第4話 釈迦に説法、バカ貴族の耳に……

 俺はもとより、この発言に誰もが度肝を抜かされていたそんな状況も、中でも特に驚きの表情を浮かべていたのが、


「お――お、お待ちくださいっ、カーネリア様っ‼ ほ、本日はあくまでも勇者見物の一環の筈だったのではっ⁉」


 そう、誰あろうこのバカ貴族だった。


「それはあくまでも表向きの理由だ。そうでも言わないとお前が首を縦に振るとは思えなかったのでな」

「あ、当たり前ですっ‼」


 てか、おいおい、俺は見世物小屋の魔獣か何かか?


「そ、そもそもそのようなこと……。ど、どこの世界に御自ら最前線に立って、魔王と闘う王女いるというのですかっ⁉」


 あ、その件については全く以って俺も同感だわ。癪ではあるがね……。


「そ、それに、それに……。い、如何に勇者とはいえ、この男はただの平民の出ですぞ!? そのような下賤な出の者に触れ、万一にでもシャルディール王家の血筋が穢れでもしたら何となさいますかっ⁉」


 ‼ あっちゃあ~~、ハイハイ、出た出た出ましたよぉ~~。貴族特有の平民アレルギーってヤツが……。

 全く、どうして貴族共コイツらときたら、こうも平民を毛嫌いするのかねぇ~?

 そもそも世の中、平民がいなくて貴族ばかりだったらテメーらの生活も成り立っていかねーってんだよ、ボケがっ……‼


 一瞬、そんな怒りがチラッと頭をもたげるも、あくまでもそこは冷静に、


「あ~~~、お取込み中のところ申し訳ないけどよぉ~、ちょっといいかいお姫様よぉ?」

「むっ? 何だ、何でも遠慮なく言ってくれ!」


 うっわぁ~、こっちはこっちで何かスッゲー嬉しそうなんですけど……。


「せっかくの申し出なんだけどよぉ、悪いけどそいつは無理な相談だなぁ……」

「ほう、それは何故だ?」

「え? 何故って……。そんなの決まってんだろ? 邪魔だから……」


「「「「「――――(ガーーーネットォオオオオオッ)⁉」」」」」


 俺の歯に衣着せぬ物言いに皆からそんな心の声が漏れ聞こえてきたような中、


「き、きっさまぁあああああああっ‼ 言うに事欠いて、か、カーネリア様に向かって邪魔だとぉおおおおおおおおおおっ‼」


 そんな俺の意見に当の本人ではなく、何故かバカ貴族の方が憤慨してきて……。


「あん? 何でお前がそんなに怒るんだよ? コッチはお前の望み通り断ってやってるんだぜ? 感謝されてお礼に酒を奢るくらいされても、文句を言われることはねーと思うけどなぁ~……」


 と、俺とバカ貴族とのそんなやり取りを見ていたお姫様が、


「――ぷっ、アハハハハハハハ、そうかそうか、邪魔か……♪ アハハハハ、だがな勇者殿……。私もここまで来てしまった以上、今更、ハイ、そうですか、と引き下がるわけにはいかぬのだよ……」

「いやいやいや、そこは引き下がれよ? そもそもアポも取らずにいきなりやってきたのはソッチのくせして何言ってんだ、オメーは? コッチが迷惑だっつってんだからそこは素直に引き下がればいいじゃねーか⁉」


「「「「「「(お、オメーって……。が、ガーネットォオオッ‼)」」」」」


 俺の言動にハラハラしっぱなしの野次馬どもを尻目に、あーだーこーだと頑ななまでに決して自らの主張を譲ろうとしないお姫様にほとほと手を焼いていたいたところ、


「お待ちください、カーネリア様っ‼」


 と、又してもここでバカ貴族の登場である。


「カーネリア様のお気持ちを十二分に理解した上で、あえて諫言させていただきます‼ 正直、私にはこんな男に勇者としての力――。並びにカーネリア様をお護りするだけの力があるとは到底信じられませんっ‼」

「おいおい、人を見かけで判断しちゃ駄目だって学校で教わらなかったのかよ? そもそも、誰も護るなんて一言も言って――」

「――黙れっ‼ 私は今、カーネリア様と大切な話をしているのだっ‼ 貴様のような一平民風情が口を挟むことではないっ‼」


 かぁ~~~、参ったねこりゃあ……。コイツ典型的なバカ貴族だぜ……。


 全く以って取り付く島もない状況に、しばらく成り行きを見守っていたところ――。



「ふむ、フェルナードよ、お前の考えは理解した……。では、どうすればお前は納得するというのだ?」

「ハッ、なれば、この平民と一騎打ちの決闘することをお許し願いたいっ‼」


「ハァッ⁉」

「………………」

「「「「「「――――⁉」」」」」


 ザワザワザワ……。


 バカ貴族の余りに突拍子もない提案に酒場全体が困惑していく。


 お、おいおいおい、何言ってんだ、このバカ貴族は? 一体全体何をどう考えたらその結論に至るってんだよ⁉

 コイツの頭の中、カチ割って覗いてみたいぜ。いや、マジで……。


 余りにぶっ飛んでいるこいつの思考回路についていけず、すっかり固まってしまっていた間も話はドンドン進んでいき、ついには……。



「フゥ~~~、止むを得まい。それでお前の気が済むのならば……。よかろう、その決闘、許可しようではないか」


 ハァアアアアアアアアアアアアアアアアッ⁉


 流石にこれには耳を疑ったね。てか、何もよくねーっての……‼ お前ら、揃いも揃って絶対頭おかしいってっ!? でなかったら、何かあぶねークスリでもやってんじゃねーのかっ⁉


 ここまで黙っていた俺だがコレには当然納得いくはずもなく、声高にもすぐさま口を挟んでいく。


「お、おいおい、お姫様よぉ……。何をテメーらだけで好き勝手に話を進めてんだよっ? 当事者の俺の意見は全く以って無視かよっ⁉」


「黙れ、平民がっ‼ この期に及んで貴様の意思など関係ないっ‼ これは私の誇りの問題なのだ‼」


 ほ、誇りって、お前……。そ、それに、どう考えても関係大ありだろーが……。

 かぁ~~~、だ、駄目だコイツ、てんで話にならねーわ……。


 そんなこんなで当事者の意思を徹底的に無視し続ける形で、事態は思わぬ方向へと突き進んでいく――。


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