですね。アル君は威圧して撃退してくれたし」


「本当は戦いたかったけどね」


「それは駄目。じゃあ私達もそろそろ行きましょうか」


「何や。もう行くんかい」


「ええ。一応あの人と13時に約束しているので」


 べりーちゃんが言ったあの人とはラングドールの事や。言うてまだまだ時間あるけど、ここのお店の人達にさらに怪しまれないように歩いて行くつもりなんやろ。


「ほな俺達も行くわ。また何かあったら連絡するわ」


「分かりました。くれぐれも気を付けてください」


 べりーちゃんがそう頭を下げると、アリスちゃんもノアも頭を下げてくれた。


「こちらこそ」


 俺達もそう言って頭をしばらく下げた。


「互いに上手くやろうな」


 無意識に俺は手を差し出していた。するとべりーちゃんも手を差し出してくれたので、軽い握手を交わして俺達は別々の行動を再びとることになった。


 反乱軍の裏切り者を見つけてくれさえすれば、こっちが動きやすくなって、捕まっている人々の解放もしやすくなる。あの3人がヘマをすることも無い――。いや、ノアが喧嘩っ早いからちょっと何とも言われへんけど、順当にいけば上手くいくはず――。


 はずやった――。


「ほな俺達も行こか」


「そうですね」


 俺達はある程度お店から離れたら 転移テレポートでお店から離れた。


 こん時に感じていた違和感を、俺は密会してるときに熟考するべきやったんや。


 俺達の去り際に見せた、口角が吊り上がっていた奴の表情を――。その表情の意味を「気味が悪い」だけで済ますんやなかったんや。

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