第41話 成すべき事


 地上がまるで地獄を体現したかの様な筆舌ひつぜつに尽くし難い状態に成り果てる────


 木々は燃え盛り、星が衝突した中心地には最早木々など存在せず、衝撃によって抉られた地面が剥き出しになっている状態であった。


 勿論、そこに人など存在する余地などありはしない。

 ありはしない────筈だった。


「ほう?」


 空中に鎮座ちんざしている『何か』はその光景を見て訝しむ訳でもなく口元に笑みを浮かべて地上にて起こった不可解な現象を見ている。

 その視界の先では人間の身体の部位の一つ一つが意識も持った生物のように蠢き、まるでブラックホールに吸い込まれるかの様に一つ場所へ収束して行く。

 そして収束が終わるとそこには、衝撃によって跡形もなく吹き飛んだ筈のラックやフリーク、和馬かずまの姿があった。


「何が起きたんだ……?」


「俺達、確かに死んだよな?」


 ラックとフリークが顔を見合わせ不可解な現象に眉をひそめていると和馬が笑顔で言葉を発した。


「何言ってるんですか!李仁さんの上書きが終わったんですよ!!!」


 和馬の言葉と同時に三人の脳内に一つの声が響く────


「お待たせしました。皆さんは擬似的な不死となりました。思う存分暴れてください」


 李仁の声にラックとフリークは安堵あんどの表情を浮かべると同時に再び戦闘の意思を示す強い眼差しを取り戻す。

 そして、その眼差しを空中に鎮座しているラーゼの身体の中にいる『何か』に向ける。


 『何か』は視線が向けられると同時にせきを切ったように笑い出し、下の三人を見下す。


「ふははは!!!誰の許可を得て見上げているのだ人間風情?擬似的な不死になった程度で俺に勝てると少しでも思い上がったのか?」


 そして『何か』は目を細めて冷酷な言葉を続ける。


「その程度の魔術────いや、人間の手が入り込んでいるな。まあ良い、どちらにしろ俺が余った時間全てを駆使して壊してやろう」



「全員、空を飛べる様に設定をいじりましたので自由に動いて大丈夫です」


 転生者チームは上にいる『何か』をまずは引きり下ろす為に動く事を始める。


「空を飛ぶってどうすりゃ良いんだ?」


「簡単ですよ、ただ『空が飛びたい』と念じるだけです」


「おお!!!」


 フリークの身体が李仁の言葉通り『飛びたい』と願うだけで重力を完全に無視し、ぷかぷかと宙に浮き始めた。

 それに続いて和馬も空中に浮かび始め巨大な斧を構えながら『何か』と同じ高度まで上昇して行く。


 一方ラックは地面を移動し、どこでもスナイパーライフルで援護できる場所に移動を開始しようと走り出す。


「あいつに銃は効くと思うか?」


「正直……難しいと思います。移動するならついでに『罪を喰らう者クライム・イーター』の様子を見てきてくれると助かります」


「この戦場には暗殺者泣かせしかいないな……」


 そうしてラックは位置取りをするついでに『何か』に蹴り飛ばされた『罪を喰らう者クライム・イーター』の様子を見に動き始めた。


 各々が成すべき事を果たす為に動き出す────



「見上げるに飽き足らずに同じ土俵にまで上がるか」


 『何か』は言葉とは裏腹に心底楽しそうな表情を顔に貼り付けて笑う。

 そんな『何か』を見つめるフリークと和馬の目には確かな殺意が宿っていた。

 ほんの僅かな時間とはいえ仲間だったラーゼの身体を乗っ取った『何か』に二人は明らかな怒りを持ち合わせていたのだ。


 それを感じ取った『何か』は尚も笑う────


「良いな……はやりこの世は心地が良い」


「何が心地良いんだ?マゾヒストかよ」


 『何か』の場の空気を読まない発言にフリークは怒気をはらんだ言葉を投げるが『何か』はそんな怒気に当てられる事もなく調子を変えずに言葉を続ける。


「人の殺気は心地が良いと言っているのだ。貴様の様なケダモノには多少は理解できると思ったが中身は所詮人間か」


「なりたくてこんな身体になった訳じゃねえからな!」


 フリークは我慢の限界が来たのか手に剣を構えて『何か』に突っ込んでいく。

 それに続いて和馬も身体に似合わない巨大な斧を構えて空の上を駆け出す。


「覚悟しやがれ!!!」

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