第91話 謎のサインⅠ

「あの4人達本当に大丈夫かな?」


 俺の部屋でいつも通りくつろいでいるミクちゃんは、俺のベッドに寝ころびながらそう問いかけてきた。


「まあ大丈夫だろ。念波動を使える人がいなかったから正直分からないけど、あのレンって男は相当強いぞ。感覚的にはベルゾーグくらいあるだろ」


「でも。万が一マカロフ卿みたいなきたら終わるよね?」


「辛辣な意見だけどその通りだな。念波動で測ったときに出てくる数値が500違うだけで雲泥の差だからな。それよりミクちゃん、これの意味が分かるか?」


 そう言って出したのは、蜘蛛型のドローンだ。アードルハイム帝国が帰った後、ベリトの忠告を受けてドローンを探させたら案の定今日見つかったのだ。しかも2機も――。


 両方映像を送れないように壊してはいるものの、ドローンの裏側――。つまり蜘蛛のお腹には何やら奇妙なイラストが描かれていた。まるで魔物が泣いているかのような――。そんな絵だった。


「単純に見ればその彫られている絵は泣いているように見えますよね。泣いているで連想できるのは助けてほしいってことくらいですよね」


「問題は誰を助けてたらいいんだって話だ。このドローンを落としたのが誰かが重要にもなってくる」


 そう言っていると部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「ベリトです」


「フィオナです」


「入っていいぞ」


「失礼します」


 そう言うと、ベリトとフィオナは部屋の中に入って来た。フィオナは以前と比べて大分顔色が良くなっている。


「あの、改めてありがとうございます。これで安心できます」


「いや、俺じゃなくてベリトに言ってくれ。こいつの助言がなかったら、匿っていることがバレていたからな。ナイスだぞベリト」


「いえいえ。滅相もございません。して見てほしい物というのは?」


 俺はそう言われたので、いつもL字テーブルでドローンを見ていたが、部屋の入り口の方に椅子をくるっと90度回転させて、蜘蛛型のドローンを放り投げた。


「それがベリトが言っていた偵察用のアーティファクトだ。俺達の世界じゃおれを偵察ドローンと呼んでいる。開発したのは元軍人のマカロフ卿で間違いないだろう」


「凄いですね。ぱっと見ただけでは魔物にしか見えません」


 そう言ってベリトもフィオナも感心していた。


「これはどういう仕組みなのですか?」


「もう壊したけど、これにはカメラっていう技術があってな。生物なら誰しも持っている眼にある水晶体のような役割を果たしつつ、それを遠隔操作している所有者に、信号で映像を飛ばすんだ」


「という魔法でしょうか?」


「ちげーよ。人間の技術だ」


「凄い技術ですね」


「いや、あのな。ぶっちゃけ俺達からしたらスキルあるほうが凄いんだ。なあミクちゃん?」


「ですです!」


 そう言ってミクちゃんは2人にサムズアップをみせると、怪訝な表情をしていた。本当にしっくりきていないみたい。


「まあ、こっちの当たり前が、俺達がいた世界からすると不思議で、あっちの世界の当たり前がこっちの世界では不思議な事なんだ」


「成程。文献などがあれば是非読んでみたいですね」


「残念ながら俺の記憶じゃ本を完全再現することはできないけど、いいなって思った思想の1文をまとめたやつを本にしてあげるさ」


「ありがとうございます」


「で、その絵は見覚えあるか?」


 2人は考えたあと、直ぐに頷いてくれた。え? マジ?


「これはアードルハイムにおける魔族の絵ですね」


「で、その悪魔が泣いているということですね」


「ってことは魔族ってことでいいんだよな」


「はい。我々魔族はこういった人型をしておりますが、上位種になればなるほど、魔物のような姿へと変わります。しかし、アードルハイムにはそのような個体はいないはずです」


「え、じゃあ何を表しているんだ?」


「アードルハイムには魔族も何人か捕らわれていますからね。勿論そのなかには女性もいますし。単純に考えるなら、泣くほど辛いから助けてほしいというサインなのではないでしょうか?」


「それは俺達も同意見だ。仮にそうだとしたら誰を助ければいいんだって話にならないか?」


「そうですね――。兵士が落としたのは間違いないんですよね?」


「まあそらそうだろ」


「ナリユキ様の強さを兵士の誰かが視て助けを求めていたとか?」


「ベリト様、それはあり得ないかと。私が知っている王国兵は全員私欲だらけの人種ですよ?」


「兵士になれば何でもできる環境だからな。私がアードルハイムにいた頃とは大分酷くなっていそうだしな。そんな事はあり得ないっていうのも分かる」


「ベリト。因みにガープはベリトがアードルハイムにいた頃からいたのか?」


「いえ。いません。どうしてですか?」


「直感だけど俺にはそんな酷い奴に見えないんだよな。いや、マジで甘ったるいこと言っているのは承知の上なんだけど」


「そうですか」


 ベリトもフィオナも複雑そうな表情を浮かべていた。


 ベリトはその頃のトップに裏切られ、フィオナは仲間を助けるつもりだったのが、捕まってしまい、アードルハイムの兵士に酷いことをされたわけだ。


 ましてや王国軍の兵士のトップクラスの人間の事を、酷い奴に見えないという俺の偏った意見は、2人からしたら非常に複雑な気持ちになるのも仕方ない。


「いいよ。ありがとう。2人共今日はうちの別室でゆっくり休みな」


「ありがとうございます」


 ベリトは俺にドローンを返した後、2人共頭を下げて部屋を出て行った。


 ミクちゃんはもう寝る気満々で枕を置いて仰向けになっていた。俺も部屋の電気を消して、ミクちゃんの隣で寝たが、今日はしばらく寝れなさそうだ。


 頭の中がぐるんぐるんして、脳が活性化しているのが手に取るように分かる。


「多分、今日ココア飲んでないからだよ」


 そうクスッて笑ってミクちゃんは「おやすみ」と言って目を瞑っていた。


 いや、今日はココア飲んでもリラックスできないんですけど。


 とりあえず、目は閉じておこう――。




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