生産性厨が異世界で国造り~授けられた能力は手から何でも出せる能力でした~

天樹 一翔

第1話 ようこそ異世界

 対向車線からトラックが飛び出してきた。


 特に恐怖を感じることも無く、死んだなと。


 思えば理不尽だった。最大のパフォーマンスを仕事で発揮したいから、定時のちょっと過ぎに帰っても怒られる。ずっと一緒にやっていた女性のゲーマーは、俺だけを残して皆ネットで彼氏を作る。


 皆が彼女が出来ているのに俺だけ出来ないって可笑しくないか!? お蔭で29歳なのに童貞だわ。もうちょっとで魔法使いなれるわ。だから俺は女性関係はほぼ諦めていた。


 けれども、ネットの人間を見ていたらよくあるやつだ。俺の方がマシな男じゃね? って淡い期待を抱くわけさ。だから、動画や本を見て価値観を深めたり、毛を剃るのが面倒だから脱毛したりとまあ色々したよ。他にもなんだ眼鏡だったけど、ICLの手術を受けて目の矯正した。


 めちゃくちゃお金かけてるじゃん? って。コンタクトを付ける時間、髭を剃る時間があまりも無駄だから、この大きな決断を行ったわけだ。うん。世の中はいかにも時間を効率的に使って生産性を高めるかなのだ。


 だが、そうやって新たな一歩を踏み出そうとしたのにあまりにも不遇じゃないか?


 なんだよ。社用車で高速道路走っていたら、トラックが対向車線から飛び出してくるって。


 あ、ヤバい――体がどんどん冷たくなっていく。祖父と祖母が亡くなったときも同じだった。凍るように冷たい。さっきから試しているが、指先すら動かない。そうかこれが死か――。


 想像したものを具現化できたら、もっと生産性があがるのにな。あと、女の子でも作って童貞捨てたい。いや。それは流石に生の女の子がいいか。我ながら少しサイコ臭して怖いこと言ったな――。




 ――しばらく待っていたのだが、あれ? 死んだんじゃないの? 頭を強く打ったんじゃないの?


 と、思っていると、どうやら目を開くことができた。車の中にいたはずが、見える景色は青い空。


 あれ? トラックが突っ込んできて死んだじゃなかったっけ? どこだここ?


「何なんだここは」 


 何も無い大草原。のどかなのは嫌いじゃないが、スイスのような景色で正直驚いている。こんな場所、東京には無い。都会の空気と違い美味しい。目一杯堪能しよう。


 と、思った時だった。突如空から巨大な怪鳥が降ってきたのだ。ぐえ~と涎を垂らしながら、目をギョロギョロさせた後、俺の方を見るなりニヤァと笑っていやがる。


 鋼の精神で落ち着こうと思ったが――。


『ギイイイアアアアアア』


 無理! 怖すぎ! 死ぬ! え、また死ぬの? 趣味は死ぬこと? いや、もうこの際どうでもいい。足止めできる銃みたいな武器を――


「は?」


 手にいきなり感触が出来たと思えば、驚いたことに銃が――学生時代はFPSをやっていたからこのデザインは知っているぞ。そうデザートイーグル! でも俺は銃を撃ったことが無い――。そうかこれは夢だ。あの世を堪能しているのだ。でなければこんなスイスみたいな草原に来たり、白亜紀のような訳分からん怪鳥に襲われるわけがない。ビル・ゲイツも言っているじゃないか。そして体感しているじゃないか。切羽詰まった時こそ最大の能力が発揮できると。


「喰らえ!」


 振り返って撃ってみたが何も起きない。ヤバい――ヤバい――そう言えば銃にはセーフティーモードがあるんだったら、どうやったらできるんだ! そう言えば銃の扱い方の本は流石に読んだことがない。とりあえず動かすしかない。


 ガチャ


 あれ。何か音がしたぞ――。今度こそ喰らえ!


『グエエエエエエ』


 目にクリーンヒット! それにしても、すげーバタバタしてるじゃん。初めて撃ったのに、手が全然痛くも無いが、とりあえず両手でもう一度だ。次は頭を狙おう! モンスターを討伐する某ゲームのボウガンの如く、連射してやる。


「喰らえ!」


『グガガガガガ』


 いいセンスだ。おっと、つい一人だからゲームのキャラとかの台詞をパクッてしまう。とりあえず動かくなったし必要なさそうだな。


 と念じると、銃は勝手に消えた。どうやら必要ないと念じると勝手に消える仕組みになっているらしい。めちゃくちゃ便利なチート能力を貰ったかもしれない。よし、確認するか。


 どれどれ? お、ちゃんと壊れているな――この怪鳥ってもしかして食べれるんじゃないか? よくよく見たら鶏肉みたいでヘルシーな脂質を摂ることができるんじゃ――。


 で、さっきの要領でいくと銃みたいに出せるはずだ。イメージしたモノを。てことでナイフ。


「おお――これは使えるな」


 さっきと同じだな。手からなら何でも出てくる。よし、大きめのボウルにでも入れていくか。


 そこからは俺はおもむろに剥いだ肉をボウルに入れていった。ある程度、溜まっていくと次は調理法を考えるとことにした。生肉というところで、みりんや料理酒が欲しいところ。


 と、イメージしたのだが出てこない――何故だ。仕方ない。とりあえず焼き料理にしたほうがいいよな――焼き鳥にでもするか。


 大きめの石と枯葉を用意し、マッチで火を起こす。そして金網を置いてBBQ感覚で焼き鳥だ。出来上がりも完璧だ。よし、食べよう――。


 そうやって謎の怪鳥の焼き鳥を堪能しているが――そう、塩味が欲しい。


 ですよね。みりんと料理酒が出ないなら塩も出ないわな。


「お兄さん。お取込み中いいですかな?」


「ん? 何ですか?」


 おお――外人だな。いかにもって感じのお爺さん出てきた。


「そこのグァイアスは一人で倒されたのですか?」


 グァイアス? この馬鹿デカ怪鳥のことか? てか、それしかいないよな。


「ええ。そうです。私が倒しました」


「何と素晴らしい! この辺りの食糧を荒らされていて困っていたのですよ。本当にありがとうございます!」


 なんだ。この展開。最近よく観る異世界系みたいな展開になっているぞ。て――ことは。


「変わった服を着た勇者様ですね――もし、宜しければ私の村に来ませんか?」


 ほら来た。そうか――スーツは異世界には無いもんな。で、お決まりの勇者と。妙にこだわった夢だな。いや、夢なのか? このパターンでいくと異世界転生になっているんじゃないか?


「つかぬことをお聞きしますが、ここはどこですか? 迷い込んでしまって」


「おお。そうでしたか。この辺りはモトリーナという場所です」


「そうでしたか。この怪鳥を倒すことはできなかったのですか?」


「ええ――如何せん手強い敵でして」


 これが手強いのか? 村人が弱すぎるだけなのか?


「そうですね。村の案内お願いします」

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