第118話 進捗報告Ⅱ

 私達は指示された通り、3人1部屋の宿を借りた。


「アリスちゃん。とりあえずナリユキさんに連絡してほしいんだけどいいかな?」


「いいですよ。状況報告とかでいいですよね?」


「そうだね。あと、一度ナリユキさんの方からレンさんに連絡しておいてほしいかな。そういえば、アリスちゃんってレンさんと会ったことないもんね?」


「ですね」


「じゃあ連絡取るの無理じゃん。よくよく考えたら。だから、一度私達と会えるように日程調整をしておいてほしいんだ」


「かしこまりました」


 そこからアリスちゃんがナリユキさんに念話をしていた。念話は話しかけられた人しか声が聞こえないから、実際のところナリユキさんがどういう反応しているか分からない。ただ、アリスちゃんの発言を考えると、驚いているようだった。アリスちゃんはアリスちゃんで申し訳なさそうにペコペコと謝罪していた。内容としては、勝手に暴れてしまって申し訳ございませんとかそういうノリだろう。


 話を聞いていると、内容的にはレンさん達に連絡をとってくれるようだ。レンさんのユニークスキルさえあれば、堂々と出歩くことができるから、アリスちゃんが人魚姫マーメイドで動きが制限されるという心配もない。


「お姉様、ナリユキ様が話してもいいか? って聞いてますけど」


「勿論いいよ」


「ではナリユキ様ありがとうございました」


 アリスちゃんがそう言い終えると。


《聞こえるかミクちゃん》


《聞こえるよ》


《めちゃくちゃ暴れたらしいな。大変だっただろ?》


《まあ、何とかなったからね。でもこれからっどうするかなって感じ。私が良かれと思って取った行動が、駄目だったみたい。好戦的にいったらいったで、ラングドールさんと接触できて、そのまま反乱軍に潜り込んでいるスパイを見つけ出せると思ったんだけどな》


《そんなシナリオ通りにいけば逆に凄いよ。駄目だったら次はこうやってみようって考えるのが大切だからね。まあ一番いいのは何パターンも用意しておいて、次々に行動を切り替えていくスキルがあるといいんだけどね。ミクちゃんは賢いから大丈夫だよ。2人を引っ張っていけるさ》


《うん。ありがとう。なりゆき君はどう? 元気にしてる?》


《元気だけどこの島の生活は暇かな。いつ連絡くるか分からないから、魔物退治して経験値を上げることもできないしな。今後、島をどう発展させていくかとか、アードルハイムをどうしようかとかを考えているんだけどね》


《一日中考えているのも何か嫌だしね》


《そうなんだ。納期とかは無いからな。ランベリオンと真昼間からワインとかを飲んで楽しんでる》


《何か暇を持て余した王様だね》


《皆、頑張ってくれているのに申し訳ねえ。俺が会社員だったときのポジションって、指導する側でもあるけど、一番の稼ぎ頭なんだよね。だから日中にこういうゆったりとした時間を過ごすのって未だに慣れないんだよな》


《でも、今なりゆき君がこうしている間にも、様々なお金が動いているからね》


《俺のお金じゃなくて国のお金な。言い換えると個人の資産じゃなくて会社の資産だ》


《そうだね。なんだか距離は離れているはずなのに、こうしてお話ができるのは電話しているみたいでいいね》


《言われてみたらそうだな。あ、話戻るけどベリトを派遣したからな》


《そうなんだ。じゃあアリスちゃんに連絡とってもらって合流しないといけないね》


《怪しまれないようにどっかですれ違いざまに手紙を交換するみたいな感じよくないか?》


《それいいね。やってること麻薬の取引みたいだけど》


《確かに。とりあえずミクちゃんが元気そうで何よりだよ》


《ありがとう。何か言ってること遠距離恋愛中の彼氏みたいになってるよ》


《それは恥ずかしいな――。とりあえず一日一回の報告は怠らないようにお願いする》


《分かった。じゃあ今日はこの辺で》


《おう! 軽く何か買い出しをして飲み食いするとかにしておけよ。無理に酒場に行って情報収集する必要無いからな》


《分かった。じゃあね》


《おう》


 そういつも通りのような感じで話し終えると、ノア君とアリスちゃんがじっと私を見ていた。


「え? 何?」


「お姉様、ナリユキさんとお話しているとき、凄く幸せそうな顔していますよね?」


「そうそう。露骨に嬉しそう」


 私そんなに顔に出ているんだ。自分じゃそんなの分からないよ。ていうか、こういうことなら部屋から出るべきだった? いや、出たら出たで目立ってしまうしな。念話なんか珍しいから恐らく通報されて帝国兵と対峙する可能性もあるから。


「そ――。そうかな?」


 多分、今の私めちゃくちゃ目が泳いでいる気がする。


「ふ~ん」


 そう言った後、ニヤニヤしながら2人に背を向けられた。やっぱり好きな人と話すと顔に出るものなのか。そうだよね――。悶々と考えていたら、こういう時、なりゆき君は可愛いって言ってくれるから、余計それで恥ずかしくなっちゃう。


 はあ。あっついな~。


「そういえば、そろそろいい時間だけど晩御飯どうする?」


「どっかに買いに行って宿で食べよう。2人共何か欲しいものある? 私買いに行ってくるから待ってて」


「私が行ってきますよ? お姉様に行かせるなんて」


「下手に動いたら駄目だからね。だから、私1人で行ってくるのよ。で、何にする?」


「肉があったらいいかな」


「私もお肉がいいです。あとはサラダとかあると有難いですね」


「分かったじゃあ。待っててね」


「行ってらっしゃい」


 そう2人に見送らてこの宿を出た。この宿の周辺は市場があるから都合がいい。


 適当にケバブ的なお肉と、サラダスティックを買って宿へと戻った。


 その後は3人でお料理を食べて何ともない平和な夜を過ごした。明日も波乱万丈な1日になりそうだ。



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