第103話 始動Ⅲ
「亡霊を見せる幻惑とかどうかな? あの様子を見る限り、彼等は罪の無い民間人を殺しているはずよ。今まで自分が殺した人々の亡霊が急に現れたらこの場から逃げるはずよ。その亡霊に襲われる幻惑を見せるの。ぶっちゃけ私なら嫌だな」
「それはなかなかいいアイデアですね。亡霊が苦手なの人間特有って言いますからね」
「え? 怖くないの?」
「はい」
と、アリスちゃんは笑顔で言っていたので、マジかと真顔になってしまった。それを考えると、仮にアリスちゃんが人間を殺して目の前に亡霊が現れたとしたら、「誰ですか? 消えて下さい」と言うのだろうか? シュールだ。
そう考えているうちにアリスちゃんは、掌を兵士達に向けた。
「あ、因みに民間人にも見せますか?」
「勿論。民間人には危害を加えないで」
「かしこまりました」
そうアリスちゃんは笑顔で返事をしてくれると――。
「誰だ!」
「やめろ! 近寄るな!」
「糞! 立ち去れ!」
と、誰もいないのに、剣を振り回しているシュールな光景が私達の前に広がっている。
「何か面白いね」
ノア君の感想には賛成だけど、あの人達が見せているのはきっとおぞましいものだろう。10人中の半分以上は、うずくまって「助けて!」と叫んでいるからだ。さすがに少し遠いので顔色までは分からないけれど、恐らく顔面蒼白といった状態になっているだろう。
一方リーダー格っぽい男は割と平気なようで「殺した人間の顔などいちいち覚えていられるか! もう一度殺してやる!」と叫んでいた。
ということはあの人は殺すのが目的で、人を殺しているのだろうか?
「あの人にはあまり効いていなさそうですね」
「――亡霊達から拷問される幻惑でもみせよう。ノア君? あの人だけに
「いいよ。たっぷり地獄を見ろってことだね」
「下手するとショック死するけどね」
「まあそのときはそのときです。外道には粛清が必要ですから」
アリスちゃん。普段可愛いのにさらっと怖いこと言うのね。案の定、リーダー格の男はものすごく叫んで苦しんでいるようだった。別に足も手も動かせるはずなのに、ただ叫んでいるだけだった。拘束されている幻惑でも見せられているのだろうか?
他の兵士はそのまま立ち去り始めて、残っているのはリーダー格の男のみ。
しばらく叫んだ後、大人しくなり泡を吹きながら白目を向いて倒れた。
「一体どうなっているんだ?」
「あの亡霊達は本当に消えたのか?」
「て――帝国兵が死んでる!」
そう民間人達が叫んでいた。どうやら本当にショック死したらしい。
「本当に死んじゃいましたね」
アリスちゃん可愛い顔だけど魔物は魔物。まあまあえげつない拷問の幻惑見せたんだろうな。それに
「で? どうするの?」
「普通に彼等の出て情報収集よ」
「了解」
私達は何も知らないふりをして民間人達の前に出た。近づいてみると、アリスちゃんの幻惑が凄かったのか、民間人達の顔色も蒼白していた。
「どうされましたか?」
すると、私の問いに応えたのは唖然としている1人の中年男性だった。
「あ――あなた方は?」
「冒険者です。見たところ倒れこんでいるご老人は酷い怪我のようですね。私が治してさしあげましょう」
「ほ――本当ですか?」
私が町会長に
町会長の背骨が回復し、顔の傷も治ると町会長はゆっくりと体を起こして、私を見るなり頭を深々と下げた。
「聖女様! 大変ありがとうございます!」
と、変な呼ばれ方をして称えられた。うん、なんで聖女になるの?
「いえ、私達は冒険者で――」
「聖女様!」
「聖女様!」
町会長が呼んだ後、他の民間人達も私のことをそう呼び始めた。目立ちたくないのに――。それに狐の仮面被っていて、ローブに身を包んでいるから聖女の格好とは程遠いんだけどな。
「何があったのか詳しく聞かせて頂けますか?」
「はい。簡潔に申し上げますと、兵士に税を徴収されているとこと、突然国民の亡霊が出てきて、この地から立ち去れ! と言いつつ襲い始めたのです。それでも、この亡くなってしまった兵士は、立ち向かっていたので、複数の亡霊に拘束されて拷問を受けて死んだのです。私達にも何が何やらさっぱり――。彼は四肢が全て切断されていたはずなのに――」
私はアリスちゃんを横目に見ていた――。
何か私が思っていたよりずっとえげつないな。
「そうでしたか――。それで死んだかと思えば手足は無事だったと?」
「そうですね。なあ皆」
ここの人達はそう言って首を縦に振っていた。
「何ともおぞましい」
「あの拷問方法はよく帝国軍がしていると聞くぞ。天罰が下されたのだ」
やはり帝国兵は民間人からいい印象を受けていないらしい。そりゃこんなにむちゃくちゃにさらたら恨みの1つや2つ出てくるよね。
「しかし、こうなってしまった以上、私達は処罰される可能性があります」
「というと? ここに彼の死体があるのです。十中八九私達は殺されるでしょう」
「じゃあ、偽装すればいいんじゃないの? 魔物に襲われて食べられたとか?」
「ここは魔物なんていません。そんなことしたら私達の疑いはさらに強くなります――」
ここの人達の表情はどんどん暗くなる一方だった。
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