自信を持つのは大事です
「……もう良いんじゃないかしらシシリア」
町へ出て来て約3時間。
付き合いのあるブティックで改めてサラ様のサイズを計り直し、何着かパーティーに着ていけそうなドレスを注文して、靴やバッグ、髪止めなどの小物も良さそうなものをチェックして購入した。
既製品のワンピースも山のように買い込んだ。
本日はサラ様の買い物メインなので乗り合い馬車ではなく、屋敷から馬車を出して頂いたので、荷物が増えても問題はない。買い物した袋を馬車に置けるので身軽に動けて非常に助かる。
サラ様は最初は元気に付き合っていたのだが、段々と昼になって人出が多くなり出した辺りから、しきりに帰ろうとか疲れたとか言い出した。
以前のサラ様ならともかく、今の運動神経も復活した状況で疲れるにはまだ早い。
「何か、すれ違う人にジロジロ見られるの……やっぱり服とか変なのかしら……」
「あれは『可愛いご令嬢がいるなあ』という目線です。シシリアがサラ様ぐらいの年齢だった頃は、ただの元気だけが取り柄の暴れん坊でございましたので、可愛いとか言われた事もありませんでした。
サラ様が羨ましいですわ」
「あら! シシリアはとってもキレイだわ。
真っ直ぐの黒髪がサラサラで、私のようにすぐグシャグシャになって、まとまりがつかなくなるクセっ毛よりずっと魅力的だしうらやましい」
「ふふふ、ありがとうございます。ですがサラ様のフワフワの触り心地の良さそうな髪の方が愛らしいです。編み込みもしやすいですし。
クセがないのは、逆にいじりにくいと言う欠点もあるので、後ろでまとめる位しか出来ません。真っ直ぐ過ぎてカーラーを巻いても全く巻き髪になりませんし」
私の髪の毛は形状記憶合金かと思うほど丈夫かつ頑ななのである。
前世では割りとクセがあって、サラサラストレートヘアに憧れていたのだが、度を過ぎたストレートは曲者だと実感した。寝癖がつかないのだけは利点だが。
「……真っ直ぐも大変なのね」
「そうですよ。羨ましいと思う事は、大抵何かしらデメリットもあるのです。それにサラ様は羨むより羨まれる側でございますからね」
「私なんて、ドレスの良し悪しも分からないし、ちょっとはやせたけど、まだ顔もぱんぱんだもの」
頬っぺたをむにむにしながら呟いたサラ様に、やはり自己肯定感が低いのだな、と再認識する。
「サラ様の顔はぱんぱんではなく、若いので張りがあると言うのです。以前は確かにぱんぱかぱーんという感じでしたが今は顎のラインもハッキリとしてますし」
「ぱんぱかぱーん……余りめでたくない感じよね」
「過去の話です。今はご自身の努力でほら!」
横の店のウィンドーガラスの私たちを指差した。
お人形のような細身で華やかな姫様と、黒髪の地味なメイドがそこには映っていた。
「前よりはましだけど……」
サラ様もなかなか強情である。
「お腹空きませんか? 町に出て来たのですから、パスタでもどうでしょうか?」
「パスタ……! いいの? だって太るんでしょう?」
「適量なら問題ありませんわ。もうサラ様だってそんなに沢山召し上がれないではないですか」
美味しい物を食べて気分を上向きにしましょ。
私はそう思いサラ様と人気のあるレストランに向かって歩き出したが、サラ様がピタッと足を止めた。
「サラ様?」
顔を強ばらせているサラ様の視線の先を追うと、ボール遊びの少年たち。
……あ、あのイケメン少年もいるじゃないの。
まあ町内に住んでいればそりゃいるわよね。出会う機会は少なからずあるのだ。
「……シシリア、違う道から行きたいわ私」
小声で腕を引っ張るサラ様に、
「ここで逃げたら駄目です。あの子たちは前にサラ様にひどい言葉を言ってた子たちじゃありませんか?
もうおデブなサラ様はおりません。シシリアがついておりますから、絶対に目を逸らさないで下さい」
「でも……」
「サラ様は最高に可愛いです。アナタたちなんか眼中にないわよ、という上から目線でお願いしますね。
はいれつごー」
「はいれつごーって、ちょっとシシリアっ」
私は引っ張る手を離さずに歩く。
チラッとあのイケメン少年がこちらを見た。
「……うわあ……」
またデブだと言われるのか、と手からビクッとするサラ様の反応が伝わって来る。
だが、
「可愛い子だなあ……」
との少年の発言にうん? とサラ様は素早く周りを見渡す。『子』と呼べるのはどう見てもサラ様しかいませんけどね。
って言うか、あれサラ様見て言ってますからね。
若干頬染めてますからね、よく見てくださいよ。
「色白美人って言うんだぜ、ああいう子は。
いかにも貴族のおじょう様って感じだなー。
うちの学校の女の子たちとはレベルが違うや」
「もしボール当たって可愛い顔にケガさせたら大変だよ。か弱そうだしさ。裏の空き地の方で遊ぼうぜ」
「……おう」
今回は笑われる事もなく、むしろ相手から道を譲られた形になったサラ様は、チラチラこちらを気にしながらも裏手に去って行く男の子たちを見送り固まっていた。
「シシリア……」
「何でしょう?」
「あの人たち、可愛いって」
「屋敷の者もシシリアも言ってましたけどね」
「か弱そうって……」
「今は充分か弱げでございますよ」
「……うぇ……」
「いけませんよー泣いたらぶちゃいくになりますからねー。侯爵令嬢たるもの人前で鼻水も垂らしたらいけませんよー」
ハンカチを取り出しサラ様の顔を拭った。
「ほら、シシリアたちは嘘をついておりませんでしたでしょう? サラ様が頑張った結果ですわ」
まだ涙は出ているが、笑顔でコクコク頷いている。
「サラ様、自分を必要以上に上げすぎても下げすぎてもいけないのです。可愛くなったのならご自身で認めてあげないと、努力の甲斐がないじゃありませんか」
「そ、そうね……」
「ただ、これでもう大丈夫だとパカパカ食べたりしたら、元通りのコロコロ体型になってしまいますからね。これからも気をつけないといけません。
今日頼んだドレスも沢山買ったワンピースもすぐ着られなくなってしまいますわ。
とても勿体ないのでご勘弁願います」
「分かったわ。……よその人に可愛いって言われるの、うれしいのね……」
「そりゃあレディーですから。このまま可愛さキープでデビューして、あんな少年よりもっともっと格好いい男性を捕まえて下さいませ」
「……いけるかしら」
「いけますよ。──さ、シシリアはお腹ペコペコです。今日はお祝いパスタと行きましょう!」
「……お祝いならケーキもついたり?」
「それは致しません」
「……っ」
「舌打ちは止めて下さい舌打ちは」
久しぶりにお店で食べるクリームパスタはとても美味しかった。サラ様はキノコのパスタを幸せそうに食べながらも、
「アナタたちのゆうわくには絶対に……たまにしか負けないんだからね!」
とツンデレな事をパスタに言っていた。
それは事実上の敗北宣言じゃないだろうかと思ったものの、サラ様がとても晴れ晴れとした顔になっているのは嬉しかった。憂いはないに越した事はない。
──さて、明日からはご主人様の攻略だ。
どういった方法で攻めていくべきか。
ハーマンとよくよく話し合わねばなるまい。
屋敷の厨房のチーフコックなのだから、彼と協力しなくてはどうにもならない。
サラ様のダイエット成功で、私の1号と2号の有効性も理解してくれたようだし、是非活用して貰おう。ご主人様改造化計画も何がなんでも成功させなくては。
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