第43話 一人目はやはり特別らしい

「俺は、もし付き合うなら――って決めてる相手がいる。だから、朝日、ひぃな――いや、朝日奈あかり、朝日奈ひかり。おまえたちとは付き合えない」

「りょ」

「把握」



「でも、友達だからねー。いつでも、私たち双子の身体、セットで使っていいよー♡」

「ボクたち自慢のおっぱいも、お尻も、どこだって……好きにしてくださいねっ♡」




「……って、わけにはいかねぇよな」

「馬鹿じゃないの、湊」


 とある平日の夜、湊の自室。

 父親が出張中のため、夜になっても葉月は湊家で遊んでいる。


「っと、よっしゃー、超鱗ちょうりん出たよ!」

「げ、マジかよ。くっそ、こっちはお目当ての牙すら一つも出てねぇ」


「はっはっは、日頃の行いだね、湊。ちなみにあたし、牙も三つ出たよ」

「……そろそろ、このゲームも素材の交換させてほしいよな」


 湊と葉月は、『ファンタジースレイヤー』略して『ファンスレ』をプレイ中だ。


 ファンスレの発売は去年の秋だが、数ヶ月経った数日前、大型アップデートがあったのだ。


 湊は自分のベッドにもたれ、葉月は湊のベッドにうつ伏せに寝転んでいる。

 二人とも携帯型シュオッチを手に、遊んでいるところだ。


「じゃ、もう一周行ってみる?」

「当然。超鱗が出るまでやめらんねぇ」


「ムキになると欲望センサーが発動しちゃうよ、湊?」

「発売当時はなにも知らなかった葉月も、ファンスレ用語までしっかり覚えたな」


「そりゃ、これでシーズン3だからね。あたしもけっこうやりこんでるし、ウチのグループでも長続きしてんだよね」

「陽キャグループで、こんなやりこみ系ゲームのブームが続くとはな」


「ゲーム好きなヤツ、何人かいるんだよ。穂波と泉なんて、実は前作も死ぬほど遊んでたんだって」

「へぇ、穂波さんと泉さんが……」


 湊もその二人のことは知っている。

 1年、2年で同じクラスで、葉月の陽キャグループに属しているギャルたちだ。

 穂波は金髪で褐色肌、泉はハーフで地毛が金髪という、派手で美人な二人だ。


「あの二人、全然ゲーマーには見えねぇな」

「ソシャゲをやるヤツは多いけど、こういうゲームをやりこんでるとは、あたしも思ってなかったね」

「友達といっても、知らないことは多いってわけだな」


 おそらく、葉月にも湊が知らない顔があるのだろう。


「つっても、あたしには双子があっさり引き下がるほど物わかりがいいとは思えないね」


「今のところ、引き下がってくれてるけどな」


「そもそも、湊のなにが気に入ったんだろうね? ゲーム上手いから?」

「そんな理由で――いや、好きになる理由なんて他人にはわからんが」


 自分で言っておいてなんだが、「好き」とか照れてしまう話だった。


「ちょっと、ちょっと、湊。先に行きすぎ! ガンナーなんだから、一発くらったら乙るよ!」

「はんっ、まだまだ葉月に心配されるほど落ちぶれちゃいねぇよ」


「ほー、あたしが盾になってるから、遠くからコソコソ撃ててるくせに」

「ガンナーってそういうもんだろ。ま、葉月の身体を徹底的に利用させてもらうか」


「あたし、ゲームでも湊に好きに使われちゃってるのかー」

「っと、モンスター来た来た! うわ、でけぇ! 最大サイズじゃねぇの、これ!」


「あたしも着いたー。うげっ、マジでかいっ! 脚狙って転ばすよ!」

「了解!」


 武器は湊がライトガン、葉月がバトルアックスだ。

 標的は、翼の生えたイノシシ型のモンスターで、葉月は足元に張り付いて斬りつけ、湊は遠距離から同じく脚を狙い撃つ。


「でも実際、上手くなってんな、葉月。シーズン3新登場のモンスターとも普通に戦えてるし」

「でしょでしょ♪ って、うわぁぁぁっ!」


 葉月が操作するキャラが突進を食らって吹っ飛んでいく。


「……調子に乗るもんじゃねぇな」


「うっさいよ。ああん、もうっ、移動しやがったー! こいつ、めっちゃ遠くのエリアまで移動するのがダルいよね」

「まあ、これでプレイヤーも一息つけるだろ。あー、なんか尻が痛くなってきた」


「湊もベッドに寝転がったら? ほら、場所空けてあげるから」

「俺のベッドだよ。ま、そうするか」


 ベッドにうつ伏せに寝転がって遊んでいた葉月が、少し横に移動してくれた。

 湊はベッドに上がり、ころんと寝転ぶ。


「……って、こら。湊、なにしてんの?」

「いや、いい枕だな」


「あたしのお尻を枕に……あんっ♡ も、もぞもぞするなぁ♡」


 湊は葉月の制服のミニスカートをめくり、ピンクのパンツをあらわにした。

 そのパンツ越しに、柔らかい尻に頭を載せて、仰向けに転がっている。


「あー、ふにゃふにゃしてけっこういいかもな」

「ちょ、ちょっと、気が散るんだけど! あんっ、お尻にちゅーするな!♡」


「うーん、たまにはゲームで遊びながら葉月の身体を楽しませてもらうのもいいな」

「か、身体は好きにしていいけど、乙っちゃうじゃん……ああんっ♡」


 湊は、葉月の尻に顔を当てつつ――


「なんでそんなことしながら……んっ♡ ゲームできんのっ♡」

「そりゃ、ゲーマーとしての年季が違うっつーの」


「も、もうっ♡ 乙らないように、ちゃんとサポートしてよ?♡」

「わかってる、わかってる」


 湊は戦闘を再開する。

 葉月もモンスターの移動先に到着し、攻撃を開始しているがさっきより動きは乱れている。


