第56話 仕事開始Ⅱ

 ナリユキさんの指示で、私とベルゾーグさんはマーズベル湖の湖畔こはんに来ていた。ほんの1km程歩けばここに到着する。皆で岸辺でバーべーキューとするのも楽しそうだ。


 湖そのものはものすごく綺麗だった。以前は上空から見ていたけど、今回は違う。その綺麗さ故に唾を飲みこんでしまった。


 言葉を借りると限りなく透明に近いブルー。という感じだ。話によるとここの水深は1,000m程あるらしい。大体カスピ海と同じくらいだと思う。そんな湖だけれど、驚くことに数十m先まで透けて見える。どんなお魚さんがいるか丸見えだ。ここの森林地帯は暖かい気候ということもあり、カラフルなお魚さんが多い。つまり熱帯魚だ。なので、魔物はもっと深いところにいるのだろう。


「綺麗ですね」


「そうだな。拙者達もここの湖には大変お世話になっている」


「そうなんですか?」


「まあ。真水だからな。しかしここより奥に行けば行くほど水の味がしょっぱくなる。海水のような味に変化していくのだ。それに渦潮があるエリアもあるから、そこで育った魚は身が引き締まっているので絶品だ」


「絶品だって食べたことあるんですか?」


「ああ。しかしそのときは湖に雷を落として捕獲したものだから、まあまあの数の魔物や魚を虐殺してしまってな。アリシアにこっぴどく叱られたものだ」


「そうだったですね」


「人間達の口にも合うはずだ。ここの湖の魚は湖の主がいるから人間は近付けないのだ」


「でも、私達なら問題無いという事ですね?」


「そうだ。とりあえずここは普通の魚ばかりだから、もう少し奥の方へ行こう。そこなら魔物がいるから人魚姫マーメイドの情報が聞けるだろう」


 そうして私達はそこから30分ほど歩いた。水を試しで味見していったけど本当に塩分濃度が濃くなっていく。不思議だな~。どういう湖の構造しているんだろう? と疑問に浮かべながら道中を楽しんでいた。


 湖の近くには森からやってくる魔物がたくさんいた。しかしベルゾーグさんが人型化ヒューマノイドになっていても、ただならぬオーラを放っているようで、グァイアスのような大型の怪鳥も、猪戦士オーク牛獣人ミノタウロスも一頭として襲ってこなかった。


「誰も襲ってこないですね」


「まあ、拙者はマーズベル森林の主みたいな存在だからな。誰も戦おうとするやつはおらん。今の姿は人間の姿だが、ニオイまでは消すことはできんからな」


「そんなニオイしないですよ?」


「人間には分からんさ。そろそろだなこの辺でいいだろう」


 ベルゾーグさんはそう言うと、桟橋を歩いていき、桟橋の行き止まりになると口笛を吹いた。誰がこの桟橋造ったんだろう。人間がここに来て釣りをするわけでもないのに。


 ベルゾーグさんの口笛で出てきたのはタツノオトシゴのような魔物だった。けれども体長は1.0m程あるので、私達がいた世界のような可愛い大きさではないけど、目がクリクリとしているので愛着が湧くような顔をしている。体表は虹色で物凄く派手な色をしているから、他の大きな魔物に襲われないのだろうかと少し心配になる。


「これはこれはベルゾーグ様。お久しぶりですな」


「久しぶりだなタツオ。息災であったか?」


 タツオ? 絶対タツノオトシゴだから、タツオでしょ。名前適当すぎて可哀想なんだけど。


「元気にしておりますとも。それにしても人間とご一緒とは珍しいですね」


「訳があって一緒なのだ。ここに訪れることがあるから紹介しておこう。ミク・アサギ殿だ」


「ミク・アサギです。宜しくお願い致します」


 私はベルゾーグさんに紹介されたので、タツオさんにそう言って頭を下げた。


「始めまして。ワシはタツオと申します。いやはや、礼儀正しい可愛いお嬢さんだ」


 とタツオさんは満面の笑みを見せてくれた。ワシという一人称だからやっぱり長生きしている魔物なのだろうか?


「ここから3km程離れた場所に町を造っているんだ。と言っても規模はまだまだ村くらいの大きさだ。ランベリオンやアリシアもいる」


飛竜の王ランベリオン森妖精の族長アリシアもですか!? それはまた急にどうされたのですか」


「このミク殿と、ミク殿の御友人のナリユキ・タテワキという人間が出鱈目な強さでな。拙者達では歯が立たない程の腕前を持っている。そんな達人の人間がマーズベルを国にしたいというものだから、マーズベル共和国を建国したのだ。勿論、森の管理者であるアリシアも賛成していた。何よりランベリオンが推薦したからな」


「ほう。そんなに強いのですか!? お若いお嬢様なのに素晴らしい――。あれ? 鑑定士でステータスが何も視れない」


「私には究極の阻害者アルティメット・ジャマーが発動しておりますので、鑑定士Ⅵ以上じゃないと視れないんですよ」


「成程。ジャミングキメラをいっぱい倒されたのですね。それは視れない訳だ」


「それで建国したので、人魚姫マーメイドの長と合わせてほしいのだ」


「そういうことでしたか! 神殿をご案内しますよ。ミク殿は潜水系のスキルはお持ちですかな?」


「いえ。持っていません。私が得意な属性は光属性と聖属性なので」


「かしこまりました。ではドームを張りますので、三人一緒に行きましょう」


 そう言ってタツオさんが私とベルゾーグさんに、球状のバリアーのような施しを与えてくれた。ベルゾーグさんは躊躇なく水の中へと入っていったので、私も水の中入った。


 入水して驚きなのが、水の影響を全く感じない事だった。水の中でも自在に動くことが出来るスキルらしい。


「それでは向かいましょう」


 私達はタツオさんに案内されなながらも水中の旅を堪能した。

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