第38話 加勢
しばらく歩いていると、何やら血のニオイが感じ取れた。うちの兵士は何も感じ取っていないようだが、戦闘の機会が多い魔族のデカラビアも何やら違和感を感じている様子だ。
「何やら不穏な空気が漂っているな」
「やはりそうか。血のニオイがせんか?」
「そうだな」
「血のニオイですか?」
「全然分からないですけど」
「まだ戦闘経験が浅いのだから分からなくとも仕方あるまい。しかしハワードは別だ。本当に分からないか?」
「ええ。申し訳ございません」
ハワードは信頼できる部下の一人だ。血のニオイが分からないということはやはり私とデカラビアしか分からないような少量のニオイ。またはもっと先の方だ。今いるこの空間では無い可能性がある。
「デカラビア。もっと先だと思うか?」
「そうだな。正直なところ血のニオイがするような気がするというレベルだ」
「成程な。今思ったが、えらくこっち側だな」
「――報酬はレイドラムより出してくれればいいさ。そもそも貴様に逆らうことはできんのは分かっているから、生き残るための手段をとっているだけだ。それに人間にしては冷酷で残忍な部分があるから、貴様の部下に情を売ることは簡単だが、貴様だけは無理だと確信している。若いのにこの中では異次元だ」
「私はこう見えて60後半なのだが」
「――人間にしてみれば老人の年齢か――どうなっているんだ?」
「まあ色々あるのさ」
道中――ただならぬ悪寒が背筋を走った。立ち止まり神経を研ぎ澄ませてみると奥の方から鍔迫り合いの音がする――。
鬼気迫る声がする――。
悲痛の叫びがする――。
泣き声がする――。
「まずいな」
「え?」
その反応は魔族のデカラビアも同じだった。どういうことだ? と言わんばかりに先に進んでいたハワード達とデカラビア。
「先を急ごう」
私達はしばらく走るとだんだんと先程聞いていた声が近くなってきた。
「これはもしかして戦闘しているんですかね?」
「だろうな」
洞窟内の曲がり角を曲がると、女性達とレイドラムの兵士達が戦闘を行っていた。中には腹部から血を流して致命傷を負っている獣人もいる。
そして、奥には葉巻を咥えてニヤニヤと笑みを浮かべているレイドラムがいた。その両隣には兵士二人が奴を守っている。
レイドラムの笑みの正体は純粋にここの戦闘を楽しんでいるようだ。兵士も傷を負っているが、奴にはそんなことは関係ないように思えた。
戦況としては女性達の方が僅差で不利だが死者は出ていないようだ。しかし、相手の兵士は見た感じだと何人か息を引き取っているだろ。そんな状況下で奴は笑っている。醜さの権化のようだ。
「ギルドマスター加勢しましょう」
「ああ。ハワードは負傷している女性達を
「了解」
ハワード達はすぐさま各々の役割に全うした。私は正面突破でレイドラムのところへ。向かってくるレイドラムの兵士を吹き飛ばし、所持していた剣を奪い取り、レイドラムに投げつけた。
レイドラムもこちらに気付いたようだが、焦りは全くない様子だ。一人の兵士がガントレットを活用し剣を受け止めたからだ。こうなることを予測していたのだろう。
「なに?」
思わず声が漏れてしまうとレイドラムと二人の兵士は高らかに笑っていた。
「☆3つの英雄様でも私が取り寄せた特注のガントレットには効かないようだな」
そう説明して再び笑っている。葉巻を誤嚥して死んでくれればさぞ滑稽なのだが、さすがにそんなギャグのようなことは起きてくれないようだ。
「やれ」
レイドラムのその言葉の真意が分からなかった。後ろを振り向いた瞬間、パンという音と共に、腹部から生暖かい感触がジワジワと広がっていた。だが問題視するほどではない。問題は撃った相手だ。
「でかしたぞデカラビア」
デカラビアの手には小さい銃口が私に向けられていた。そして近づきながら二射撃を行ってきたので、弾を避けるとキンという音がした。
後ろを見ると、どうやら先程私の攻撃を受け止めた兵士のグリーブに弾かれたようだ。装備は何から何まで固いらしい。
「ギルドマスター!」
「大丈夫だ。問題ない」
「なに?」
私が平然と立つとレイドラムは吸っていた葉巻を落とした。レイドラムの兵士も、デカラビアも私が平気で動けるものだから、一歩下がって驚いている。
「確かに銃では致命傷は負えないが貴様程の実力ならそれほどダメージを負わなくても動けるのは当然――しかし、この銃は麻痺の作用が含まれているんだぞ」
「私は麻痺無効だ。残念だったな」
「ぐぬぬぬ。何をしているさっさとやれ!」
レイドラムの声に二人の兵士が襲い掛かって来た。遅い――。彼等は恐らくデカラビアより実力が劣る。剣を振りかざしてきたので、両腕で二人の剣を受け止めて真っ二つに折った。腕に硬質化のアクティブスキルを使えば剣も銃も恐るるに足りない。故に剣を折ることなど容易いことだ。
「なっ――」
隙が出来たので一人の兵士の頭を掴み、もう一人に兵士の頭に互いをぶつけさせた。脳が大きく揺れたのだろう。
二人の兵士は地面に横たわった。
しかし、油断はしていられない。後ろからはデカラビアが銃を撃ってきているのだ。先程とは雰囲気が少し違う。何も話さずただ襲ってくるだけだ。何をしでかすか分からないという含みを持っていた。
私は彼に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます