第10話 異世界からの訪問者

今日も―――いつも通り……の、午前中の会議へと臨もうのぞもうとする王。

しかし―――その前に、「友」である2人を呼び寄せ……


「イセリア、セシル、少し話がある……」


……・が―――しかし


「(!)お前……何者だ? 王ではないな―――?!」

「セシル殿―――……」


「判っています……」


ただ―――2人に声をかけた時点で、立ち処にバレてしまった……。

しかしそれは、それだけこの3人が積み重ねてきた成果の賜り物だった……。

そして、だからこそリリアは―――


「“私”は、私だ―――それ以上の説明はしない。

けれど、これから私が話す事は、この国の……そして、本当の王であるこの人の為でもあるから、是非とも耳を傾けてもらいたい。」


「(……)いいでしょう、判りました―――」

「イセリア殿―――?」


既に、王ご本人でないことは判ってしまった……けれどそんな事は、最早問題ではない―――。

その事よりも、もっと大切な事をリリアは、王の友である2人に話したのです。


         * * * * * * * * * *

「あんたたち―――この国の軍部が、魔族との戦争の準備を進めているのを知っているか?」

「(?)“いつか”……は、起こるものとは思っていましたが―――いやけれど未だいまだそんな事は、これまでの議題にも挙がってすらいなかったと思うのですが?」

「私も……そのような事は初耳ですが―――」


「そうか……なら良かった―――」

「何を言っている?十分大問題ではないか! それを“良かった”―――などと……」


「セシル―――あんたは知っているはずだ、この人の孤独を……だから、この事を知らないのはこの人だけか……と、そう思ってしまったんだ。」

「けれど、、その事を知っている―――なぜなのです……?」


王は、孤独ひとりぽっちではなかった―――その事には安堵しました。

けれども、それはそれで大問題―――王国の中枢ですら知らない事を推し進めようとしている“軍部”……


これは、単なる軍部の暴走なのか―――それとも、何者かによる差し金なのか……


いや―――それよりも、今自分達の目の前にいるのは、何者なのか。

王のお身体なのに、王とはまた違う雰囲気を醸す存在……

そして、その存在が知る、“陰謀”―――


しかしその陰謀それは、王の姿を借りる者によって、なされるのです。


「私がこの事を知ったタイミングは、昨夜―――この城下にある酒場で、この国の兵士の一人から聞いた話だ。

それに、その兵士が言うのには、今の兵力では全然不足しているから、まだ兵を募集るつのる―――と言う話だった。」


「そんな事が―――? 兵を募集るつのるのは勝手ではできない……王の許可が下りなければ、そんな事などは―――」


「では……“これ”はなんだ―――!」


「『募集の貼り紙』……?! 一体そんなものを、どこで―――……」


「その兵の言っている事の真偽を確かめる為、私が見つけ剥いできた……。

これが―――これがこの国の現実か! こいつら……王の事を何だと思ってやがる!!」


「お……前―――」


「あんたら、悔しくないのか!? 自分が仕える主が、蔑ろないがしろにされている事を―――!!」



私は……何をしていたんだ―――?

王に仕え、王を守護るまもる立場なのに…………

この私以上に、王ご自身の孤独を知り、その事に憤慨してくれる者………

しかもこの私も―――してや友ですらも知らない、赤の他人であるはずなのに……!


しかし―――だからこそ思うことがある…………


確かにこの者は怪しい―――

怪しいことこの上ない……

だとて、この者が紡いでいるのは“真実”だ―――

それに“この事態”……寧ろむしろ怪しむべきは―――

「可能性―――とすれば、やはり宰相でしょうね……それにあの者は、さきの会議で王に仄めかせた経緯もあります。」


「ならば―――即刻捕まえて、吐かせてしまえば……!」


「無理―――だろうな……」

「なんだと―――?」


「『無理だ』……そう言ったんだ。 そう言うやからは、どうせ『その通りです』なんて言う訳がない―――」



この者は……政治の―――内政にまで通じていると言うのか?!

それも……こうした駆け引きの事も―――



セシルの、言わば早まった行動をイセリアも否定しようとしましたが、間髪かん、はつを入れず反論したのはリリアでした。

それに、リリアの論理も的を得ていた―――確かに、悪徳なる政治家自身が、自らの悪事を暴露するなど、聞かない話し―――

それに、王ご自身なら疑う事すらしなかっただろう事を―――


いや、しかし―――……


イセリアは、魔族の智者は、普段王ご自身さえしない行動原理に、感嘆することしきり―――でしたが……

ではなぜリリアが、今回の策謀を看破るみやぶる事が出来ていたのか―――……


それは―――有り得ない“この一言”……


「それにしても―――ホント、呆れるっくらい“そのまんま”だわ。」


「は? なんっ……だと?!」


「似ているのさ―――なにもかも……以前クリアした、クエのイベそのまんまだ―――w」


「(???)ちょっっ……と、待て? 何だ?一体何のことを言っている?? “クエ”……とは? “イベ”……とは、何のことを言っているのだ?」


「ああ悪い……ちょっとした、“こっちの事情”ってヤツさ。

私がプレイしている「ゲーム」のなかでの「クエスト」に、丁度こうした策謀めいた「イベント」内容があってね。

まあ些細な事だ―――忘れてくれ。」



何を……こいつ……また訳の分からない事を?

