第51話 女友達の友達が陽キャすぎる

 穂波ほなみむぎ――

 金色の長い髪と、褐色に見える肌をした、いかにもギャルという女子高生だ。


 見た目を裏切らない陽キャで、周りからは葉月葵に次ぐグループのナンバー2とも言われている。


 泉サラという親友がいて、彼女のほうがナンバー2という話もある。

 グループのメンバーではない湊には、どうでもよすぎる話ではあるが。


「あ、ここ空いてるよ、みなっち」

「み、みなっち?」


 放課後――

 湊はその穂波に誘われて、駅近くのカフェに来ていた。


 チェーンのカフェで、学校帰りの男女の姿が多い。

 湊たちと同じ制服の高校生も数人いるが、顔見知りはいないようだ。


 穂波はよくわからない名前の飲み物を頼み、湊はシンプルにアイスカフェオレを頼んだ。

 こういうチェーン店では、無難な品を頼むのが湊の生き方だった。


「それで……穂波さん」

「さ、さぁん? おいおい、みなっち、クラスメイトにさん付けはないでしょ。穂波、でいいよ。麦ちゃんでもいいけど」

「じゃ、じゃあ穂波……」


 湊は基本的にクラスの女子はさん付けだ。

 葉月や瀬里奈も、最初はそうだった。


「はー、美味しー。夏はやっぱキンキンに冷えたこれがサイコー♡」

「そ、そうか」


 なんだか、褐色肌の穂波がストローで飲み物をすすってるだけで妙にエロい。


 穂波は染めた金髪を長く伸ばし、片側だけ結んでいる。

 ブラウスはピンクでニットなどは着ずに、ネクタイも無しで前をはだけている。


 はだけたブラウスの隙間からは、レースの白いブラジャーがちらちら見えている。

 胸は瀬里奈より少し大きい程度――Eカップくらいだろうか。


 スカートはもう限界まで短くしていて、椅子に座った組んだ足の付け根が見えてしまいそうだ。


 湊の女友達の誰とも違う、異様にエロい少女だった。


 と、湊は思わず穂波を舐め回すようにして見ていることに気づき、気を取り直す。


「穂波、いったいなんでまた俺を? しかも葉月にも内緒だとか……」

「葵がいると、話がややこしくなるしぃ。つか、女子と二人きりのほうが嬉しいでしょ?」

「そ、そうかな……」


 湊は、どちらかというと二人のほうが緊張する。

 葉月たち女友達ならまったくそんなことはないが。


 ただ、自分でもたまに忘れそうになるが、湊は基本的に陰キャだ。

 クラスの女子――しかも陽キャグループの女子には苦手意識がある。


「つーか、だいたいなんで俺のラインIDを知ってたんだ?」

「え? ほら、去年の夏くらいにウチらのグループで遊んでたじゃん、みなっち。そのときに交換したってば」

「そ、そうだったかな」


 確かに湊は、去年の夏は葉月に引っ張り回され、彼女のグループでの遊びにも何度か参加した。

 まったく気が合わなかったので、湊はすぐにグループでの遊びには参加しなくなったが。


 ただ、確かにその頃に穂波ともそれなりに話をしていた気がする。

 連絡先の交換くらいしていても不思議はない。


 ということは、湊のほうでも穂波のIDを登録していたはずだ。

 普段、限られた相手としかやり取りをしないのですっかり忘れていたらしい。


「あ、麦と会ったことは葵には内緒ね。変な誤解もされたくないしねぇ」

「誤解……?」

「麦は、友達とオトコ取り合う趣味はないから♡」

「穂波が既に誤解してるぞ!」


 湊は危うく飲み物を噴いてしまうところだった。

 むせそうになりつつ、気を取り直す。


「あのさ、俺は葉月と付き合ってないから」

「うっそーん。瀬里奈ちゃんと付き合ってるフリして、実は葵と付き合ってたんじゃないの?」

「ち、違うって」


 瀬里奈と付き合ってる、とも言えない。

 確かに以前、女友達との関係をごまかすために瀬里奈と付き合うフリをしていたが――


 今はもうフリはやめたし、自分から“瀬里奈と付き合ってる”と大嘘をつくのもはばかられる。


「それがガチなら、普通の彼氏彼女よりイチャラブしててやべぇーんだけど」

「べ、別にイチャラブなんて」


「でも、葵とヤってんでしょ?」

「ぶっ!?」


 今度こそ、湊はアイスカフェオレを噴いてしまう。


「おいおい、危なく麦がぶっかけくらうところだったよ。ほら、これで拭いて」

「あ、ああ、どうも……」


 湊は穂波が差し出してくれたナプキンを受け取り、口を拭いた。


「ヤ、ヤってるって……」

