第50話 死神
────あの男も能力を消す能力を……?
先程行われた一連の流れを目の当たりにし『
それは自分と同じ能力がある事だった。
『
能力を打ち消す能力など本来
自身の身体に刻み込まれたラグナの力によって初めてその魔術は設立する。
ラグナは魔術の中でも魔法に限りなく近い魔力を酷使する。
その一つの終着点がラグナの能力──── 『
『
故に自身に刻まれた力が如何に異端なのかを薄々感じ取っていた。
しかし目の前に形は違えど同じ能力を持つ者が現れたのだ。
『
「良い……良いぞ。リューアの側近と言えるだけはある。俺を楽しませろ人間よ」
ようやく力のある者が現れ喜んでいるのか意気揚々とラグナが黒江に語りかけるが黒江は表情を変えずにその足を踏み出す。
「誰が側近だって?俺は傭兵だ。命令を出されても自分の行動を優先する厄介者のな」
「ほう?リューアを尊敬するが故の使徒ではないのか?」
「そんな奴今の十二神祖には二人しか居ないよ。リューアも難儀な事だな」
ラグナは黒江の言葉に眉をひそめ、何かを考える様な素振りを見せたがすぐに切り替え戦いに集中する事にした。
「まあよい、とりあえずはこの勝負を楽しもうでは無いか。俺も残り時間が少ないしな」
「だろうな。お前の本気はさっきの魔術なんかじゃない。手を抜いているかと思ったが出せないようだしな」
「察しが良くて何よりだ。短い時間────最後まで楽しもうではないか」
次の瞬間────ラグナは大きく地面を蹴り、黒江の元に向かった。
常人────否、『
「これを見定めるか!」
「スピード勝負の経験が豊富でな。慣れてるだけさ」
往なされたラグナはそのまま黒江の後ろへ飛びながら高濃度の魔力生成を開始した。
黒江は瞬時は次の一手が来るとその気配に察し、自身の身体を刀と共に大きく捻りながら照準をラグナへ合わせた。
黒江がラグナに照準を合わせた瞬間にラグナは魔力を解き放ち、放たれた魔力は一瞬で肥大化し地面を大きく削りながら黒江の元へ向かっていった。
対する黒江はそんな魔力の塊に
黒い靄はラグナの魔力に衝突するなりすぐに消え果て、周囲には消えた衝撃による僅かな風が走った。
しかしその風に乗って黒江の目の前に黒い物体が現れた。
「クッ……!」
黒江は目の前に迫るラグナの腕を地面から靄を生やす事で障壁とし、その一撃を防いだ。
「こんな事も出来るのか」
ラグナは不意打ちを防がれた事を大して気にも止めず心底楽しそうに黒い壁の向こうにいる黒江を見据えながら笑っていた。
「まだまだ終わらんぞ」
次の瞬間にはラグナの背後に無数の魔力で生成された赤黒い剣がいくつも形成され、その矛先を黒江の元に合わせた。
黒江は剣を見るなりすぐに靄を強め魔力ごと打ち消そうとするが────数本は靄を抜けて黒江に向かった。
「チッ!」
黒江は舌打ちをすると同時に刀で抜けてきた剣を払いながら身体を後退させつつ体制を整えようとしたがラグナの剣がそれを許さなかった。
「どうした。乱撃には弱いか?」
黒江の作る靄は確かに剣を弾き、そして消した。
しかしそれは敵の剣を消した靄も消えるという事である。
それをラグナは瞬時に理解し、ならば次の靄が浮かび上がる前に二波を仕掛ければいいでは無いかと考えたのであった。
実際黒江からは先程の落ち着いた表情は消えており汗を滴らせながら何とか剣を躱している状態であった。
「埒が開かないな」
黒江は剣を払いながらも数メートル先で余裕の表情を浮かべているラグナを見定めるながら呟いた。
────確かに乱撃にモルテは弱い。でもな、必ず弱点には補える部分があるんだぜ。
黒江は今までで最もデカい靄の塊を刀に纏わせた。
ラグナが何をする気なのかと目を細め、警戒を始めたが黒江の今から放たれる技に警戒など不要なものであった。
必要なのは────ただ逃げることしか許されない技。
「モルテ────
次の瞬間、黒江の靄は辺り一面を覆うように広がり、同時に地面からも黒い靄が湧き始め、周囲十メートルを黒い波の様に変えてしまった。
靄は上へ上へと舞い上がりラグナの作成した剣を喰おうと蠢く。
「剣に触っても消えない────広域侵食魔法と言った所か」
ラグナは喰われた剣を見てすぐに危険を感じ取ったのかその場から大きく跳躍し
「逃がさないぞ」
黒江の言葉を合図の様に近くに待機していた靄で作られた槍が放たれた。
黒い槍は真っ直ぐに突き進み、空中で体の自由が効かないラグナの元へと向かう。
「馬鹿だな……お互い消し合う能力同士。俺の魔力をぶつければ容易い事よ」
ラグナは空中にて姿勢を崩しながらも右手に魔力の塊を作り出し瞬時に槍にぶつけた。
ラグナの思わく通り槍は魔力と共に消え果てたが────槍の後ろに付いていた第二波となる黒い靄が広がりラグナへと襲いかかった。
「何!?」
「俺の弱点は第二波のような乱撃だ。それは俺とほぼ同じ能力を有するお前にも言える事だろ」
黒江はしてやったりと言う顔を浮かべて靄に呑み込まれるラグナを見た。
ラグナは「小僧め」と忌々しく呟き、靄と相い対した。
靄はラグナの右手に絡み付き、無尽蔵に魔力を吸い上げる。
ラグナはすぐに絡まれた瞬間に自身の存在を消しかねないモノだと判断し絡まれた右手を左手で切り落とした。
今の身体は元は人間の身体であった為、痛みこそ無いがラグナにとっては初めて与えられた大きなダメージであった。
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