2分で読める短編集

十文字心

【土竜の見る夢】

カクヨム誕生祭2020

【お題】四年に一度


土の世界に住む土竜は、神秘の洞窟に四年に一度咲く花の実を食べると地上の世界が見えるようになるという言い伝えを聞き、探しにいきます。食べると土の世界には戻れない…でも地上に出てみたい!土竜の決断は?


※※※※※※※※※※※※※※※※※


私の住む土の国にはとある言い伝えがある。

太陽が苦手な私たちが唯一、地上で自由に

活動できる方法を伝えたとされるもので

それは世界のどこかに神秘の洞窟があり、

その中に四年に一度だけ実をつけ花が咲く

植物が生息している。

その実を食べると地上の景色が自由に見えるようになるというもの。


その話をママに聞いた時、私は興奮した。

地中に住む他の動物達に聞いて、行ってみたいと思っていた外の世界に行けるかもしれない。

私は次の四年後はいつなの?

としつこく聞いてママを困らせた。

困った顔をした後、とても悲しそうな表情を浮かべてママは言った。

"あなたのパパはねその実を探しに行くと

言って二度と帰ってこなかったのよ"と。


でも…ごめんねママ。私はやっぱり我慢できないや。外の世界を見てみたい…土の中で

一生を終わるのはイヤなの。

私は洞窟の場所といつ頃咲くのかを聞くために、一人で土竜の長老に会いに行った。


長老は、咲くのは十日後だと教えてくれた。

そして、こう付け加えた。

"その実は簡単に手に入るが一度食べてしまうと土の世界には二度と戻れない。それでもいいと思うのであれば場所を教えてあげようじゃないか。"

私は考えた。

でも答えがすぐに出るはずもない…

「また明日きますね」と長老に告げて

自分の家に戻ることにした。


家に戻り"どこに行っていたの?"と聞いて

きたママに私はお友達と遊んでたのよと

嘘をついた。それでいいのだ、悲しい思いはまださせない。


その日の夜、私は夢を見た。友達の動物達

から聞いた地上らしき場所の夢。

地上には"色"というものがあるというが、

白黒の世界で生きてきた私には想像もつかない。私はやはり、この夢を完成させたいと思った。

早起きをした私は、ママの大好物の食べ物をとってきて食卓に置き、手紙を書いた。


"ママ、大好きだよ。でもやっぱり、

私はパパの子供みたい。本当にごめんね"


寝ているママにキスをすると、

長老の元へと向かう。

長老は私がくることをわかっていたように

ドアの前で待っていて

"ママのことは任せなさい。"と言って

神秘の洞窟の地図をくれた。


九日間、私は地図を頼りに進み続けた。

そしてやっとたどり着いた神秘の洞窟、ここに四年に一度だけ咲く花と実があるはずだ。

中を見渡すと暗い洞窟の中に一ヶ所だけ、

よく見えないぼやけた場所を発見した。

近づくに連れて見えにくくなるその場所に

手探りで慎重にたどり着く。


近づいてみると、何か生えているようだ。

下からそっと触っていくと丸くて柔らかいものを見つけた。きっとこれが長老の言っていた"実"なのだろう。


私は考えた。もう一度考えた。

これでいいのか?

食べてしまったら二度と、土の中の友達や

ママに会えなくなってしまう。誰も知っている人のいない地上で私は生きていけるのだろうか。すると突然、迷っている私の頭上から何かが話しかけてきた。


「こんにちは、こんなところでどうしたの?

…あなたは何を迷っているの?」


『…、あなたは誰?』


「私は蝶、この花の蜜を吸いにきたの」


『そうなのね、やっぱりここに花が咲いているのね。私は土竜、この実を食べると目が見えるようになって、地上に出れると聞いて探しにきたの。…地上はいいところ?』


「…地上はね、美しいところよ。でもあなたには敵が多すぎるかもしれない。それでもいいの?」


『……この答えはねきっといくら悩んでも見つかるものではないんだよ。だって、行ったことがない場所に行こうとしているのに、いいも悪いも決められるわけないと思わない?でも今、決めた!私はここに辿り着いた。ならこれを食べて地上に出る運命だったんだよ、きっと。私は私の夢を完成させるわ!』


「土竜さん…?面白そうだから、

私がちゃんと見届けてあげるわね」


『ありがとう、蝶さん』


手にしていた実を食べた瞬間、頭の中に今まで見たことのないような感覚が飛び込んできた。これが"色"というものなのか?


「土竜さん、私が見える…?これが、四年に一度だけ実をつけ花を咲かせる神秘の洞窟の"夢の花"」


先ほどまで、ぼんやりとしか見えていなかった場所にある何かから聞こえてくる声。


羽を震わせて、存在を示してくれている

キレイな生き物は黄金に輝く"花"に止まってこちらを見ている。


『蝶さん、やっとあなたが見えました。何て美しい姿をしているんでしょう。あなたに会えただけで、私の中の後悔はなくなりました。よければ地上の世界を少し案内してくれませんか?』


頷くように、"花"から離れた蝶は洞窟の出口にむかってゆっくりと移動していく。


「土竜さん、ここが地上と呼ばれる場所です。覚悟はいいですか?」


いいも悪いも、私に

戻る選択肢は残されていない。

黙って後ろを一瞥すると、

短く土の世界に別れを告げた。

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