「いんや、葵はそんなこと断言してないけどね。でも、けっこうみなっちの話をするし、“友達の話”ってフリで、エロ話もしてるから」

「…………」


 なにをやってるんだ、葉月のヤツは。


 と思いつつも、あれだけ毎日ヤりまくっていれば、つい口に出てしまうこともあるかもしれない。

 穂波にバレたのは、葉月一人の責任とは言えない。


 さすがに、瀬里奈、葵や朝日奈姉妹にもヤらせてもらっていることまではバレていないようだが……。


「ああ、気づいてるのは麦とサララくらいのもんだから。安心していいよ」

「泉さんにもバレてんのか……」


 ますますヤバい、と湊は背中に嫌な汗をかいてしまう。

 サララ、というのは泉サラのことだろう。


 泉サラも金髪――ただし、こちらはハーフで金色の髪も地毛らしい。

 もちろんサラも陽キャ――葉月や穂波以上に明るいくらいだ。


 葉月との関係が、一人に知られるのと二人に知られるのではまるで違う。

 それでなくても、穂波も泉も情報拡散力の高そうな二人だ。


「あ、つーか、やっぱヤってるんだ?」

「…………っ!」


 俺もなにをやってるんだ!?


 湊は、つい自分から認めてしまったことに気づいた。

 もう今さらごまかしもきかない。


「あ、あのさ。その……でも、葉月とはあくまで友達なんだよ」

「セフレってこと?」

「それも違うって!」


 いつだったか、茜にも同じ質問をされたことを思い出す。

 セフレなんて、そんなただれた関係ではない。


「と、とにかく、葉月とは友達なんだよ」

「ふぅーん。友達、ねえ」


 穂波は、ずずーっと飲み物をすすって。


「でもさ、麦とみなっちも友達じゃん? あんだけ遊んだんだし?」

「そんなに何度も遊んだっけか……」


「その友達として訊くけど、葵となんかあったっしょ?」

「…………」


「ここんとこ、葵、全然元気ねーし。あからさまにため息とかついてるし。こりゃ、みなっちとなんかあったな――としかねー」

「それで俺を呼び出したわけか……」


「それだけでもないけどね。つーか、まあ……葵と上手くいってないなら、麦にもできることがあるかなって」

「ん? いや、それは難しいんじゃないか?」


 湊が葉月たち女友達と上手くいっていないのは事実だ。


 毎日おっぱいを吸い、パンツを見せてもらってはいるが、以前のように毎日五回以上ヤらせてもらっているわけではない。


 これだけ習慣が大きく変われば、葉月の様子もおかしくなって当然だ。


 おそらく、葉月の友人たちの力を借りてもどうにかなることでもない。


「実はさ、麦ってサララとルームシェアしてるんだよね」

「なんだ、急に話が飛んだな。ルームシェア?」


 湊も一時期葉月家に――今も半分くらいは葉月家に住んでいるようなものだが。


「そ。あ、家出したとかじゃないよん。ちゃんと親の許可ももらった上で、二人で住んでんの」

「高校生でルームシェアは相当珍しくないか?」


「ウチとサララの家って、親同士も知り合いでねぇ。ちょっとした事情があって、娘二人で暮らすことになったんだよ」

「まあ、許可がなくても俺がどうこう言うことじゃないが……」


「そんでね、サララって、ちょいちょい外で泊まってくることあるんだよね」

「へぇ……」


 そう言われても、湊には特に意外ではない。

 偏見なのはわかっているが、泉サラはいかにも外泊をしそうなキャラだ。


「今日も帰ってこない日なんだけど……みなっち、ウチに来ない?」

「は……?」


 と、湊がぽかんとしたのと同時に。

 穂波は、すっと身を乗り出して湊の耳に顔を寄せ――


「パンツくらいなら、見せてあげるからさ♡」

「…………っ!」


 穂波はやたらと色っぽくささやくと、ぺろりと湊の耳を撫でた。


 今さら気づいたが、穂波はやたらと通る良い声の持ち主だ。

 耳元でささやかれただけで、ゾクリとするほどに。


「なんなら、それ以上も――だからさ、ウチ来てよ♡」


 それが、湊と葉月の関係を元通りにするための、“穂波にできること”なのだろうか。

 湊には意味がさっぱりわからない。


 だが――

 穂波の誘いを断れるのかどうか。

 その答えは、彼女の良い声を聞いてしまった今では、はっきりわかっている。

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