第70話 漂流者Ⅱ
「またアードルハイム帝国か。ミクさん、フィオナさんの容態はどうかな?」
カーネル王の質問にミクちゃんは「大丈夫です」と返した。ミクちゃんはフィオナの状態を見るなり、直ぐに彼女に駆け寄り
「ミクちゃん、水気を取ったあとこいつを着せてあげてくれ」
そう言ってミクちゃんに渡したのはバスローブだ。とりあえず今着る服はこれでいいだろう。
「男性の方は後ろを向いておいて下さい」
ミクちゃんにそう言われて、俺達は一旦後ろ向くことになり、ミクちゃんとアリスさんで着せていた。ほんの数十秒もすれば着替え完了で、その間に俺は車輪付きの担架を出していた。
「これでよし」
「ナリユキ君。一度屋敷に戻ろうか」
「そうですね。皆さんは先に馬車に乗っていて下さい」
俺がそう言うと「申し訳ないね」とカーネル王が言った。ルイゼンバーンさんも、クロノスさんも何故かすみまんせんと言っていた。あ、そうか。フィオナを運ぶからか。別にそんなの言わなくてもいいのに。
「ナリユキさんいいですよ」
その声が聞こえたので、俺は振り返ってバスローブ姿のフィオナを、ランベリオンと2人で合図をして担架に乗せた。
「それにしてもどこから流れてきたのだ。マーズベル湖は確かに海にも繋がっているが」
「
「確かに有り得るな。でも何故マーズベルなんだ?」
「それはクロノスさんから聞けば分かるだろ。さあ馬車に乗せるぞ」
フィオナを馬車に乗せて、ミクちゃんとアリスさんで挟ませた。仮に起きたとき周りが女性なら問題無いだろうという考えだ。
「じゃあ詳しくお話をさせていただきます」
気のせいだろうか。俺も含めてだけど、ベルゾーグ以外は固唾を飲みこんだ。そんな神妙な顔つきだった。
「フィオナさんは、アードルハイム帝国から逃げ出し、知り合いである
「わかりました」
「ありがとうございます。彼女は拷問されていたので、
「成程ね。で、彼女はどうして拷問を受けていたのだい? それに何故裸だったのかな?」
「彼女は性行為を行うことで、両者のMPを上げることできるユニークスキルを持っているようです。そして、これは彼女と性行為に及んだ相手に還元されるのですが、パッシブスキルかアクティブスキルを1つランダムで入手できるようです」
「これはまたクロノス君やナリユキ君と同じで変わったユニークスキルだね」
「もう予測はついたはずです」
その一言に、俺もミクちゃんも拳を握りしめていた。アードルハイム帝国が彼女に行った事なんか容易に想像できてしまう。
「彼女はアードルハイム帝国の兵士の性奴隷とされていました。来る日も来る日も兵士共に身体を強制的に委ねさせられていました。彼女にはスキルを発動させない特殊な拘束具を付けられていたようなので、逃げる事はできなかったのです。これを彼女は5年間に及ぶ年月で、アードルハイム帝国の軍事力の底上げと言って、毎日100人以上の相手をしていたようです。兵士にしてみれば、強くもなるし性欲も満たされるのでご満悦のようでした」
「本当に酷いですね」
ミクちゃんが怒りを全面的に出しているのと同時に、アリスさんは「まだ殿方に身を捧げた事がないのに」と言って気絶した。あら~。処女だったのね。気が遠くなったんだな。
「アリスちゃん大丈夫!?」
「気が遠くなっただけだろ。大丈夫だろ」
「それならいいですけど――」
「それにしても、とても同じ人間がやる事とは思えないね」
いつもの爽やかスマイルを浮かべているカーネル王すらも、膝に両手を付きその手の上に顎を乗せて、顔をしかめていた。
「そして、ある今日。やっと逃げ出すことに成功しました。彼女の幼馴染の
「アードルハイム帝国って物凄く酷い国ですね」
「そうですね。男性には想像しただけでも吐き気がするような拷問を与えますし、女性は兵士の性奴隷になりますからね。けれども、彼女は僕から見ても端正な顔立ちと、抜群のプロポーションを持っています。スキルもあるので皆が皆、犯すのでしょう」
クロノスさんの表情は非常に暗いものだった。精神的にしんどいという感情は無いだろうが、目の奥には怒りが現れていた。
「アードルハイム帝国に潜入捜査行くか。苦しんでいる奴等がまだまだいるんだろ?」
俺の言葉にカーネル王が真っ先に止めに来た。
「それは危険すぎる。どれだけの猛者でも
「私からも反対するぞ。アードルハイム帝国は兵力だけでなく、手練れも多い。決して手を出してはいけない国だ」
「我からもだ。ナリユキ殿頭を冷やしてくれ。ナリユキ殿が強いのは分かるが、アードルハイム帝国に喧嘩を売って、もし失敗したときには、この女子のように死んだ方がマシと思えるような地獄を見ることになるかもしれないのだぞ? ナリユキ殿がリスクヘッジをして臨むと言っても我は反対する」
反対してきた、カーネル王、ルイゼンバーンさん、そしてランベリオンから滲み出るオーラは珍しく負のオーラだった。心配してくれる気持ちはありがたい。けれども本当にそれでいいのか?
やるせない気持ちが沸々と込み上げてきた。
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