第108話 来るⅠ

 あれからロビンソンさんから情報を得た。騎士団長の性格や、特異な属性や戦闘スタイルと言った感じだ。しかし、最近は第2騎士団長に就任した人間がいるらしく、その人物の情報を得ることはできなかった。聞いた話だとその騎士団長は前の騎士団長を戦って殺害したとのこと。このエピソードだけで第2騎士団長が冷徹ということは分かる。


「あとは作戦をどうするかですね」


 まあこれは完全に私達のせいなんだけどね。でもここで私達がやった事を明かすことによって、ナリユキさんが考えた作戦が失敗する可能性が高くなる。


 でも最悪、私達がやって来た兵士を返り討ちにして、この局面を乗り越えて、帝国兵に私達を追わせることによって、レンさん達が所属している反乱軍の注意を逸らすこともできるけど、リスクが高すぎる。


 マカロフ卿もガープも相当な実力だからノア君がいるとは言え、こっちもただでは済まない。体力が消耗しているときに、スキルが発動できない手枷と足枷をされたら全てが台無しになってしまう。


「正直に話し合うか。それで無理なら勝負して負けた方が言うことを聞くという話を持ちかけるんだ」


 ノア君がそう言った。確かに騎士団長クラスでも私達に勝てる相手はいない。一見不利な条件かもしれないけど、私達の実力を知らない人間であれば、この話は乗ってくるはずだ。


「それだと聖女様達に万が一のことがあれば捕まってしまいます」


「大丈夫だよ。俺達はめちゃくちゃ強いから」


 ノア君の自信満々な表情とは裏腹にロビンソンさんの表情は不安だらけだった。仮面を被っているとは言えど、声色は少年だから説得力に欠けるからだと思う。


「でもその作戦が一番現実的ね」


「そうですね――。いや、私が集団催眠をかけるというのはどうでしょうか?」


 アリスちゃんはまた鏡花水月を使おうとしている。


「どんな催眠?」


「あの亡くなった人が普通にいるって錯覚させるんです」


「でも効果範囲があるでしょ?」


「そうですね。だから兵士達は帰っている途中にヴァンがいないぞ! ってなりませんか? それで行方不明になったという話で収まると思うんです」


 何とも言えない。ロビンソンさんの話を聞く限りでは、騎士団によってそれぞれ特徴があるのが分かったけど、第3騎士団は割と理不尽な団だと言っている。すると、いずれにしてもここが狙われるんじゃないかという予測ができる。


「ロビンソンさんは、帝国兵が気付いた時に、どう行動をとると思いますか?」


「正直結果は変わらないでしょうな。理由としては、兵長である彼が突然行方不明になったとなると、当然第3騎士団長のレヴァベル様に報告しないといけません。しかし、一緒にいたはずのヴァンが突然消えたと皆が証言するとどうなるでしょう? レヴァベル様は当然のように、そんな事あるか!  とお怒りになることでしょう。当然の事です。そしてそんな報告をレヴァベル様がアードルハイム皇帝に報告できるわけありません。この国では責任をとるイコール、死刑か地獄のような拷問の2択ですからね。なので、最終的には私達が犠牲となるのです」


 う~ん。予想できていたけど酷い! 清々しい程に酷い! こんなの負のループじゃん。


「殺すことしか考えてないないんだね~」


 と、呑気に言っているノア君を見て、私とアリスちゃんは思わず目があった。


 ノア君がそれを言う? という感じで。


「まあ最終的には僕が――」


「絶対ダメ!」


 私と、アリスちゃんがそう強く言うと、「そんなに怒らなくてもいいじゃん」と拗ねていた。未だに、可愛いのか恐ろしいのか分からない。


 そう話をしていると、ドンドンと扉を強く叩く音がした。


「騒がしいな。申し訳ございません。少し待っていて下さい」


「はい」


 私がそう応じると、ロビンソンさんは玄関の方に向かった。


「大変です! 帝国兵が戻ってきました!」


「何!? 本当か!?」


「はい! 馬に乗ってこちらに向かってきます!」


「分かった。すぐに用意する」


 その会話を終えた後、すぐにこっちまで駆け寄ってきた。


「話は聞こえておりましたか?」


「はい。私達も立ち会います。状況に応じて動きますがいいですね?」


「申し訳ございません。それで結構です。それでは行きましょう」


 私達はロビンソンさんについていき家を出た。


 すると、東の方角から馬に乗った帝国兵達がやって来た。20人ほどだろうか? どのような報告をしたのかは分からないけど、今まで殺害した人間に襲われた幻惑を見せられたのだ。人数が倍になっていてもおかしくはない。


「不思議な現象が起きたと部下から聞いたのだが? 町会長よ。それにヴァンが見当たらないが」


 この人も兵長的な感じだろうか? ちょび髭を生やしたオジサンだった。オーラも何も感じないので、強くはない。せいぜいA級クラスだろう。


「そ――それは」


 ロビンソンさんはそう口ごもるなり私の方を見てきた。どう動くか伝えていなかったから、応じ方が分からないのだろう。


「ヴァンさんは殉職しました。非常に残念です」


「む? 貴様は誰だ。この国の者ではないな? 仮面のデザインを見る限り他国の者か」


「はい。私達は冒険者です」


「冒険者がこんな辺境で何をしている――。いや、それは後ででいい。ヴァンは死んだということは本当か? 慎重に答えないと貴様等の首を刎ねるぞ」


 その男は容赦無く剣を抜いた。本当にここの国の人って殺すことしか頭に無い残念な人達なんだね。その当たり前の環境に逆らって反乱軍の副団長を務めるランドールさんってどんな人か気になるな。


「さあ答えよ」


 帝国兵の声がそう静かに響いた。


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