第113話 帝国軍支部基地潰しⅠ

「貴様等何者だ!」


「いや、もう喋らなくていいから」


 ノア君はそう言って1人の帝国兵に問答無用で石ころを投げつけた。


 火事場の馬鹿力フル・パワーを使っていないようなので、鎧は貫通していないものの、帝国兵を気絶させるには十分の威力。案の定鎧も凹んでいる。


「こいつ等、もしかしてケールが言っていた聖女と呼ばれている奇妙な3人組ではないか!?」


「そ――そのようですね」


「ええい! とりあえず殺ってしまえ!」


 1人の帝国兵がそう叫ぶと20人程が一斉にかかってきた。


 アリスちゃんが掌を向けると。


発泡の嵐流スパークリング・ストリーム!」


 強烈な海水の嵐を放出して20人程の帝国兵を吹き飛ばした。さっき命令していた帝国兵は少しはできるようで、その激流の嵐に巻き込まれないよう避けていた。


 うん。何か私の出番無さそうな気がしてきた。


 アリスちゃんの手には水色のオーラが宿っていた。そのオーラはナイフのような鋭利な形をしている。


 ブオン――。


水刃ウォーター・カッター!」


 アリスちゃんはそう言って、ナイフのようなオーラを宿している右手を振った。


 水の刃が放出されたかと思えば、基地は見事なまでに斜めにスライスされていた。アリスちゃんには青の瞳ブルーリー・アイズのパッシブスキルで、自分が斬るところに人がいないことを事前に確認している。ただ建造物を斬った。それだけの話だ。


 基地が割れたことによって、基地の内部から聞こえる声はただならぬパニックを起こしていた。


 避けた帝国兵も思わず「ひぃ」と情けない声を出している。いやまあね。このスキルって何気に大地すら割ってしまうから私でも直撃すればただじゃ済まないからね。


「あ――悪夢だ!」


 そう言って先ほどまで偉そうにしていた帝国兵は腰を抜かして立てなくなっていた。


「な――なんで立てないんだ。どうしたんだ俺!」


 そう言い聞かせているけど、あまりにも強大な恐怖を前にして体が言うことを効かないのだろう。


「お邪魔します」


 私が先頭に立って基地の中へ入って行くと、先程の帝国兵は剣をぶんぶんと振り回して「来るな! 来るな!」と涙目になりながらお尻で後ずさりしている。


「聖女と愉快な2人のちょっとしたご挨拶ですよ」


 私がそう見下ろしながらそう微笑むと、仮面の下で口元が分かったのだろうか。


「悪魔……」


 そう呟きながら、失神してしまった。


「ねえ。こいつ等って自分達が弱い方の立場になるとこんなに腰抜けなの? 根性ないな人間って」


「人間って言い方止めてよ。これをこっそり見ている人がいたら私達本当の悪魔みたいじゃん」


「うああああああああ! 止めてくれ! 来るな!」


 ――。ええ~。どちらさんの声ですか?


「こっそり聞かれていたので、鏡花水月で記憶が飛ぶくらい嫌な幻惑を見せています。ほら、ノア様が壊した入り口付近の扉の破片が数か所体に刺さっている人です」


そう言われて、左斜め後ろを見ると破壊された扉の資材に埋もれて発狂している人がいた。このままでは彼が出血大量で命を落としてしまう気がしたので、破片を抜いて回復ヒールを行った。


