第44話 四人目と五人目はこだわらない

「朝日、ひぃな――いや、あかり、ひかり。俺はおまえたち二人と友達として仲良くしていきたい」

「りょ」

「把握」



「……え?」

「えっ、て。わかったよーって言ったんだよ」

「ボクらも、トナミはそう言うと思ってましたしねっ」


 どうやら、先日の妄想のせいで幻聴が聞こえたらしい。

 だが、双子が言ったことは幻聴と大差なかったようだ。


 ある日の放課後、朝日奈姉妹の部屋。

 今も双子で同じ部屋を使っていて、部屋には大きなベッドがあり、二人でここで寝ているらしい。


 湊は今日はそのベッドの上ではなく、部屋の真ん中にあるテーブルの前にいる。

 テーブルにはキーボードとマウス。


「私たちの告白が受け入れられたら、トナミくんと葉月さんたちの関係も変えちゃいそうだしねー」

「こんな仲のいい友達グループを空中分解させたら、寝覚めが悪いですねっ」


「……おまえら、それでいいのか?」


 確かに、もしも湊が双子のどちらかと付き合い始めたら――

 葉月、瀬里奈、茜との関係も今までどおりにはいかないだろう。


『会長に悪いわ』


 いつかの悪夢で聞いた、茜の台詞を思い出す。

 もしも湊が誰かと付き合い始めたら、女友達との遊びも終わってしまうだろう。


「もちろん、全然問題ないわけじゃないけどねー。告白って無理に受け入れさせるもんじゃないよー」

「ボクもお姉ちゃんも告ったのなんて初めてですけど、初告白が後味の悪いものになっちゃ嫌ですしねっ」


「…………悪い」


 告白を断って謝罪するなんて、俺は何様だろう。


 湊はそんなことを思いつつ、自分が告ったときはどうだったか思い出す。

 梓琴音に告ったとき、彼女は別に謝罪はしなかった――


 湊よりも梓のほうが告白されることに慣れていて、どういう言葉をかけるべきかわかっているのだろう。


「……一つ訊いてもいいか?」

 失言ついで、というわけでもないが、湊には気になっていることがあった。


「ぶっちゃけ、どうして俺なんかが好きなんだ?」


「本当にぶっちゃけてきたねー」

「訊くほうも恥ずかしいでしょうけど、こっちも照れくさいですねっ」


「まあ、なんていうかねー……そりゃ、葉月葵に瀬里奈瑠伽、茜沙由香なんて三人の美少女とお友達になれる男の子なんて普通じゃないよねー?」

「ん? 待て、あの三人と友達になったっていうのが理由なのか?」


「ボクは動画でトナミくんを観ただけでしたけど、普通っぽい人なのにあんな可愛い女の子たちと仲良くなれるなんて、実は普通じゃないーって感じましたよっ」


「それに、なによりー」

「それに、なによりですね」


「トナミくんとゲームしてて楽しかったからー」

「ボイチャで人を好きになるのって変ですか?」


「……いや、その理由が一番納得できるかも」

 湊は、思わず笑ってしまいそうになるほど、腑に落ちる理由だった。


 確かに、湊も双子とのゲームは楽しかった。


 いや、サンライザーという一人のプレイヤーだと思っていたが。

 オフラインで会ってみても、彼女たちへの友人としての好意には変わらなかった。


 湊もサンライザーのことは好きだった。

 彼女たちも同じように湊を好きになってくれて――その上、二人は湊と葉月たちの関係を知っていたから。


 だから、異性という意味でも好きになってくれた――らしい。


「そういうわけだから、もう気にしないでー」

「それより、こっちの作業の続きをしましょうっ」

「……そうだな」


 テーブルの上にはキーボードとマウス。

 その二つの入力装置は、壁際に置いた24インチモニター横のデスクトップPCに繋がっている。


「まあ、自作じゃなくてBTOだから配線繋ぐだけなんだけどな」


 大手のPCショップの通販で、パーツを選んで購入したものだ。

 双子は貯金を合わせて、このデスクトップPCを買ったらしい。


