第4話 蠢く者
────あぁ、絶望の声が聞こえる。
第一の犠牲者となった転生者が殺された後に男が叫んだ声は天を貫き見事に女神の耳を振動させた。
女神はその事実を否定し、あの世界からこちらに呼ばないという手もあったのだが何処か心の中に『死にたく無い』という思いがあったのか結局男を再度この場に戻してしまっていた。
そして何よりあの男はあの世界に置いたとて、いずれこの場に地獄からの使者の如く戻ってくるという気概を感じたからでもある。
「逃げなかったのか。意外だな」
男は絶望という名の化粧に塗りたくられた女神の顔を見ながら自己犠牲はしないのだなという皮肉を込めて呟いた。
「……」
「まあいい、次の世界へ
男への皮肉には声が出なかった女神もこの受け答えはしっかりしなければ殺されると悟ったとか徐に口を開ける。
「リキシア王国。かつて龍が世界に舞い降り、龍の圧倒的な力によって世界は壊滅状態……そこに転生者となったリク様が現れ、神に与えられた力によって龍を倒し現在は冒険者として旅をしているそうです」
「転生者の過去を詳しく話せ」
「高校生の頃にいじめで不登校に……その後も特に家から出る事なく二十五歳まで実家暮らし。一度社会復帰を試みますが高校時代にいじめていた人の一人を見つけて殴りかかりますが返り討ちに合ってその後その人物を殺害。そのいじめグループの三人目を殺そうとしたタイミングで相手側の反撃に遭い、階段から落ちて死亡です」
詳しい話を聞けば聞くほど男の顔は曇っていった。
「悪人が今は正義ヅラを堂々と掲げている。この事実が何より腹立たしい」
「しかし……先程の転生者様も少なからずいじめていた側にも非が……!」
女神は思わず男に反抗の態度を見せた。
殺されても仕方がない。この言動は明らかに転生者側を庇う言葉なのだから。
女神が
すると男は意外な言葉を口にした。
「そうかもしれないな」
「えっ……?」
男の意外な返答に女神は思わず疑念の声を上げた。
「しかし起きた事は変わらない。罪を償う事などは出来ない。死ぬ以外にはな」
女神が
「俺が危惧しているのはあの世界でその人殺しをしないかどうかだ。結果的には世界を救ったらしいがな。それ自体は英雄と称されてもいいだろう」
男の口から出る言葉は先程から滲み出ていた残虐性とは真逆の意見でたり、女神の頭を更に混乱させていく。
「ではなぜ……!」
「言ったであろう、罪は消えないのだ。それを償う時が来たに過ぎない」
男は再度冷徹な顔に戻り、淡々と己の信念に似たものを口にした。
「そういえばまだ俺の名を口にしていなかったな」
「えっ……あっ、はい」
男の唐突な質問に戸惑いながらも女神は頷く。
その頷きを見た
最もそれは名と呼んでいいものか、
「俺の事は『罪を喰らう
「それは名称……ですか?」
「名は捨てている。気にするな。それより早く転生先に飛ばせ」
「はっ、はい!」
女神は慌てて光を男の周りに展開させ、転生の準備をする。
男は前回と同様何処か気難しい顔をしながら転生を待つ。
────本当にこの人は何者なんだろう……?
そんな疑問を浮かべながら女神は光を強め、男を転生させた。
部屋には再び殺風景な景色が広がった。
その瞬間までは────。
「何者か気になる?」
突如、何もない空間から現れた声と女神の肩に置かれた手。
女神は思わず「ヒャ!?」と驚きの声を上げる。
「いいね、いい反応だ。でも俺の前でその反応はやめてくれ?」
突如声は耳元に近付き冷徹味を孕んだ声で言葉を紡いだ。
「犯したくなったらどうしてくれるつもりだ?」
たったの一言であの男とはまた違った恐怖を植え付ける言葉。
本能的に今後ろにいる何者かはあの男と同じ以上に危険な人物だと女神は察知する。
「なんてね!冗談冗談!女神なんて四人ぐらい犯したけど羽が邪魔くさいから嫌い!もぎ取ってもいいならヤるんだけど取れないからさ!女神となんてやらない」
女神の恐怖心を紛らわす為の言葉なのか、それとも更に恐怖を植え付けていると知っていての言葉なのか。
女神は一旦その恐怖心を呑み込み、先程の言葉の意味を問いただす。
「何者なんですか……彼は」
「ん?あぁ、彼ね。自分から質問しといて何だけどまだ答えられないんだ。気になる事は溜めた方が知った時の爽快感凄いじゃん?」
女神の後ろに立つ男は
もっともそれは答えと言っていいものなのかは微妙ではあるが。
「僕は今日君に忠告をしに来たんだ」
再度男の方が耳元に近付き、言葉が羅列していく。
「この事、他の神に言ったらあの男じゃなくて僕がお前を殺すから。いい?」
さらっと吐き出された生命を握る言葉。
女は全身に冷や汗を巡らせた。
実際、この事を上位に位置する神々に伝えればどうにかなると心の何処かで考えていたからである。
「わかりました……」
致し方ないと思い、女神は耳元で静かに響く声に頷いた。
「よろしい、また遭いに来るよ、女神ちゃん」
次の瞬間後ろにいた男の気配は見る影もなく消え、殺風景な部屋に戻っていた。
────私、何かとてつもない事に巻き込まれているのかもしれない。
女神はこの現状に
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