第5話 秘めたる想い
圧倒的な武の“差”と言うものを見せられ、その場にへたり込んでしまった近衛長セシルを、その差し伸べた手で起き上がらせた王リリアは……。
「なあ―――セシル……」
「―――はい……。」
「私からの頼みがあるのだが、聞いてもらえないだろうか。」
「はい―――」
「どうか……その……この私の、と―――友になってくれないだろうか……」
「―――……。」
突如として、王からかけられた言葉に、“キョトン”とした表情となるセシル……それに、中々戻ってこない返事に焦る処となってしまったリリアは―――……
「あ……ああ―――いやその、め、迷惑ならいいんだ……わ―――私もちょっと~~」
「プッ!w ウッフフフフ―――w」
「えっ?」
「ああいえ、今のはちょっとびっくりしただけです。 だって、王から臣下に対し、かけられる類のお言葉ではありませんでしたから―――。」
「そ……そうか―――そう―――だったのか……」
「けれど、何とお答えすれば良いのでしょう? 私は、曲がりなりにもあなた様の臣下なのです。 他の臣下の前で馴れ馴れしい態度を取ると言うのは、いかがなものかと。」
「ああ―――それなら、飽くまでもプライベートでの話しだ。 それに、政策の上でも忌憚ない意見を述べてもらいたい。」
「
この頃のこの世界では、いわゆるところの「封建社会」であり、“上”は絶対的で“下”は絶対的な服従―――そこを、垣根を越えて……の
けれど、リリアの可笑しくなるような……それでいてちょっと可愛らしい仕草に、ついぞ吹き出してしまった―――これはこれで“不敬の罪”には問えるものの、王はそんな事はしなかった……。
折角得た……得ることが出来た信じるべき者に、自分を隠す事はするまいと誓ったのですから。
それにしても―――?
{いっやあ~~どうにかしても、収まる処には収まるもんだよね。}
{(勝算があったのではないのか?)}
{ん~~まあ―――“半々”かな?w}
{(どう言う……事だ??}}
{だから、言葉そのまま―――私も同じようなスキルを持っているけれど、確率としては……}
{(ちょ……ちょっと待ってくれ―――? もし出なかった場合……)}
{ん~~~まあ、想像しない方がいいかなッ?w}
恰好のいい事を言ってはいたものの、“出る”か“出ない”かはまさしくの賭け―――しかし、その賭けは“吉”と出た―――それに、王のリリアも不思議と所有していた“秘められし力”―――それこそ【
これは何かの偶然の一致なのか―――と、実体のないリリアは想いましたが、この賭けに出たお蔭で、王と近衛長の間は、急速に接近できたのです。
その事に一番驚いたのは―――
「これは―――……一体どう言う事ですか?」
「ああ―――これは宮廷魔術師【イセリア】。 私達はようやく判り合えるまでになれたのだ。」
先程までは毛嫌いするほどまでに嫌悪していた者達が、今では引き寄せ合うまでになっている……。
いつの間に―――?と、思いたい処だが、恐らくは再度の手合わせで互いの
それにしても、難しいモノだ―――ニンゲンと言うものは……しかし、それが
恐らく学士殿も、そこの処に魅せられたのかも知れないな……
そして、いずれニンゲンの王である、この方も―――……。
北の魔女―――こと宮廷魔術師【イセリア】は、
彼の方の考え―――行動―――これまでと同じ
それがもし―――学士と考え方が一致だった時、新たなる『可能性』が見えてくる。
もちろん一致しなくても、現状としての魔族の有り方に疑問―――また限界を感じていた学士は、自らが“その道”を放棄するなど論外―――考えていませんでした。
その学士が、自ら選んだ険しくも厳しい
皮肉なモノだ……最弱な存在が、“最強”の【魔王】に成ろうとしている……
しかし、見ものだ―――果たして学士よ、あなたがニンゲン“最強”の王と、どう差し向うのか……
北の魔女は―――宮廷魔術師は―――イセリアは……学士が提唱する“もう一つの説”に、さながらにして興味を沸き立たせました。
それこそが―――【総ての可能性の為に】……。
恐らく学士は、既に以前からニンゲンと魔族との間で為されている戦争の即時停止を模索している……。
何の生産性もない―――ただ破壊し尽すだけの戦争……。
武器商人や軍需産業などの、一部の者達だけが
“私達”は、それに嫌気がさして、魔族の都から離れ自分が好きな事だけを追求してきた……。
そんな折―――唯一交流のあった南の魔女から……
『学士なる者から興味の湧く話しを頂いた。 そこでワレも少しばかりの支援をする為、方々を駆けずり回る事となるだろう。
その間、そなたにも学士からの打診があるやもしれん……その場合は、まあ言っている事はともかくとして、ワレの顔を立ててはくれまいか。
無理な話しやもしれぬが、いずれそなたなら判ってくれるはずだ―――……』
ああ―――そうだ、確かにそなたの言う通りになってしまったようだよ、南の魔女……。
私は
だから私は、もうしばらくここへと居させてもらう事にするよ……。
そのきっかけは、学士と南の魔女との“密談”でなされたもののようでした。
このお話しの時点では、具体的には何が話されたかまでは判ってはいませんでしたが、現実の結果として南の魔女は、学士の提唱する説に同調し協力する
それに自分も、気付けば……目の前のニンゲンの女性2人に興味を示してしまっている。
今までは、長く生き永らえるくらいにしか思っていなかったのに、長生きしてみるのも意外に悪くはない……そう思っていたのです。
すると―――ところが……?
「なあ、イセリア……実はお前にもお願いがあるのだ。」
「何でしょう―――?」
「私の友になってくれないか?」
「―――はい?」
「それは良い考えだと思います。 それに私も、宮廷魔術師殿から見込まれての近衛の長へと成れたのですから。」
―――正気か? この御仁……
いや、だって、私の正体を知らないはずはないだろう??
宮廷魔術師イセリアが意表を衝かれたのは、自分の正体を知っているはずの王リリアが、魔族である自分に対し「友誼の契り」を持ちかけてきた事でした。
それに一度は自分が魔族である事を知らしめる為に目の前で『転移魔術』を行使し、消えてみせたのですから。
だからこそ、再びこの人物の前に姿を見せた時、バツが悪いと言うものではなかった……なのに、この人物は自分の事を温かく迎えてくれた―――
……もしかすると―――その最初から……採用をする前から判っていたのか?
それにしても―――なぜ……?
北の魔女は―――魔族である者は……
普段ならば、魔族だと知れるや
しかも―――……
「済まないな―――私はもう……自分にも偽る事を止めにしたんだ。 だから、これからは……自分に嘘は吐かない。」
「王よ―――!!」
「よいか、セシル……これから話す事は、総て真実だ。 だから、驚かないで聞いてくれ。」
「は? は……あ―――」
「止めてください、王よ―――それ以上は……」
そんな……?いつも冷静沈着なイセリア殿が、動揺をしている……?
それ程までに、王が言わんとしている事が重要なのか……?
セシルは―――イセリアは―――リリア本人ではないから、知らない……知る由もない。
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