第45話 Alternative:Collision


「え?」


 女神の前に、ほんの数秒で『何か』は現れ無条件に絶望を振り撒く。


「来い。お前の死が必要だ」


 女神の返答など聞かずに無理矢理『何か』は女神の腕を取り『罪を喰らう者クライム・イーター』の元へ連れていこうとした。

 女神は咄嗟の事に何が起きているのか全くもってわからなかった。

 何故なら女神は『何か』が生まれた過程を知らないからである。

 ラーゼの身体が乗っ取られる過程も、星を堕とした過程も今現在『罪を喰らう者クライム・イーター』に自分の命を使って試練が行われようとしている事も全て女神は知らないのである。


 さらにいえば外見が未だにラーゼの身体の為、余計に女神は不思議に思った。

 言動、立ち振る舞い、そして腕や首に浮かぶ赤黒い刺青の様な紋様────全てが先程のラーゼの印象からかけ離れていた。

 そして女神はそんな疑問を抱いているうちに無理矢理に腕を掴まれ、強引にラーゼの身体を乗っ取った『何か』に連れて行かれそうになった。


「あなた何なんですか!さっき話してた人との会話は急に切れるし空からでっかい魔力の塊は落ちてくるし意味わかんないですよ!」


「少しうるさいな……」


 腕の中で暴れる女神を『何か』は煩わしく思ったのか首を軽く叩き、その意識を夢の中へと落とした。


「反応がないのは些か残念だが奴の表情に変わりはないだろう」


 そして『罪を喰らう者クライム・イーター』の元へ向かおうとした瞬間────『何か』の顳顬こめかみに銃弾が撃ち込まれた。


「ほう……」


 銃弾は顳顬に小さな傷をつけただけであり特に大きなダメージには繋がらなかった。

 本来なら脳を撃ち抜かれているだろうが『何か』の『神の座を壊す者オルタナティブ』モードによって皮膚が硬化している為その心配は消え果てていた。


「まあ、そんな事だろうと思ったよ」


 星の衝撃によって抉られた地面に座っているラックがスナイパーライフルを構えながら『何か』を見つめていた。


「ほんと、スナイパー泣かせしかいないな」


「貴様……死ぬ覚悟は出来ているんだろうな」


 『何か』は明らかに不快な顔を浮かべてラックを見つめ、その不快な感情を怒りに昇華し、さらにその怒りを言葉に変えてラックに問いかける。


「ライフル越しに仲間が全員死ぬ所をみた。上で多分李仁も死んでる。流れ的に俺が死ぬのは必然的かもな」


「覚悟……とは言うまい。諦めか?つくづく俺をイラつかせる奴よ。その首、確実にへし折ってやろう」


 『何か』は一旦女神を置き、ラックの元へ歩み始めた。

 ラックは冷静にスナイパーライフルを構え、その標準を脳味噌の位置に定める────と思いきや急にラックは銃を空高く掲げ、その引き金を引いた。


 ────何?


 何をするつもりなのかとラックに『何か』は訝しげな目線を送るがラックは冷静にに対して言葉を送る。


「俺じゃ勝てそうにないからさ。死んで行った仲間には申し訳ないけどアンタに託すよ」


 その言葉と同時に『何か』の頬に強い衝撃が走る────


 『何か』は頬を硬化させているというのにその衝撃に身体を吹き飛ばされ、地面に強く衝突した。

 そして『何か』が立っていた場所に一人の男が立つ。


 身体を赤と黒の怪しい紋様で包み、その身体からは蒸気を発している。

 目はこの世に絶望したかの様に冷たい目をしており恐怖の化身と言い換えても良いかもしれない。

 しかし彼は今一人の女性を守る為に力を振るったのだ。

 その男とは────


「任せたよ。対象者だった人」


 『罪を喰らう者クライム・イーター』であった。


「あぁ、女神を引き剥がした事。銃で位置を知らせた事。感謝する」


「お安い御用だよ。勝って俺の命を守ってくれれば何でも許すさ」


 吹き飛ばされた『何か』は二人のやりとりを聞いて高らかと笑いながらその場に立ち上がる。


「勝つ?俺にか?紛い物のお前が?面白い!やってみろ贋作」


 二人のオルタナティブがフィールドにて衝突をしようとしていた。


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