第107話 立つんやⅢ

「お前――。生き返ったのか」


 そう――。訳分からんことを言ってた。何やて? 俺が生き返った?


「あ……」


 あかん。全然声が出やん。どないなっとるねん。


「虫の息ってやつだな。待っとけあの嬢ちゃんを連れてきてやる。目だけはしっかり開けておけよ」


 は? 何やどういう事や? 嬢ちゃんを呼んでくる? そうかネオンちゃんの事か?


 くそ、身体が怠くて今にも深い眠りにつきそうや。顔もヒリヒリして痛い。


 そうしばらく待ってたら梯子から誰かが駆け上がってくる音がした。


「レンさん!」


 そう言ってネオンちゃんは駆け上がってくるなり、俺に覆いかぶさって泣きじゃくってた。


「無事でよかったです――。私が来たからもう安心して下さい」


 益々。マカロフ卿の行動が分からへんようになった。


「い……いた……い」


 俺が強烈に苦しそうな顔していたんやろう。ネオンちゃんは慌てて正座をして、俺の体に掌をむけてきた。


「やりますね」


 身体の傷がみるみる癒えていくのが実感できる。回復ヒールってめちゃくちゃ温かいんや。怠かった身体も嘘みたいに軽くなった。


「最高や。ありがとう」


「いえいえ。はい、起き上がっても大丈夫ですよ」


 ネオンちゃんはそう言ってニコっと微笑んでくれた。


「終ったか」


 マカロフ卿はそう言って葉巻を再び吸い始めた。


「結局何がしたかってん。それに生き返ったってどういう意味やねん」


「お前は俺が殴り続けたから、数十秒心肺停止していたんだよ」


「は?」


「そう言いたいのはこっちだ。実際にお前の心肺が停止しているのは確認している。これは軍人だったときからの癖でな」


「まあ。死んだ思ったら生き返ったって話は聞いたことあるしな」


「それは日本のアニメだけだと思っていたがな。実際に見るのは初めてだ」


「仕留め損なった奴が過去におったかもよ?」


「――まあ。無いとは言い切れないな」


 いやいや。何普通に会話しとるねん。コイツは敵とちゃうんか。


「なあ。一つ聞いてええか?」


「何だ?」


「何でわざわざネオンちゃんを解放してまで俺を助けてくれたんや?」


 すると、マカロフ卿はフッ――。とキザに笑って見せた。嫌味でも何でもない自然な微笑みやったんやろう。外人ってのもあってちょい格好いい思た自分が腹立つ。


「俺の昔の部下に根性だけは似ていたからだな。話はそれだけか?」


「お――おう」


 するとマカロフ卿は黙って葉巻を吹かし後に続けた。


「そうか。じゃあ俺は帰るぞ。ほら」


 そう言って俺に投げてきたんは鍵やった。


「は?」


「俺は見なかった事にする。お前達は与えられた使命を全力で全うしろ」


 マカロフ卿はそう言ってこの場を立ち去った。梯子を降りているときに。


「やばい。鍵を無くしてしまったな。これはマズいぞ。どこにいった?」


 と、棒読みで言っていた。


「結局何だったのでしょうか――。マカロフ卿はその鍵一つで私の手枷と足枷を開錠していたので、アズサさんとノーディルスさんもそれで外すことができる筈ですよ?」


「マジか!? とりあえず急ご!」


「はい!」


 俺達も梯子を降りてしばらく歩くと、アズサとノーディルスが、手枷と足枷と口にガムテープという、さっきと同じ状態でおった。


 俺はアズサのガムテープを。ネオンちゃんはノーディルスのガムテープを外した。


「無事でよかったな! 何や知らんけどマカロフ卿素通りしていったで!」


 と、俺の耳元でアズサが喚き散らすから、鼓膜破れる思たわ。でもいつも通りでよかった。


「何がどうなっているんだ? お前マカロフ卿に勝ったのか? マカロフ卿がネオンを連れて行ったと思ったら戻ってきたじゃないか」


「俺もさっぱり分からへんねん。ほら外すで」


 そう言うとアズサとノーディルスはキョトンとしていた。


「何でアンタが鍵持ってるん?」


「何かもらった」


「もらった? どういう事やねん」


「いや、俺も知らへんわ。ほら」


 アズサを外した後、ノーディルスの分も外した。そんで念の為にポケットにしまおうとした時――。


「その1つの鍵で2人分外せるんだな。手枷と足枷。だから――」


 ノーディルスが言ったことが引っかかる――。何か見落としてる――。


「それで他に捕まっている奴も解放できるんじゃないか?」


「ホンマや!」


 俺とアズサは被ってそう言うた。しかも声量も同じくらいやから、滅茶苦茶うるさかったと思う。


 ネオンちゃんが耳塞いでるくらいやもんな。


「で、どうするレン?」


「勿論試してみるやろ。でも方法どないするかやな


「情報収集しやすくなっただろ少なくとも」


「せやな。マジで何や分からんけど、マカロフ卿が見過ごしてくれたし、あの感じでいくと、今後邪魔してくる可能性は低い」


「ハードルは少しだけ下がったわけだ。あそこまで勘がいい人間が、他にいなければいいが」


「おらんことを願う。まあ生で見た感じやとアードルハイム皇帝もヤバいねんな」


「どんな人やった?」


「マカロフ卿より全然怖かったしオーラも半端無かった。本物ほんもんの悪って感じ」


「私、マカロフ卿のオーラで目眩していたくらいなんですけど。今は正直ホッとしていますもん」


 ネオンちゃんはそう言って、額の汗を拭った。


「情報収集続行しよう。正直今回は運が良かった。マカロフ卿曰く、俺は数十秒死んでたらしいからな。もう失敗はできへん。さらに慎重にいこ」


「うん」


 俺の言葉に3人は頷いてくれた。


 見とれよマカロフ卿。アンタが何で俺の事を見過ごしたんか、あんな理由じゃ腑に落ちへんけど、アンタが言うた通りに全うしたるやんけ。


 


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