第48話 顕現


「何百年振りだ?随分と顔付きが変わったな」


「色々あって神々を裏切りましてね。なのでもう毎日ハラハラで笑わずにはいられないんですよ。ほら、僕の顔口角がちょっと上がってるでしょ?笑い癖が付いちゃって!」


「フッ……その顔は笑い顔か?俺には場を掻き乱す事しか脳の無いジョーカーのように見えるがな」


 二人の間で繰り広げられる会話を『罪を喰らう者クライム・イーター』は知り合いだったのかと驚いた表情で聞いていた。

 そしてデルメアの身体全体には異常な量を誇る血痕が付いており、『罪を喰らう者クライム・イーター』は上にいた騎士は殺されたのだと悟った。

 そんな『罪を喰らう者クライム・イーター』を他所に会話は続いていく────


「で、俺の身体の一部を利用して作ったコイツを何に使うと?」


「本当はこの子の身体で貴方の力を最大開放させてリューアにぶつけたかったんですよ。でもこれ見る限りリューアの足元にも及ばなさそうですし」


 デルメアは『何か』を止めた右足を一旦離し、その足を下に転がっている『罪を喰らう者クライム・イーター』を踏み付けながら言葉を続ける。


「魔力も大量に食う癖に負けちゃうんだから無理かなって。最高傑作だと思ったのにな〜」


「贋作ではリューアに傷も付けられまい。アイツを殺せるのは俺しか存在しないのだからな」


 リューアの話になると『何か』は心底楽しそうに言葉を紡ぐ。

 それに合わさる様にデルメアもテンションが上がっていくかのように普段の飄々とした態度を露わにしていく。


「でもラグナさんはもう現世に甦らないでしょ?今見たいな特殊なケースじゃないと?」


「なんだ、聞いていないのか?」


 ラグナと呼ばれた『何か』は含みを持った聞き方をしデルメアは思わず顔に困惑の色を浮かべた。


「何を?」


「時が来れば俺は現世に復活する。フィーリアの世界線にも察知されずにな」


「初耳だよ!え!凄い!どうやるの!?」


 ラグナの言葉にデルメアはまるで子供のようにはしゃぎ、言葉の真意を聞きていく。

 ラグナもデルメアの質問に対してらすような躊躇いはせずに淡々と答えていく。


「死祖のハヴェッツに話を聞けば良い。アイツが俺の身体を復活させる為の準備を進めている」


「死祖が?しかもハヴェッツってあの殺人狂?何で彼が貴方の復活の為に動いている訳?」


 死祖────それは悪戯に死を運ぶ生きる厄災。

 リューアは合計十二人となる死祖に対抗する為に使徒十二神祖を作ったとされているが詳細は定かでは無い。

 勿論『罪を喰らう者クライム・イーター』も何の話をしているのか全く把握できずに顔をポカンとさせながら二人の会話を聞いていた。


「彼奴は人が死ぬ事なら何でもやる暇を持て余した狂人だ。それ故に今は俺の復活を目指して試行錯誤しているのだろう」


「じゃあ僕なんかがこんな作らなくても天界は荒れる予定だったって訳か!」


「まあ、そうなるな」


 するとデルメアは動けない『罪を喰らう者クライム・イーター』をまるでボールの様に軽々と蹴り飛ばしもはや興味が消えたのか女神にも向けていた冷淡な表情を纏わせて言葉を紡ぐ。


「君、もう邪魔だから消えて良いよ」


 身勝手な言葉に『罪を喰らう者クライム・イーター』は言い返す余力すら無く、ただただ殺されるのを待つだけであった。


 ────あぁ、殺されるとはこういう事か……


 『罪を喰らう者クライム・イーター』は今までに殺した転生者達を思い浮かべて深いため息を吐いた。


 ────俺の罪を押し付ける酷な役を押し付けてしまったな。


 自身は決してあの世なんかには行けずに地獄に堕ちるだろうと思いながらも『罪を喰らう者クライム・イーター』は穏やかにその瞳を閉じた。


 ────罪は消えない。しかし償い続けるしか無い。それがせめてもの贖罪になるのなら……


 ────俺はこの死という断罪を心から受け入れよう。


 そうして、デルメアの右手が『罪を喰らう者クライム・イーター』の首に添えられ、その骨をへし折ろうとした瞬間────



 空が一瞬で黒く変色し、空の一部がれた。


 突然の事にデルメアとラグナは空を見上げる。

 二人とも何処となく厄介な顔をしながら空を見つめており『罪を喰らう者クライム・イーター』はまたもや何かが起きたのかと再びその瞼を開ける事となった。

 しかし

 逆にそれが不気味であり、感じ取ることのできない正体不明の恐怖が押し寄せる感覚にフィールドは包まれた。


 そして、デルメアは空を見て狂気を孕んだ笑みを今までで一番強く滲み出し、空にいる得体の知れない敵に向けて言葉を放つ────


「始祖十二神祖────『死神ブラック・モルテ』!黒江くろえ けん!」



 空に浮かぶ黒江と呼ばれた男はフィールドを冷めた目で見下ろし呟く。


「目標目視確認。これより任務を開始する────」

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