Proto A

front door

1

 世界は五度目の世界大戦によって荒廃してしまった。地表一帯が放射線で覆われてしまい、およそ陽を浴びながら生活できる種のほとんどすべてが死に絶えた。ただ、人類の生命力というものはしぶといもので、破局をいち早く察知した一部の人間たちはそれぞれの地域で巨大な地下シェルターを作り延命に成功した。今では。地下でかつての地表の生活空間を再現しようとやっけになってる群れもあるそうだ。


 SJ14と名付けられた巨大地下シェルターは、かつての日本新宿駅の地下150Mの地点を天井にして建設されている。5つの階層で分かれていて、それぞれが大体新宿駅構内の全域と同じくらいの空間となっていて、それぞれがショッピング・モールの群衆のようになっている。ただただ、食料品などを陳列するのに便利であろうという理由でそういう作りになったわけだが、物資の尽きつつある今では隙間だらけのむなしい現状を鋭く突きつけるようになった。


「ここにある食料が尽きてしまったら私たちはどうすれば良いんだろうか?」

彼女がそう呟いた。

「どうもこうも、できることなんて何一つないさ。今あるものがつきたら、僕たちはおしまいだよ。」

「地下でも栽培できる食物は開発しているっていうのはどうなってるのかしら。」

「それも、どうせ頓挫するよ。人間は陽の光がないと生きていけないのさ。上がそうなった以上は命運尽きただね。」

二人は画一的なモールの、元々缶詰が貯蔵されていた一角に座り込んでそんな話を延々と繰り返していた。


「私たちって子供も作らないで死ぬのかぁ。」

「まあ、しかたないさ。生まれるだけ不幸なんだから。」

向いに見える一角には、大量の菓子が並べられてあったのだが、例外なくそこもいまでが殺風景な一面の壁が見える。そして、こうなるとどこからともなく無気力な人間が何人かで居座るようになるのだ。

 そこを占拠していた男女には子供がいたようだった。二人は、どうにか子供だけは延命させようと、言葉も話せない俵くらいのちっぽけな存在に前向きな言葉をかけ続けていたようだった。その賢明さは、こちら側の私たちにも、いやでも伝わってくるのだったが、ある日その努力の果てにその子は命をおとしてしまったと見える。いつしか、悲壮感を漂わせるだけとなったその男女は気付いた時にはどこかへ移っていったらしい。今では、4,5人ばかりの男集団にその場は取って代わられた。見るからに、かつては災禍を招く原因となった核兵器のボタンを押していた連中だろう。不愛想なスーツはしおれている。

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