 幻惑が凄いのか、抜いても痛みは感じていなかった。ただ幻惑を見せられて発狂している。


「いや、もう解いてあげて」


「はいお姉様」


 アリスちゃんがそう言って鏡花水月を解くと、彼はそのまま床に倒れこみ気絶した。


 青の瞳ブルーリー・アイズ恐るべし。帝国兵に逃げ場など無い。


「や――奴等が何故ここに!? 支部長奴等です!」


 ケールが全身震わせながら2階から帝国兵をさらに数人連れてきた。支部長と呼ばれる男は、意外にもケールとさほど変わらない40代後半の男だった。


「貴様が悪魔の聖女か」


 いや、どんな報告したらそんな矛盾した呼ばれ方になるの!? と、そんな事はどうでもいいか。


「そうよ。そして愉快な仲間達よ」


「ふざけやがって。殺してくれる!」


 私のボケは誰も拾ってくれず、脳死で突っ込んできた。


「聖女様はそこで傍観しておけばいいから」


 ノア君はそう言って襲い掛かってくる帝国兵に向かって拳を突き出した。


「は?」


 そう唖然とするのも無理もない。ノア君は誰にも絶対に触れない距離で拳を突き出したからだ。


 ゴウッ! と突風が吹いたと思いきや、ただのパンチで真空波を発生させて、帝国兵を吹き飛ばした。


 吹き飛ばされた帝国兵は壁を突き破り外に放り出された。


 勿論、ノア君にそのようなアクティブスキルは無い。本当にただのパンチ。強いて言うならば火事場の馬鹿力フル・パワーを使ったパンチだ。なので、今のを生身の身体で受け止めたら、当然内臓はぐちゃぐちゃになるだろうし、顔に直撃すると顔が吹き飛ぶんじゃないか? と思うような威力だ。正直おっかない。


「す――凄い」


 と、流石のアリスちゃんも驚いている。大丈夫、アリスちゃんも十分凄いから。この男の子が化け物なだけなんだよ。


「お? 流石支部長だね」


 何らかの防衛スキルを発動したのか、支部長だけは、ぜえぜえと息を切らしながらこっちに歩いてきた。


 私は支部長に向けて掌を向けると。


「そう簡単に俺がやられるわけないだろうが!」


 そう怒号をまき散らしていた。


燦爛の光線シャイニング・レイ


 私の掌からは極大の美しく輝く光線が放たれた。


 その光は支部長の頬を掠めた後、民家に当たらないよう上空へと方向転換させた。燦爛の光線シャイニング・レイはそのまま空高く輝きを放ちながら消えた。


 その瞬間、支部長は膝をついてガクガクと震え始めた。


「お――俺には分かる……。光の最上位のアクティブスキルを放った上に、あり得ない方向に曲がった……。ふ――不発では無くわざと――」


 私が掌を向けながら近付いていくと、支部長の身体の震えはさらに加速した。


「い……一体何が目的なんだ! か、金か?」


「聖女の私にそんなもの必要ないわ。第3騎士団長に会わせてほしいの。たったそれだけのこと」


 私がそうギロッと睨むと、歯を食いしばりながら喚き散らした。


「で、できるわけないだろ! 第一帝国軍に手を出したらどのような地獄が待っているのか分かっているのか!?」


「勿論分かっているわ。でも、相手が悪かったわね。貴方の前には帝国軍第1騎士団長のガープと同等の実力者が3人立っているのよ? 私には空を飛ぶスキルがあるわ。この国を壊滅させることなんて簡単な事なの? 分かる?」


「ガープ様と同等の実力者が貴様等3人だと!? 笑わせる! そんな事があってたまるか!」


「あるのよ。私達は異国の冒険者だから。それに帝国軍に手を出したなら、こっちだって後ろ盾はあるもの。私の仲間には第5騎士団長のラングドールより強い実力者が5人もいるのだから」


「そ! そんな人間がたくさんいるわけないだろ!」


「魔物もいるから人間ばかりでもないけど。いや、むしろ人間のほうが少ない?」


 すると、支部長の顔は一気に青褪めていく。


「き――貴様等魔王の手下か何か?」


「まあそんなところかな?」


 なりゆき君は魔物と人間を統べる最強の国主だからあながち間違っていない。閣下だったり魔王だったりと、色々と忙しい人だ。


「できるかできないかを聞いているんじゃないの。やるかやらないか。さあどっち?」


 そう仮面を被った顔を近づけると、支部長はゆっくりと口を開いた。




 


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