「私、ノートPCは使ったことあるけど、デスクトップは初めてだからー。トナミくんにやってもらって助かったよ」

「瀬里奈のほうがずっと得意だけどな」

「一緒にゲームを遊ぶのはトナミですからっ。トナミにやってもらいたいんですよっ」


 テーブルの前でマウスとキーボードを操作する湊の横に、双子が寄り添ってくる。

 Hカップのおっぱいが湊の腕に押しつけられ、ぷるんと柔らかい感触が伝わってくる。


「……つーか、マジで二人もPC版に移るのか?」

「トナミくんも、シュオッチはファンスレやって、レジェンディスはPCに戻るんでしょー?」


「ボクらも猛者が多いPC版にそろそろ挑戦したかったですからっ」


「操作はコントローラーじゃなくてマウスとキーボードだし、別物だぞ?」


「また始めからレジェンディスを遊べるとかワクワクしますねっ」

「まあ……いよいよ、ツーマンセルがPC版にも実装されるしな」


 シュオッチ版のみだった二人一組で戦うツーマンセルモードが、数日後にPC版でも遊べるようになる。


 ツーマンセルをメインで遊んでいた双子も、PC版に移行しても問題なくなったわけだ。


「トナミ、これからもよろしくねー♡」

「敵として戦うときは容赦しませんからねっ♡」

「ああ……」


 シュオッチ版と同じようにサンライザーとコンビを組んで戦っていくのだろう。


 あるいは、朝日とひぃなのコンビを敵に回すこともあるかもしれない。

 朝日が自前のノートPCを持っていて、レジェンディスが動作することも確認済みだ。


「ま、悪いがおまえらと戦うときは俺が勝たせてもらうけどな! 瀬里奈にあっさり負けまくってプライドへし折られてるんだ、これ以上負けてられねぇ!」


「うおー、PC版初心者の私たちにマウント取ろうとしてるよー」

「トナミのそういうトコも、好きですけどね♡ あ、好きとか言っちゃいけないんでしたっけ♡」


「……言う分には別に」


 とはいったものの、盤外戦術で揺さぶりをかけられては困る。

 湊は、朝日奈姉妹の言葉責めに耐えられるよう、精神修行を積んだほうがよさそうだ。


「あ、そうだ。トナミくん。ちょっと一つ、言っておくことがあるんだったー」

「ん? なんだ、朝日?」


「実はね……」



「んっ、はっ、んんっ……♡」

「こ、こらぁ……瑠伽のおっぱいばっか……ほらぁ、キスもしてよ♡」


「あ、ああ」


 その日の夜、葉月の自室。

 ベッドの上で、湊は瀬里奈の胸に顔を埋めつつ、葉月に抱きつかれている。


 今日は瀬里奈の予備校が休みで、葉月の家に泊まりに来ているのだ。


「そ、それで? 朝日の話ってなんだったの? んっ、ちゅ♡ んん……♡」

「それなんだけどな……」


 湊は今度は葉月とキスしながら、答える。


「さすがに俺と葉月、瀬里奈と茜の関係が周りで疑われてるらしい」


「う、疑われているんですか? どういう疑惑が……?」


 瀬里奈は、不思議そうな顔をする。


「たまに一緒に学校サボったりもしてるし、付き合ってるんじゃないかって。ただ、俺が葉月と瀬里奈と茜、どの女の子と付き合ってるのかが謎らしい」


「な、謎って……別に誰とも付き合ってないでしょ? んっ、ちゅっ、んん……」


「そうなんだが、周りから疑われてもおかしくはないわな」


「そ、そうですね……あんっ♡ あ、私もキスしてください……♡」

「あ、ああ」

「んっ、ちゅっ、んむむ……♡ はぁ、もっと舌、強く吸ってください……♡」


 湊は、瀬里奈の華奢な身体を抱き寄せながら、激しく唇を重ねていく。


「ふぅ……ああ、葉月のGカップももっと……」

「この贅沢男め♡ ま、いいけど」


「これから、朝日と――場合によってはひぃなとのこともウチの生徒にバレるかもしれない。そうなると、ますます周りから変な目で見られるだろ?」

「お、お友達なんですけどね……」


「ま、そうは見えないのはわかるかな。この遊びのことも周りには言えないし。あー、けど、穂波と泉もちょっと疑ってたかな」

