第39話 ルイゼンバーンVSベリトⅠ

 燦爛の光線シャイニング・レイが直撃した感触はひしひしと伝わった。しかし、まだ私のなかで渦巻く違和感は払拭できない。そう、先程の戦闘で感じていた戦っている気がしないのだ。


 デカラビアは倒れたものの、特に痛がることもなくムクリと起きあがった。流石の私でも燦爛の光線シャイニング・レイをまともに喰らったらあれほど簡単に起きることができない。鑑定士のスキルを視ても状態異常になっている気配は無い。控えめに言って厄介だ。A級の魔族とは思えない耐久力だ――。


「レイドラムもなかなかややこしいのを雇っているな」


「それはそうですよ。私が操っているのですから」


 この声は聞き覚えがある。リアトを人質にとったアイツだ。


「ごきげんよう」


「おお。来てくれたかベリトよ」


 声が一気に近づいた。耳元で気味の悪い声が響くのだ。


 後ろを振り向くと、銀髪の赤い目をした好青年がいた。ローブは被っていないようだが、背丈もブラックマーケットで会った奴そのものだった。


「クフフフフ――改めましてルイゼンバーン殿。私はベリトと申します」


 名前を名乗り一礼をした奴は、ブラックマーケットと会った者と比較して口調も振舞いも全く違うかった。デカラビアと同じような口調だったが、目の前にいる奴は全く違う。


「お前、ブラックマーケットいた奴とは別の奴か?」


「さあ。何のことやら。今回私が貴方とお会いするのは初めてですよ?」


 奴の証言が本当だとすればブラックマーケットにいた奴は誰なのだ。また、何故同じ声をしている?


「よそ見をしていると危ないですよ?」


 それもそうだ。デカラビアはまたもや私に銃口を向けていた。拳に力を入れて顔を殴打し、怯んだ隙に銃を取り上げて、デカラビアの頭に鉛玉をぶち込んだ。


 頭から大量の鮮血を出し、前にそのまま倒れ込んだ。少しの時間を共にせいか、彼の命を奪ってしまったのは非常に残念に思う。


「おやおや。容赦がないですね。洗脳のスキルでようやく痛覚も無い状態で戦闘できる兵器にようやくなりましたが、頭を吹き飛ばされてはどうしようもないですね。ランベリオン・カーネルの洗脳に失敗してせっかく改良を行いましたが残念です」


 ベリトはそう言っているがレイドラムは痺れを切らせているようだった。明らかにイライラしている。


「何をしている! 早く奴をどうにかしろ!」


「五月蠅い」


 ドスの利いた声だった。先程と違いまるで私がブラックマーケットで会った男の声だ。口調も言葉の冷たさも――。


 嘘をつき、二人のベリトを演じているのか、はたまた二重人格なのか? 別人説から様々な考察が派生で考えられる。


「あまり調子に乗るなよ。屑が――利害関係が一致しているから貴様のような汚い人間と手を組んでいるのだろう?」


 そのベリトの言葉に「ひっ……」とレイドラムは声を漏らしたあと尻もちをつく。まあ、今の威圧はなかなかのものだ――。交戦しているハワード達、女性達、レイドラムの兵士達は先程の冷たい言葉で、皆動きが止まっていたのだ。


 禍々しく、邪悪なオーラが身体中にねっとりと纏わりつくようだ。近くにいる普通の人間は正気じゃいられないだろう。


「ほう……。私の今の言葉に全く惑わされないとはやはり素晴らしい人材だ。それに正義感も強い。私が見てきた人間の中でも素晴らしい芯をお持ちの方のようです」


「どうだか」


「まあ――少々過激なところもあるようですが、特に醜い部分は無いようですし」


「人間に復讐したいのだろ? アードルハイム共和国にか?」


「そうですとも。いえ、少し違いますね。全ての人間に復讐の矢を向けるのです。今はその為のテスト段階ですよ」


「仮に復讐に成功したとしてもその先は何を見据えている? それで満たされるものなのか?」


「ええ。勿論。人間全員が滅んでくれたらそれで私は良いのですから。残念ながら悪いのは人間ですよ?」


「それはそうかもな。クロノスから話は聞いている」


「クロノスですか。また懐かしい名前ですね」


 ベリトの表情はどこか悲し気だった――。クロノスとのやりとりで一体何かあったのだろうか?


「貴方と話をしているとこの私が私では無くなりそうですね。手合わせを願いましょう」


 ベリトはそう言って、どこからとも無く紫色の禍々しい邪気を帯びた剣を出してきた。漆黒の剣身に、鍔が金色の骸骨のデザインが特徴的だ。剣そのものにスキルが付与されているのかも気になるところだ。


 ベリトは容赦無く縦薙ぎで私の頭を目掛けて斬りかかって来た。体を右に捻って避け、そのまま左手を振りかざした。


 ベリトの頬骨に食い込む感触があり、そのまま目一杯力を入れて殴り飛ばすと、ベリトは洞窟の奥の方まで吹き飛んだ。我ながらいいカウンターだ。


 しばらく様子を見ていると洞窟の奥から、ベリトが何事もなかったかのようこっちに向かって歩いてくる。


「!?」


 気付けば私の懐にベリトは入り込み、掌を腹部に向けられていた――。


 ベリトの掌には邪悪で禍々しいオーラと、深紅のオーラが混ざっている。


 闇属性の上位のアクティブスキルだろう――。


 間に合うか――。







 



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