第94話 アードルハイム帝国軍基地Ⅰ
「連絡は取れたんだね。何て言っていた?」
ラングドールがそう言って俺に顔を近付けてきた。そう言って後ろから声をひょこり出してくるのは、少し犬っぽくて可愛いという人もいるんやないやろうか。
ほれ、実際に俺の左隣にいるアホアズサが呆けた顔をしてやがる。
「しばらくケトル島におるから何かあったら連絡してくれやと」
「成程。それにしてもケトル島から帝都まで念話を飛ばせるなんて聞いたこと無い。相当レベルの高い
「今更やけどそのマカロフ卿って誰なん?」
するとラングドールは「あ、そうか」と言った後に謝罪してきた。
「マカロフ卿は前回も少し言った通り、あちこちの国に珍しい武器やアーティファクトを売っている転生者だ」
「そうなんか。一体何人なんやろ?」
「なんや、ライアーは知らんのかいな。マカロフ言うたらロシア人ちゃうの? サッカー観ぃへんの?」
「あ、そうやな。そう言えばコフがめちゃ付くな」
「せやろ?」
「ロシア人――。そいや、クリンコフもロシア人だったな」
ラングドールはそう一人で言いながら「成程」と勝手に喋ってたから別に拾わんでいいパターンやな。
「それよりそろそろ行くぞ。依頼主が念話で届く距離にいてくれているんだろ?」
「そうやな。じゃあお願い」
そう言うと、ラングドールは了解と言って先に進んだ。
俺達が先日訪れた酒場よりもう少し進んだところに帝国軍の敷地があるらしい。あれから出来るだけ関西弁を喋らんように練習したけど、結局イントネーションをすっぽり変えるんは厳しかった。
なんで、やっぱりあんまり喋らんようにする。
俺達4人は、銀色の面白みも何も無い鎧を着て、帝国軍基地が目の前にあった。
この頭上にある10m程のアーチを潜り抜けると帝国軍基地の敷地内や。
俺が率直に思ったんはまるで要塞みたいや思た。ここだけめちゃくちゃ文明が発展しとる。中世ヨーロッパの基地とは印象が違う。六角形の建物の中心に中庭があり、空から見下ろした景色は、アメリカにあるペンタゴンを彷彿させる。
そりゃ中世ヨーロッパの景観に、いきなりそんなん入れたら俺は違和感がある。せやけどそれがまたお洒落やったりするからな。レンファレンス王国の宮殿もそうやけど、どこの国も凄いところは、異次元な存在感を放つもんや。
「凄いな」
ノーディルスはそうボソッと呟いた。まるで脳内で言おうとした感想が、そのまま漏れたみたいな声の大きさやった。
「ここには帝国兵もたくさんいるけど、理不尽に捕らわれてしまった人間、魔物が沢山いる。勿論、
「かしこまりました」
そう固く喋ってみせた後、俺達はアーチを潜り抜けて、200m先の帝国兵が門番をしてるところまでの道のりはひたすら芝。
そして、意識しなあかんのは、歩き方、顔の向き、話し方の3つ。
全ての行動がいつもより機敏に振るわなあかんのは正直キツイ。せやけど、今ここに映っている景色全てが、このナリユキさんに渡されたペンに記録されてる。
まあそもそも、俺達本人ですらここまで調査が進展するとは思ってなかった。上乗せの金貨確定やろ。あとは軍の秘密とか、弱点とかを記録できたら尚良しって感じやと思う。
帝国軍基地の入り口はランドールを見るなり、「お疲れ様です」と敬礼をして挨拶した。俺達4人もそうするが、騎士団長は別格やからやろう。敬礼はせずに「お疲れ様。無茶しないように」とねぎらうだけでええらしい。
つか、ねぎらう上司って結構好かれそうやけどな。ラングドールの場合は、こんな優しそうな性格しとるのに、あの斬りかかって来た兵士みたいに、嫌悪感抱いてる奴もおるからな。それ考えたら、どんな人が好かれるねんって話やけど。
中に入ると帝国軍基地のはずやのに意外とラフやったな。床のタイルがチェック柄でオシャレやねん。厳しい国なんか、マーズベルみたいに緩い国なんかホンマによう分からへん。
壁とか全部白が基調で、翼を生やしたライオンの小さい像が壁に沿って飾られてる。いやまあ、こっちの世界で言うとところのキメラなんやけどな。
この国ではキメラが神格化されとるんやろうか? それなら
まあ内装は全体的にお洒落やけど、如何せん兵士がピリついているような感じはするわ。
ラングドールが通るたびに、粗相の無いよう気を配ってるアンテナを張りまくってる奴でいっぱいやった。まあ自由人の俺はとてもじゃないけど、ここで働くん無理やな。
と――。そうこう考えてるうちに、螺旋階段をひたすら下っていくと、どんどん辺りが暗くなってきた。始めはガラス張りの窓に、太陽光が目一杯差していたけど、地下になるとガラス張りの窓では無くなり、灯りは
階段どんだけ下らなあかんねん! ってめちゃ言いたくなるけどそれよりも肌寒いって感じやな。頬に当たる風が妙に冷たい。
やっと降りたと思ったら黒い大きい鉄の扉が施錠されてた。
扉の両脇には、グレムリンみたいな黒い像がある。歯を剥き出しにしてる姿は、まるで俺達に襲い掛かろうしている悪趣味なデザインやし、そもそも2mくらいのグレムリンの像って可愛げ0やわ。
施錠された扉は、ラングドールが手を扉に向けると、ギギギという音を立てながら勝手に開かれた。
バタンという音が地下全体に響き渡った気がする。
「さあ入ろう」
「はい」
俺達はこの世界で凄く有名な地獄と呼ばれる光景を見ることになる。ホラーゲーやるんも結構緊張するからやろうな。自分の肌で体験すると思うと、手汗が半端無いし、心臓がバクバク言うてる。こんなに緊張したんはいつぶりやろうか。
軽く深呼吸してラングドールの後に続いた。
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