「やべぇな、それ」


 穂波と泉は、葉月の陽キャグループでも特に派手な美人たちだ。

 交友関係も広く、あの二人が噂を広め始めたら、あっという間に校内中に知れ渡ってしまう。


「なにより一番まずいのは、俺と五人の女子が付き合ってるハーレム状態……なんて疑われることらしい」


 湊は問題点を整理し、重要なポイントを導き出している。


「それで……生徒会長としては『校内女子四人と男子生徒一人が付き合ってる』なんて風紀の乱れは見逃せないとか」


「その女子の一人は自分じゃん。んっ、はむっ……♡」


「んんっ♡ だからこそまずい……というお話でしょうか」


「そうだな。一応、朝日は生徒会長なんだし、沙由香だって役員なんだしな」


「だったら、どうすりゃいいのよ? 湊もあたしらも、普通に友達と付き合って、遊んでるだけなのに。んっ、もうっ、今日も興奮しすぎよ、あんた♡」


「わ、悪い……昼間、朝日とひぃなにも結局二回ずつヤらせてもらって、ダブルでしゃぶってもらってそっちも二回出してきたのにな」


「ちょっと待った。あんた、あの二人を振っておいて、ちゃっかりヤらせてもらってきたの?」


「い、いや、いつものように向こうが『ヤってほしい』って言ってきたんだよ」


「あの二人は『ヤらせてあげる』じゃなくて『ヤってほしい』なのは変わんないのね。いや、それはいいけど……こっちは問題よね」


「別に私たちに後ろめたいことは……なくはないですけど、あんっ♡ 毎日おっぱい吸われて、お口でしゃぶって、生でOKしてるだけなのに……♡」

「だよなあ……うおっ、ちょっと限界だ……!」


 とりあえず、二人とのキスとおっぱいを楽しんでから、最後まで終えて――


「……もう、また凄いんだから……あ、瑠伽のほうに多めに行ってない?」

「そ、そんなことは……葉月さんの胸にもいっぱいですよね……?」


「うっ……こいつ、あたしのおっぱいが好きすぎるからね……♡」

「別に、どっちかを狙ったわけじゃねぇんだけどな……」


 ひとまず、葉月たちには後始末をしてもらってから――


「ま、答えは簡単でしょ。


「芝居? 葉月、どういうことだ?」

「簡単だってば♡」


 ちゅっ、と葉月がキスしてくる。



「は……?」

「だ、誰か一人って……確かにアリかもしれませんけど」


 ちゅ、ちゅっと瀬里奈も争うようにキスしてくる。


「どなたにするんですか? やっぱり葵さ――」


「それは瑠伽に決まってるでしょ。ほら、湊、もっと舌伸ばして……んっ、ちゅっ、んん♡」


「え、私ですか……? んっ、ちゅっ、んんっ♡」


 湊と、葉月と瀬里奈、三人で舌を伸ばして互いに絡め合っている。

 三人での濃厚なキスを交わしつつ――


「ど、どうして私なんですか?」

「さあね……ま、誰でもいいからじゃない?」

「…………」


 ちらり、と一瞬だけ葉月が意味ありげな目を湊に向けてきた。

 瀬里奈は気づかなかったようだが、湊はその視線の意味を知っている。


「でも、あたしだと目立ちすぎるし、茜と会長は別のクラスで接点少ないし。瑠伽がちょうどよくない?」

「な、なるほど……私は地味で目立ちませんしね」


 絶世の黒髪美少女が、自覚に欠けることを言っているのはともかく。

 あっさりと瀬里奈自身は葉月に丸め込まれたらしい。


 湊も、特に反論はない。

 葉月の作戦はありがちだが、効果的とも言えるだろう。


 だが、少しだけ――湊は葉月が瀬里奈を選んだ理由に思うところがなくもない。


 瀬里奈と付き合うフリをしつつ、以前に決めたとおりに一人に集中的にヤらせてもらい、二人かもしくは三人ともヤらせてもらう。


 湊と五人の女友達との関係は、また少し変わっていくようだ。

 ただ――本当にそれでいいのか、湊にはまだ迷いがある。

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