「ゲーム」……だ、と? 「クエスト」……だと? 「イベント」だと??

この私を揶揄からかっているのか?それも王ご自身のお身体を乗っ取って―――?!


いや……それよりも、イセリア殿が青褪めている……?

なぜなのだ?こいつの言っている“事情”とやらに、心当たりがおありなのか―――?



自分達も知らないような「語源」に、「専門用語」のようなもので惑わせる……事実セシルも、揶揄からかい半分ではないかと思っていました。

この国に蔓延はびころうとしている陰謀を暴くあばくものの、訳の分からない単語の羅列で惑わそうとしているのは事実―――


が、しかし―――……


魔族であるイセリアが、その顔を蒼くしていたのは、またそれとは違った事情からだったのです。


「バカ……な―――なぜを………? ニンゲンであるそなたが知っている―――!?」


「え……―――?」


「いや……有り得ない―――この私ですら耳を疑った事が…………

いや……有り得ない―――では、“そなた”はなのか!!?」


「イセリア殿? どうされたと言うのです……お気を確かに!」


そう……総てが―――有り得るはずが、ない……

それと言うのも―――



魔族私達の間で、ある論説が提唱された―――

「現実」としての現世このよではなく、別の世界を創造つくって、そのなかに魂を飛ばし、物事を進めていく―――そう言うモノだ。

しかしだがそもそもの話し、その説には幾つもの矛盾点が挙げられる。

第一に、『この世にはない別の世界を創造るつくる』―――と言うのも、神ではない限り出来ない話しだし、現状の魔族でもそんな事は不可能なのだ。

その上―――『そのなかに魂を飛ばす』??

そんな事が出来るはずがない……万が一出来たとはしても、肉体はどうなると言うのだ?

死んでいるのか? 生きているのか? そのどちらでもない……と、言うのならば、どんな状態となっているのだ―――そんな事すら立証されていないと言うのに……。


だが……今にして思えば、そうだった―――

その者は、紅く燃え盛る炎の様な『緋の瞳』を持つ者は、冷静な眸で私達に言い放ったものだった―――


『今は、そうかもしれない』


―――と……

そして、だ……そなたは、まことなのか? 違う……別の世界からの「訪問者」なのか―――?!



北の魔女であるイセリアが、折に触れ―――南の魔女であるミリティアからの頼みもあり、訪れた彼の者の屋敷……

そこでは、数々の魔界の智者が集まり、さながらにして「学会」の様相を呈していました。


とは言え―――学会とは言え堅苦しい話ばかりではなく、時たまに入れる休憩などで差し入れられる酒類。

そうした中で、戯れ同然に紡ぎ出された『死せる賢者』なる者からの学説に、その屋敷の主である『学士』なる者も賛同した。

或いは―――酒の席の上での話しなのだから……と、聞き流しにした者も多かった―――イセリアも、その内の一人ではありましたが……


今、自分の目の前にいる者から、彼の論説が立証し始め―――た……?

すると―――彼方からは……


「ああ―――その通りだ。

私は、私が本来いるべき世界から、こちらへと飛ばされてきた……そして、この私自身の名も、『リリア』―――だ。」


「王と……一緒の―――」


「まあ、こちらに飛ばされた時、こんなになってたのにはさすがの私も驚いたけれどね。

けれど……お蔭で知ることが出来た―――孤独なひとりぽっちの王の事を……。」


「(!?)では―――私と対峙した時……」


「バカを言うな―――あんたを負かしたのは、紛れもなくこの人の実力だ。

ただ……アドバイスはしてやったけどな。」


「それより……では、王ご本人はどこへと居られるのだ?」


「大丈夫―――ちゃんとにいるさ。

ただ便宜上、かつての私の様に“させて”やっているだけれどな。」


「それで……王は? どうなされているのだ―――」


「ん~~~まあ―――色々信じられない事ばかり立て続けに起きてたから、目を覚ました時には結構喚いてわめいていたけど、今は大人しくしてるよ。

それよりも―――だ、イセリア……あんたが知る、あんたら自身が有り得ないとしていた説を提唱した人……って、どんな人なんだ。」


「あ……ああ―――私達の内では『死せる賢者』として名が通っている、智の大家たいかのお一人だ。」


イセリア達魔族のなかでも最高の頭脳を持ち、或いは突飛な説を発表するなどして、これまでにも世間を騒がせてきた人物こそ『死せる賢者』―――

しかも、その説が提唱された場も、酒宴での席での上だったので誰も大真面目に取り合う事などなかった……


ただ―――酒宴の席を提供した屋敷の主だけは、真顔でその説に聞き入っていた―――

その存在こそ『学士』なる者であり、酒宴の席が終わった後でも、しばらく『死せる賢者』と話し込む姿が……


そして、これも「きっかけ」―――今が“今”としてあるのは、思えばこの両者の邂逅があったからこそ……だったのです。



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