「この程度でテンパるとは、まだまだだな、葉月」

「馬鹿言ってないで、お尻ちょっと――あっ!? 湊、なにしてんの!?」

「しまった……」


 湊は、モンスターの予備動作を見逃してしまい、空中からの突進をまともにくらってしまった。


 ガンナーは防御力が弱いので、その一撃で体力をゼロまで削られてしまう。


「ばーかばーか、調子に乗るから!」

「くっそー……」


 湊の操作キャラはスタート地点に戻されてしまった。


「って、ディスってる場合じゃない! 湊、早く戻ってきて! あたし一人じゃやられちゃう!」

「わかってるって。オート移動するから、しばらく頑張ってくれ」


 ファンスレ最新作では、味方がいる地点まで自動的に移動できる機能がある。

 あちこちにいる雑魚モンスターを避けつつ、最短距離を選んでくれるので、楽なものだ。


「…………」

「やんっ! 来るな来るなーっ! 湊がいないとあたしだけじゃ無理だよ!」


 葉月はうつ伏せのまま、スカートをめくられたまま、無意識に尻をわずかに振りつつ、プレイ中だ。


「まだスカートめくってるし……きょ、今日はヤらずにゲームに集中するって話じゃなかったっけ?」

「まあ、夕方までに瀬里奈と沙由香にヤらせてもらってきたからなあ」


 まだ細かいローテーションは決まっていない。

 とりあえず、今日は放課後は湊の家で瀬里奈と茜にヤらせてもらった。


「ちなみに……ど、どんだけヤってきたの?」

「瀬里奈はいつもどおり無しでそのまま三回かな。茜は着けて二回、無しで一回か」


「最近、茜も普通に生OKになってきてるよね……あんっ、お尻、鷲掴みにするのは……ダメっ♡」


 葉月は可愛い声を上げている。


「あのさあ……朝日奈姉妹のこと、ちょっと避けてない?」

「お、一昨日は双子にヤらせてもらっただろ」

 湊は動揺を抑えつつ答える。


「一昨日は、あたしも一緒だったじゃん。結局、4ピーしてるじゃん」

「五人全員とヤるのは極力避けるだけで、三人にヤらせてもらえるのは問題なくてだな……」


「うっそくさい……あっ、やっと来た!」

「と、とりあえず倒すぞ!」


 湊は、シュオッチを持ち直す。


「それでさあ、湊。結局、どうするつもりなわけ?」

「どうするって……」


「双子がなんで湊を好きなのかは、まあどうでもいいよ。けど、あの二人はあんたのこと好きって言ってる以上は、友達とは言い切れないわけじゃん?」

「そうなるかな……」


「どうしたいか、湊が決めるしかないんだよ」

「…………」


 もちろん、それは湊もよくわかっている。

 双子が返事をせかしてくることはないが、いつまでも放っておけない。


「でも、湊。双子にはこれからもヤらせてもらいたいんだよね?」

「そりゃそうだろ。Hカップでおっぱいすげぇし……形も大きさも同じ尻が並んでるのとか、感動するぞ」


「だったら、さっき言ってたみたいに一度フって、女友達として付き合って、ヤらせてもらえばいいんじゃない?」

「……それでいいんだろうか」


「付き合いたい相手がいるっていうのもホント――っと、これは忘れるんだったね。ごめん」

「……いや、先に蒸し返したのは俺だしな――って、やった!」

「やったー!」


 葉月のアックスの一撃がモンスターの頭に直撃し、討伐クエスト達成のBGMが流れる。


「しかも、超鱗出た! これで素材揃ったー!」

「やったね、湊!♡ んっ、ちゅっ、はむっ……」


 湊と葉月はベッドの上で身体を起こして抱き合い、キスする。

 こうやって、ゲームで勝ち、キスして喜び合えるのも女友達だからだ。


 カノジョ相手に、こんなに無邪気にキスしたり身体を求め合ったりできるのだろうか?


「んっ、ちゅうっ、んんっ……んっ♡ あんっ、こらあ……そんなに慌てなくても……♡」

「ちょ、ちょっと一回だけ……一回だけヤらせてくれ。そのあと、次のクエスト行こう」


「つーか、絶対、一回じゃ終わらないくせに♡ ま、いいよ。一回でも二回でも、朝まででも♡」

「さ、三回くらいで済ませるようにするって」


「もうー、ホントかなあ?♡」

 ちゅっ、と軽くキスしてくる葉月。


「まあ、でもさあ……朝日とひぃなのことは言うだけ言ってみたら? あいつら、友達なんだし言ってみればわかってくれるかもよ?」


「付き合うことはできないけど、友達として仲良くして、これまでどおり毎日ヤらせてくれって……いいんだろうか」


「これからは、五人とか四人じゃなくて、双子にだけヤらせてもらう日も増えるでしょ。だったら、いいんじゃない?」


「そうか……」


 湊は葉月を膝に載せて、抱きしめながら頷く。

 それから、葉月とキスしつつ、もう一度スカートをめくり直す。


「今のところ、俺はカノジョよりも女友達と遊んでるほうが楽しいんだよな」


「うん、あたしも……湊にカノジョができて、遊びにくくなったら困るし。それは、瑠伽も茜も一緒だよ。だから……双子に言ってみようよ」

「ああ……」


 とりあえず、葉月とは今夜も絶対に三回では済まないなと湊は確信しつつ。


 四人目と五人目の女友達を大事にする――

 その選択肢は、あの二人の告白を断ることと同じでもあると気づいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る