第42話 Remember……?


 勢いよくフリークが『何か』に対して剣を横から振るう。

 しかし『何か』はその場から動こうともせず、挙げ句の果てには振るわれた剣を親指と人差し指の間で止めてしまう始末であった。


「避けるなんて真似はしねえってか!」


「違うな、避けるに値しないだけだ。あまりおごり高ぶるな自意識過剰め」


 『何か』はフリークのつまんだ剣ごとあり得ない腕力で吹き飛ばしフリークは重力に逆らえぬまま地面に勢いよく叩きつけられた。

 思わずフリークの内臓は衝撃によりダメージが走るがすぐさま李仁の上書きの効果によって回復が始まる。


「凄いや……時間稼ぎにはもってこいの能力だ!」


 和馬は改めて自動的に回復するフリークの姿を見て思わず感嘆かんたんの声を漏らすがそこに『何か』は言葉を重ねる。


「お前達は不死だと錯覚するが故に俺に向かおうとするか……随分と滑稽こっけいだな」


 唐突に煽られた事により和馬は目を細めて言葉の真意を問う。


「どういう事ですか……?」


「今にわかる。俺の前では不死なぞ小細工に過ぎんとな」


 すると突然『何か』は辺りを見渡し始め、『罪を喰らう者クライム・イーター』を探し始めた。


「俺の本来の魔法を見せるのならばあの男が居た方が都合が良いな」


 『何か』はすぐに『罪を喰らう者クライム・イーター』を見つけるとすぐさまその場所に和馬を放置して瞬間移動かと錯覚するほどのスピードで移動をした。


「えぇ!?ちょっと!」


 ×                     ×


 時は数分前に遡る────


「アレ……なんで私死んでないの?」


 地獄の様に燃え盛り、荒地と化した地面に一つの命が再生した。

 彼女は疑問を浮かべているがそこに一つの声が介入する。


「貴方にも擬似的な不死を与えました」


 聞き慣れない声に女性の声の主────女神は驚きながら辺りを見渡すが声の主は見つからない。

 それも予想通りなのかすぐさま介入した声の主でありフィールドの情報を上書きした李仁はフォローを入れる。


「僕はこのフィールドを操ってる……というより弄ってる人間です。転生者達のフォローをしてました。なので貴方とは敵対関係なんでしょう。しかし今は緊急事態の為、敵対とか言ってる場合じゃ無くなりました。かと言って貴方と一緒に行動していた男の人に不死の力を与えるわけには行きませんけど女神さんには色々聞きたいことがあるので不死の力を与えたっていう感じです」


「ええと……不死とか操ってるとか色々聞きたいことがあるんですけど取り敢えず『罪を喰らう者クライム・イーター』さんは?」


「無事ですよ。南に少し歩けばいると思うます」


 その返答を聞くなり女神は安堵の息を漏らしたと同時に『罪を喰らう者クライム・イーター』の元へ駆け出していた────


 ×                     ×


「クッ……」


 『罪を喰らう者クライム・イーター』は今現在『何か』によって乗っ取られている身体の本来の宿主、ラーゼに与えられた『呪い』のダメージを我慢しつつ魔力を身体に循環させそのダメージの回復を図っていた。


 ────あの突如現れた男は何者だ……?


 数分前、突如として身体を乗っ取るように現れ一瞬にしてフィールドを地獄へと変えた男に『罪を喰らう者クライム・イーター』は思考を巡らせる。

 膨大な魔力。一瞬にして地を地獄に変貌させる魔術。気がかりな事は多々あるがその中でも特に『罪を喰らう者クライム・イーター』に気がかりであったのはあの男が突如現れた原因であった。


 現れる前────本来の身体の宿主が自身に放った言葉が妙に突っかかる。


 ────ほんと、お前何者だよ……


 あの言葉の意味は何だったのだろう。

 明らかにトリガーは自身の血の様であった。

 

 謎に拍車を掛けるように更に過去の自問自答の言葉が思い浮かぶ。


 ──── 俺自身は何者なんだ……?


 あの転生者の言葉だけでは決して『罪を喰らう者クライム・イーター』はそこまで悩ましい顔にはならなかったであろう。

 しかし女神の正体への問いかけ、デルメアと呼ばれていた男の目的────全てが重なり思考はゆがみ、ひずみ、いびつ蹌踉よろめいて行く。


 そして、蹌踉めく思考は最終的に一つの疑問に到達する────




 ────俺は、何者だ?




「おい」


 思考が回り続ける中、突如『罪を喰らう者クライム・イーター』の目の前に『何か』が姿を表した。


「どうした?幽鬼ゆうきの様に青白い顔を貼り付けて」


 『何か』は言葉的には心配を向ける言葉を掛けるがその顔から滲み出る邪気とそれに伴って貼り付けられた笑みが心配などという言葉を真っ向から否定している。


「俺は────何者だ?」


「ほう……」


 『罪を喰らう者クライム・イーター』の質問に『何か』は更に顔を歪めて心底楽しそうに言葉を紡ぐ。


「良いぞ、教えてやろう。お前が何者なのかを。俺は断片的ではあるがお前が何故にのかを知っている。これから起きる事に目を逸らすなよ」


 『何か』は笑みを含んだまま後ろに振り返る。するとそこには『何か』を追ってすぐ近くまで足を運んでいたフリークと和馬の姿があった。


「何をするつもりだ?」


「何、案ずるな。の力の使い方と言うやつを教えるだけだ」


 『何か』は言葉を言い終えると同時に赤と黒を含んだ邪悪な色をした魔力を纏い、同時に魔力解放の言葉を告げる────



「モードチェンジ『神の座を壊す者オルタナティブ』」

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